第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0733] 弁膜症術後症例におけるリハビリテーション経過と運動耐容能の推移について

―高齢者における特徴―

花房祐輔1, 外山洋平1, 西元淳司1, 樋田あゆみ1, 内田龍制2, 高橋秀寿2, 牧田茂2 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーション科)

キーワード:心臓外科術後, 運動耐容能, 高齢者

【はじめに】
弁膜症術後症例は,術前からの罹病期間に応じた活動量低下,それに伴う術後活動制限による運動耐容能の低下が懸念され,術後のリハビリテーション(以下リハ)に影響を及ぼす可能性が考えられる。近年,医療技術の進歩に伴い手術の低侵襲化,術後管理の進歩により,弁膜症に対する手術適応年齢も高まっていることから,年齢が術後の回復に及ぼす影響について検討することは重要であると考えられる。
そこで今回は,弁膜症術後症例のリハ進行経過,運動耐容能に及ぼす年代の影響について検討することとした。
【対象】
2007年5月~2014年10月までに弁膜症に対し当院で手術施行され,術後入院中に心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test;CPX)を実施し,さらに3ヶ月後に再度CPXが行えた77例(大動脈弁弁膜症術後20例,僧帽弁弁膜症術後45例,連合弁膜症術後12例,年齢:63±10歳)とした。
【方法】
対象を年代別に70歳未満を若年・壮年群(n=56,58±8歳),70歳以上を高齢群(n=21,74±3歳)の2群に分類した。術前NYHA心機能分類,術前,退院前,術後3ヶ月後の心機能(LVEF,LVDd/Ds,E/e’),術中所見(手術時間,麻酔時間,大動脈遮断時間,人工心肺時間,出血量),リハ進行経過(離床開始,歩行練習開始,歩行100m自立,退院日)を診療録から後方視的に調査した。
CPXは入院中および,術後3ヶ月後に外来で自転車エルゴメータを用いたramp負荷(20W/分)にて実施し,最高酸素摂取量(PeakVO2/kg),酸素脈(VO2/HR),⊿VO2/⊿WR,Peakwatt,VE-VCO2 slopeを測定し運動耐容能の推移について検討した。統計処理としては,若年・壮年群と高齢群の比較には対応のないt検定,x2検定を用い,運動耐容能の推移の比較には分散分析を行い,いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
各項目を年代別に比較すると,術前NYHA心機能分類,術中所見,心機能では両群間に差は認められなかった。入院中のリハ進行経過においても,離床開始,歩行練習開始時期には差は認められなかったものの,歩行100m自立に至るまでの日数で,高齢群の方が若年・壮年群と比べ有意に遅延する傾向が認められた(若年・壮年群4.8±1.3病日vs高齢群6.3±3.3病日,p<0.01)。入院中CPX実施までの日数は高齢群で有意に遅延が認められた(若年・壮年群10.3±3.4病日vs 12.6±4.8病日,p<0.05)。運動耐容能の推移についてみると,PeakVO2/kg(入院中→術後3ヶ月)では若年・壮年群で14.3±3.2→18.6±5.0ml/kg/min,高齢群で11.4±1.7→15.1±3.4ml/kg/minであり,若年・壮年群,高齢群ともに有意に改善傾向にあったものの(p<0.01),入院中,術後3ヶ月のどちらの時点でも高齢群の方が,若年・壮年群よりも有意に低い値を示し(p<0.01),これと同様の傾向がVO2/HR,Peakwattでも認められた。⊿VO2/⊿WRでは,入院中には高齢群が若年・壮年群よりも低値であり,両群で有意な改善を示した点は他の項目と同様であったが(若年・壮年群8.8±1.8 vs高齢群6.8±1.5 ml/min/w,p<0.01),術後3ヶ月では両群間に有意な差が認められなかった(若年・壮年群9.4±1.3vs高齢群8.8±1.6 ml/min/w,ns)。
【考察】
⊿VO2/⊿WRは,その他のCPX項目と比べ加齢そのものの影響は少ないとされ,心疾患により運動中の心拍出量増加の程度が末梢の酸素需要に比して不足している場合に低値を示すことが知られている。このため,⊿VO2/⊿WRの低下は運動負荷中の酸素負債の増大を反映するといわれている。
本研究では,術後2週間程度における⊿VO2/⊿WRは高齢群では若年・壮年群よりも低い値を示し,弁膜症術後であっても末梢における酸素需要・供給のバランスが阻害された状態であることが示された。このことから,高齢群では運動療法中の酸素負債の増加に考慮した運動量の設定が必要であると考えられた。しかし,術後3ヶ月後では,高齢群も若年・壮年群と同様の値まで改善が認められたことから,退院後には運動療法に対する効果がより高まる可能性が示唆された。そのため,高齢群においては,術後早期における即時的な運動療法介入効果のみで判断することなく,長期的なフォローアップを行うことが重要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
高齢弁膜症術後症例における入院中,退院後の運動耐容能の推移の特徴について,若年・壮年者との比較により検討を行った。近年増加する高齢弁膜症術後症例に対する運動療法導入法検討の一助となると考える。