第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

循環1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0736] 急性大動脈解離患者における手術前後での身体活動量の推移の特徴

外山洋平1, 花房祐輔1, 西元淳司1, 内田龍制2, 高橋秀寿2, 牧田茂2 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーション科)

Keywords:大動脈解離, 身体活動量, 術後

【はじめに,目的】近年,急性大動脈解離(AAD)に対する手術件数は増加しており,手術手技を含めた医療技術の向上や術後管理の進歩に伴い入院死亡率は減少している。しかし術後には,手術部以外の再解離や解離進行など,不安定な病態を持つことが特徴であり,術後及び退院後の予後改善や合併症予防は重要である。AAD患者の予後規定因子としては,ulcerlike projection(ULP)の有無や大動脈径,偽腔開存の有無などがこれまでに報告されており,様々な要因が関与していると考えられている。心臓外科術後の身体活動量(PA)に関しては,近年報告が散見され,高齢心大血管疾患手術患者における身体活動量の維持は心血管イベント発症の軽減に関与することも報告されている。AAD術後患者では術後のリハビリテーション進行やその安全性についての報告が主であり,術後のPAの推移については報告されたものはみられない。AAD術後患者におけるPAの推移の特徴を明らかにすることは,退院後の予後改善にも重要であると考えられる。今回,AAD術後患者における手術前後でのPAを測定する機会を得たので報告する。
【方法】対象は当院心臓血管外科にてAAD Stanford A型に対する緊急手術を施行され,術後に理学療法を実施した患者の中で,術前・術後(入院中,退院後)の身体活動量の調査が可能であった3例とした。対象の3例は,いずれも50歳代男性で,本調査実施時には復職していなかった。術前のPAは国際標準化身体活動質問票(IPAQ)日本語版Long Versionで調査した。術後のPAは身体活動量計(Active style Pro HJA-350IT)を用いて調査し,起床後から就寝前まで1日8時間以上装着するように説明した。術後のPAは入院中及び退院後約1ヶ月間にわたって測定を行った。PAはMETs×時間から得られるEx(エクササイズ)及び歩数を採用し,推移を確認した。年齢,性別,既往歴,術中所見(術式),術後CT所見等の情報はカルテ記載から後方視的に調査した。
【結果】術前のPAは症例1では12.02Ex/日,症例2では22.07Ex/日,症例3では9.5Ex/日であった。術後のPAの推移(入院中→退院後約1ヶ月間)としては,症例1では2.35±0.59→1.57±0.66Ex/日(3637.7±1513.6→4091.2±1140.8歩/日),症例2では0.08±0.08→0.14±0.21Ex/日(1834.4±1387.4→3119.9±2229.6歩/日),症例3では0.58±0.67→1.5±1.13Ex/日(1997.5±793.5→4157.4±2325.5歩/日)であった。
【考察】身体活動量計を用いて,AAD術後患者の入院中及び退院後のPAの調査を行った。術後のPAは入院中と退院後のいずれについても,3症例すべてで低値に留まった。過去の報告では待機的な心臓外科術後症例において,術前のPAが低い症例は術後のPAも低く,術前のPAが高い症例は術後のPAも高いと報告されている。今回調査できた3症例では,質問紙票(IPAQ)から得られた術前のPAは比較的高値であったのにもかかわらず,術後のPAは入院中,退院後ともに低値で推移した。AAD術後患者のPA増加の阻害因子として,就労年齢にある症例の復職に対する不安感や,運動や動作に関する恐怖感や抵抗感の存在が報告されており,今回の3症例でも運動や動作に関する抵抗感などが術後の身体活動量増加の阻害因子となった可能性が考えられた。今回の調査では,すべての症例で退院後の身体活動量は低く経過していたが,それぞれの生活の特徴を把握するには,活動量計は有用と考えられた。復職予定である症例では,PAの推移に加え,強度も重要と考えられるため,活動量計による調査を継続し,PAの変化とAAD術後の経過を追跡し,PAとAADの予後の関連を明らかにしていく予定である。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,AAD術後の身体活動量を調査し,特徴を明らかにしたものであり,今後AAD術後患者の理学療法を行う上で,必要なリスク管理や入院中の練習内容や退院時指導の内容を再検討する上で有用となり得ると考えられる。