第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0740] 若年者におけるベッド上仰臥位エルゴメータ運動と座位エルゴメータ運動の呼吸循環応答の比較

野口雅弘, 佐々木賢太郎 (金城大学医療健康学部理学療法学科)

キーワード:エルゴメータ, 運動強度, 酸素摂取量

【はじめに,目的】
日本の身体障害者の中では,内部障害患者は1970年に全体に対する構成比が5%であったものが,2006年には30.7%と年々増加しており,腎臓機能障害患者は心臓機能障害に次いで,2番目の多さを誇る。日本腎臓学会の報告では,慢性腎不全(CKD)患者数は成人人口の12.9%,1,329万人である。また,日本における2013年末の慢性透析患者数は314,180人,導入患者数は38,024人,死亡者数30,708人であった。慢性腎不全患者の治療は,現在では安静による様々な不利益による二次障害の発生が問題とされ,積極的な運動療法が導入されるようになっている。近年では,透析時間中の運動療法が注目されているが,運動の種類や強度が明確に規定されたものはない。

そこで本研究では,健常者を対象に通常の自転車エルゴメータ運動(座位エルゴメータ運動)と透析中運動として行われるベッド上エルゴメータ運動(臥位エルゴメータ運動)時の呼吸循環機能を比較し,臥位エルゴメータ運動の運動特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は,健常若年男性10人(年齢21±1歳,身長172.1±3.6cm,体重61.8±4.7kg,BMI20.9±1.4)であった。運動負荷試験は,自転車エルゴメータ(日本光電社製,STB-3200)で運動負荷をかけ,負荷中に携帯型呼気ガス分析装置(AT-1100,アニマ社製),心電計(ECG-1550,日本光電社製),運動負荷血圧監視装置Tango(サンテックメディカル社製)を用いて,酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排出量(VCO2),換気量(VE),心拍数(Pulse),収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),Borg Scaleを測定した。Pulse,SBP,DBPは1分ごとに記録した。Borg Scaleは胸の苦しさ(胸部Borg)および下肢疲労(下肢Borg)をそれぞれ1分ごとに測定した。臥位エルゴメータ運動は,負荷量可変式エルゴメータてらすエルゴ(TE2-70,昭和電機社製)を使用した。実験手順として,まず,座位エルゴメータによる運動負荷試験を1分間で20Watt上昇するramp負荷で行い,各項目の最高値と嫌気性代謝閾値(AT)を求めた。運動負荷試験後2日間程度間隔をあけて,座位エルゴメータ運動もしくは臥位エルゴメータ運動をそれぞれ行った。各エルゴメータ運動の順番はランダムとし,各運動は2日間以上の間隔をあけた。各エルゴメータ運動のプロトコールは,安静4分,ウォームアップ4分・20Watt,運動10分・70Watt,クールダウン4分とした。統計解析は,座位エルゴメータおよび臥位エルゴメータのVO2,VCO2,VE,Pulse,SBPの平均値を対応のあるt検定,Borg ScaleのPeak値をWilcoxonの符号付順位検定で比較した。また,座位・臥位エルゴメータで固定した70Wattに対するAT時Watt負荷量の差異を,1標本t検定で求めた。全ての解析にSPSS, Inc.製SPSS Ver.22.0 for Windowsを使用した。有意水準は5%とした。
【結果】
本研究の結果,ATVO2は18.908±4.006ml/min/kg,座位エルゴメータおよび臥位エルゴメータ運動の平均VO2はそれぞれ17.759±3.326 ml/min/kg,17.405±1.952 ml/min/kgであった。座位エルゴメータおよび臥位エルゴメータのATVO2に対する平均VO2は,それぞれ93.92%,92.05%であり,ほぼATと同等の運動強度であった。しかしながら,AT時のWatt負荷量は,91.03±22.52Wattであり,1標本t検定の結果,70Wattよりも有意に高値を示した(p=0.016)。座位,臥位エルゴメータのVO2,VCO2,VE,Pulse,SBPの比較では,有意差は認められなかった。Borg Scaleの比較では,下肢Borgで臥位エルゴの方が高値となり,有意差が認められた(p=0.008)。
【考察】
本研究の結果,70Wattでの座位・臥位エルゴメータ運動は,両方ともATとほぼ同等の平均VO2を示し,同等の運動強度であった。しかしながら,運動負荷試験によるAT時のWatt負荷量は70Wattより大きく乖離しており,座位および臥位エルゴメータでの1段階負荷における運動強度設定には,座位エルゴメータで測定したAT時Wattを指標にすることは難しいことが示唆された。また,Borg Scaleにおいて,下肢Borgにおいて臥位エルゴメータで高値となり,臥位エルゴメータでは下肢の筋活動量多いことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
近年,透析患者に対する透析中の臥位エルゴメータ運動が注目されているが,効果的な運動強度の設定方法は明確ではない。本研究では,座位エルゴメータ運動と臥位エルゴメータ運動の呼吸循環応答を比較し,その結果から臥位エルゴメータ運動時の運動強度設定についての一助となる知見を得られた。