第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

循環2

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0743] 虚血性心疾患における運動耐容能と筋肉量との関連性について

久場美鈴1, 上原夏希1, 新崎義人1, 下里綱1, 諸見里恵一2, 前田武俊3, 瑞慶覧貴子3, 大塚敏之3, 大城康一3 (1.大浜第一病院リハビリテーション科, 2.沖縄リハビリテーション福祉学院, 3.大浜第一病院循環器内科)

Keywords:BMI, 運動耐容能, 筋肉量

【目的】体重が1kg増加すると,虚血性心疾患における死亡率が1~1.5%増加し,心疾患において肥満の問題点が指摘されている。肥満による体重変化は,内臓脂肪の増加,耐糖能異常,脂質異常症,高血圧などの冠危険因子と関連性を示す。野口らは体重減少が筋萎縮を早める可能性から健康を維持するためには体重が安定し,脂肪量と筋量を一定に保つことが重要であると報告している。肥満や2型糖尿病者においては健常者に比べると筋肉内に脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が惹起され,グルコースの取り込み量が低下し,筋力や下肢筋肉量低下をもたらし運動効果を妨げる可能性が報告されている。よってBMIだけでなく,脂肪量,筋肉量の視点から運動内容も考慮していく必要があると考える。本研究では,虚血性心疾患(IHD)において非肥満群,肥満群に分類し,外来心臓リハビリテーション(心リハ)開始時と心リハ終了時の運動耐容能と筋肉量,左室駆出率(EF%)への影響と運動の効果を明らかとすることを目的とした。
【方法】心肺運動負荷試験(CPX)と体組成分析が可能であったIHD男性52例(平均年齢70.8±7.4歳),女性28例(平均年齢69.4±7.7歳),計80例を対象とした。体重をコントロールする指標として体格指数(BMI)から,BMIが24.9 kg/m2以下を非肥満群43例(平均年齢71.1±6.9歳,平均BMI23.0±1.4kg/m2)と,BMIが25 kg/m2以上を肥満群37例(平均年齢69.5±7.2歳,平均BMI27.9±2.5kg/m2)との2群に分類した。CPXは自転車エルゴメーターによる呼気ガス分析(ミナト社製)を使用し,運動耐容能の指標であるPeak VO2を測定し,体組成分析はTANITA社製(マルチ周波数 体組成計 MC-190)を使用し体重,筋肉量,体幹筋肉量,上肢筋肉量,下肢筋肉量を測定した。得られた筋肉量(kg)は,体重で除した値である体重比(%)を算出した。左室長軸像より左室拡張末期径と収縮期末期径を測定しEF%を算出した。いずれも心リハ開始時と心リハ終了時に測定した。統計学的解析として非肥満群と肥満群の分類から心リハ開始時と心リハ終了時における比較は対応のあるt検定を用いた。peak VO2と体重,筋肉量,体幹筋肉量,上肢筋肉量,下肢筋肉量,EF%の検討は,Spearmanの順位相関係数を用い有意水準は5%未満とした。
【結果】非肥満群の心リハ開始前と心リハ終了時の比較では,EF%,Peak VO2,上肢筋肉量,下肢筋肉量に有意な改善を示した(P<0.05)。肥満群の心リハ開始前と心リハ終了時の比較では,Peak VO2,上肢筋肉量に有意な改善を示した(P<0.05)。Spearmanの順位相関係数の結果,非肥満群ではEF%と上肢筋肉量で有意に正の相関関係を認めた(P<0.05)。
【考察】調査の結果から非肥満群では運動耐容能と上肢・下肢筋量,肥満群では運動耐容能と上肢筋肉量の改善が示唆された。非肥満群と肥満群では,心リハ終了後の体重減少は認めなかったが,運動耐容能向上,筋肉量維持,向上を図ることができた。このことは運動を行うことで酸素の取り込みが増大し,末梢組織におけるインスリン抵抗性を改善させ糖代謝能力向上を認め,心リハ効果を示すことができた。Peak VO2は心拍出量,末梢骨格筋における酸素取り込みの両者が関与しており,運動では末梢効果の方が大きく関与する報告もあるが,今回はPeakVO2と相関を示す項目は認めなかった。その原因として,週2回以上レジスタンス運動(RT)を実施している患者が少なかったことによる運動負荷量の差や,有酸素運動が主体となっていたためと思われる。しかし,非肥満群においてEF%と上肢の筋肉量の相関を認めたことから,心肺機能向上と筋力量との関連性が示唆された。有酸素運動は心肺機能に良い影響を与え,RTを増やすことでさらなる効果が期待できる。過剰な体脂肪の蓄積は脂肪細胞で合成・分泌される炎症性サイトカインが増加し,筋構成タンパク質の異化を亢進させ筋量が減少する報告もある。筋量の減少が,糖代謝異常による血糖コントロールの悪化を招くだけでなく,心血管系疾患の発症リスクの増大をもたらすことも示されている。体組成の結果から,体重や脂肪量のみで運動療法の負荷や効果判定を行うのではなく,筋肉量と脂肪の割合を考慮した体重管理を行う必要性が示唆された。非肥満群と肥満群では運動の効果が異なることから体組成を評価することで,運動耐容能との関係性を明らかにし,運動プログラム作成の有益な情報となり得る。
【理学療法学研究としての意義】運動耐容能,体組成計の評価は運動処方の検討や運動効果判定に重要な指標となり得るため理学療法学研究として意義があると考える。