第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

管理運営1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0760] 若手理学療法士に対するポートフォリオ評価を活用した主体性を育む取り組み

高木亮輔, 山下淳一, 磯毅彦 (JA静岡厚生連リハビリテーション中伊豆温泉病院)

Keywords:ポートフォリオ評価, アンケート, 臨床教育

【はじめに,目的】
当院は2~3年目の理学療法士(以下,若手PT)に対して教育目標を定め,定期的にグループワークや勉強会を開催して教育を進めている。特に,社会人2~3年目は仕事に対する意欲低下を引き起こしやすいと言われており,新人同様に継続的な教育が必要である。しかし,一方的に開催する勉強会では目的意識が希薄化され学習意欲の低下に繋がり,受動的な学習態度になることをしばしば経験する。総合教育や医学・看護教育の分野では,ポートフォリオ(以下,PF)が自己教育力を高め,自己の学びを可視化できることで思考の連続に役立つ方法であることが報告されている。今回,若手PTに対してPF評価を導入することで主体的な学習態度が育まれるか検討する。
【方法】
当院理学療法科の経験年数2年目2名A,B,3年目1名C(全員女性)を対象にPF評価を導入した。教育者として7年目の男性1名を配置した。PF導入時に対象者にビジョンと短期間の行動目標を決めてもらい,それに沿って各自学習した情報をファイリングした。PF作成の期間は1年間継続し,毎月教育者と経過を確認し行動目標を更新した。1年後,完成されたPFを再構築し,A3用紙1枚でまとめ直し掲げた目標に対して自己の成長を報告させた。導入1年後に,PF評価導入に関するアンケートを実施した。設問の内容は,(1)PF作成に対する感想(2)成長した点(3)気付いた自身の課題(4)今後の勉強法であり,自由回答とした。アンケート結果は記述内容の意味が損なわれないようにデータの全てを単文化し,「PF評価が主体性を育む手法になるか」という視点に基づきコード化を行ない分類,命名して抽象度を上げ,サブカテゴリー,カテゴリーを形成して分析した。
【結果】
PFにファイリングされた情報の総数は,132.3±49.3枚。それぞれのビジョンにおいて,3名とも具体的な項目に個人差はあるが,共通して認知領域として問題点の抽出と順位づけを,精神運動領域として評価と治療技術の向上を挙げた。内容の割合は,Aは認知領域が7割,精神運動領域が3割であり,Bは認知領域が5割,精神運動領域が5割であり,Cは認知領域が6割,精神運動領域が4割であった。アンケートの分析より,(1)は,9のコードを命名,5のサブコードから自己学習ツールとして機能する,PF作成の負担,の2のカテゴリーが形成された。(2)は,7のコードを命名,4のサブコードから臨床能力の向上,自己評価ができる,の2のカテゴリーが形成された。(3)は,11のコードを命名,4のサブコードから更なる臨床能力の向上,情意領域の影響,の2のカテゴリーが形成された。(4)は,5のコードを命名,3のサブコードから自発的な学習,の1のカテゴリーが形成された。
【考察】
受動的な学習態度に慣れている青少年に対して,自らの専門性を高めるために学習者が主体的な学習態度を育むことは臨床教育における重要な課題である。今回,若手PTに対してPF評価を導入した結果,自己学習のツールとして活用できたことはPFの目的と一致していた。一方で,資料を作成したりファイリングした情報を整理するために時間が掛かったり,PFを継続し続ける負担も課題として挙がった。また,鈴木は,PFに綴じられた仕事の軌跡や成果をみることで「評価」することがかない,自己の成長を確認して,さらなる成長へ役立てることができる,と述べている。実際に,若手PTの関心は個々によって異なっていたものの,PFを作成しそれぞれが自身の成長過程をファイルによって確認することで臨床能力の向上を実感でき,次の課題や学習方法を見つけていた。このことから,今回,PF評価を導入した若手PTは個々に作成したPFから自己評価を行い,主体的な学習態度が育まれた可能性が考えられる。今後は,PF評価の負担を軽減する取り組みや学習者に合わせて効率よく実施する方法を検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
PF評価は医学・看護分野において教育効果が示されているが,理学療法分野においても同様に若手PTの主体性を育む傾向が認められたことは有用な教育手法の1つになり得ると思われる。