第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

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Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0763] リハビリテーション専門職に対しての上手なマネージャーの指導方法

staffの問題行動とOJT

山口剛1,2,3 (1.株式会社フィジオオフィス, 2.医療法人社団SEASONS自由ヶ丘整形外科, 3.多摩大学大学院経営情報学研究科博士課程)

Keywords:人財育成, 業務管理, マネージャー

【はじめに,目的】
マネジメントとは「他の人々を通して,ことを成し遂げること」であると言われている(金井1993;Koontz1980)。この点から考えると,staffの育成は,マネージャーにとって避ける事ができないタスクである。人財を育成することは,自部門の成果を上げるだけでなく,マネージャー自身の成長に対してもプラスに働く。これまで,マネージャーによる部下育成のあり方は,OJTやコーチングの分野において研究されてきた。しかし,問題を抱えるstaffをいかに育てるかという点については十分に検討されているとは言えない。今調査において理学療法士の間にどのような問題行動が存在するのか,問題を抱えるstaffをいかに指導すべきかについて検討することを目的としている。
RQ1:staffの行動に関してどのような点が問題となっているか
RQ2:優れたマネージャーは,問題のあるstaffをいかに指導しているかインタビュー調査によって検討する。
【方法】
病院,診療所6施設において育成能力に定評のある5名以上理学療法士が在籍するリハビリテーション科の取りまとめ役を担うマネージャー6名に対し60分のインタビュー調査を実施した。対象者の選定にあたっては,管理者に「育成能力に定評のあるリハビリテーション科のマネージャー」を紹介してもらう方法をとった。インタビューではstaffの問題行動リスト(12の行動)を対象者に見せ,今まで担当した部下の中で当てはまる若手社員を思い出してもらい,どのような指導をしたかについて具体的に説明を求めた。予備調査を基に作成した質問票を用いて,各施設職員,各種セミナーや研修の受講者を対象として100名の調査を実施した。性別:男性69%,女性31%,年齢:20代67%,30代33%。職位:一般職100%。施設規模:20名未満33%,40名未満19%,100名未満48%であった。調査では,10の行動を示した上で「以下に挙げる社員は,指導を行う上でどの程度問題になっていますか」という質問を提示し,5段階尺度で回答を求めた(大きな問題となっている⑤⇔①全く問題となっていない)。
【予備調査】組織において指導上問題のあるstaffの行動を抽出するため,複数施設の管理者(リーダー,主任等)3人,某大学院のMBAコースに通う医療関係に勤務する3名を対象に自由記述式の質問紙調査を実施した。得られた回答を,内容の類似性に基づいてグルーピングを行ったところ,10の典型的な行動を抽出できた。この行動に基づき,指導上問題のある若手社員の行動を測定する尺度を開発した。
【結果】
因子分析(主因子法・オブリミン回転)によって,若手社員の問題行動10項目は2因子に集約された。なお,自己中心性と主体性不足の相関0.364(p<0.01)であり,比較的高い関係性がみられた。
【考察】
因子分析によって問題行動は,「自己中心性」と「主体性不足」の2つの因子に別れた。育て上手のマネージャーは,主体性不足のstaffを指導する際に,①成長可能性を信じて期待し,②共に考えることで内省を促し,③仕事の方法(やり方・考え方)を改善することに力点を置く傾向にあった。3つの指導の上の特徴は,主体性不足のstaffの成長可能性を信じることで,その期待が伝わり,自身の行動を振り返る準備が整う。振り返りの際には,マネージャーがstaffとともに考えることで,適切な内省へと導くことができる。この共同的内省によって,不適切な仕事の方法やアプローチを改善することが可能になる。さらに,改善によって成果が上がれば,さらなる成長期待へとつながると考えられる。3つの指導特性のうち最も重要となるのが成長期待である。なぜならこの成長期待が,共同的内省を可能にし,方法の改善へ着目することにつながるからである。逆に成長可能性を信じていないマネージャーは,内省を通して仕事の方法を改善する事の実効性や有用性に懐疑的になると思われる。実践的なアプリケーションとしては,マネージャー育成に指導観・育成観に着目し,固定理論から増大理論へと修正すること。指導観・育成観と関連づける形で「若手社員と共に振り返る」共同的内省のスキルや,仕事の方法を修正・改善する具体的な支援スキルの習得をすることが有用と考える。
【理学療法学研究としての意義】
医療職の社会性を向上させるためにも医療界に限らない一般企業の育成方法や研究結果を参考に特に中堅以上,管理者のstaffの育成指導が急務と感じる。そうすることにより理学療法士の社会への視点も広がり,新しいアイデアが浮かび,社会への貢献度が増すことは意義のあることといえる。