第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

創傷管理・疼痛管理

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0770] 大腿骨転子部骨折術後痛に対する経皮的電気刺激治療(TENS)の即時的影響

1症例に対する患側TENSと両側TENSとの比較

瀧口述弘1,2, 庄本康治2, 白数健太郎3 (1.八幡中央病院リハビリテーション科, 2.畿央大学大学院健康科学研究科, 3.八幡中央病院整形外科)

キーワード:経皮的電気刺激, 大腿骨転子部骨折, 疼痛

【はじめに,目的】
本邦での2007年の大腿骨近位部骨折推定発生件数は148,100人であり,高齢化に伴い今後も増加すると考えられている。また骨折6~12ヶ月後の歩行再獲得率は60%程度であり,転子部骨折の方が頸部骨折より獲得率が低いと報告されている。歩行再獲得のためには,早期離床,歩行開始が重要と報告されているが,疼痛によって円滑に実施できない症例を多く経験する。術式と疼痛との関係では,固定術後が,人工骨頭置換術後より疼痛が強いとFoss(2009)らは報告しており,術後痛が強い症例は入院期間が長く歩行開始も遅れ,6ヶ月後でも能力低下が認められたとMorison(2003)らは報告している。また,術後痛がうつ傾向やせん妄発生とも関係するという報告もあり,術後鎮痛は重要である。
経皮的電気刺激治療(TENS)は,基礎・臨床研究から鎮痛効果とメカニズムが明らかにされつつあり,副作用もほとんどない。また,電極を疼痛部位と同一皮膚分節に貼付すること,刺激強度を増強すること,周波数を変調させることでより効果的に鎮痛できると報告されている。さらに,疼痛のある当該肢への電極貼付のみならず,対側肢への電極貼布を追加し,両側TENSの実施でより鎮痛させた動物実験の報告もあり,大腿骨近位部骨折術後痛に対して両側TENSでより鎮痛効果が得られることが期待されるが,先行研究はない。そこで,本研究の目的として,大腿骨転子部骨折後,固定術を受けた一症例に対してTENSを患側肢に実施した患側TENSと,対側肢も加えた両側TENSを実施し,鎮痛への影響を比較し,その実用性を評価することとした。
【方法】
症例は,大腿骨転子部骨折後に髄内釘による固定術を受け,認知的問題や重度な併存疾患はなく,術後翌日より全荷重が許可された70歳代の男性である。術後翌日にPain catastrophizing scale(PCS)を使用し,疼痛の認知面を評価した。TENSは術後翌日より3日間,頓服による鎮痛薬作用時間外に,30分間患側TENSを実施し,続いて30分間対側肢も加えた両側TENSを行い,計1時間実施した。TENSは日本メデックス社製のSSPアルファ1を使用し,刺激パラメーターは,刺激強度は不快感のない最大強度とし,漸増的に増加させ,パルス幅は50μsec,周波数は1~200ppsの間でランプアップ・ダウンさせ,変調させた。電極はAxelgaard社製の自着性電極PALS(5×9cm)を使用し,貼付部位は,術創部の皮膚分節と骨折部の骨分節を考慮し,L3,L4,L5,S1皮膚分節領域の患側肢,または両側肢に貼布した。アウトカム測定は,疼痛強度をNumeric rating scale(NRS)を使用し,安静時痛,患側下肢挙上時の運動時痛をTENS実施前,患側TENS後,両側TENS後,両側TENS1時間後に測定した。また,TENSの使用感を,I.気持ちよさはありましたか?II.電気刺激治療に満足しましたか?III.また電気刺激を使用したいと思いましたか?を①思わない②どちらでもない③少し思う④思う⑤強く思う,の5択のアンケートで調査し,副作用も調査した。
【結果】
PCSは18点であった。安静時NRSは3日間とも,TENS前から0であった。運動時NRSは,1日目のTENS前,患側TENS後,両側TENS後,1時間後の運動時NRSは8→8→6→6,2日目は5→3→3→4,3日目は3→1→1→1であった。アンケート結果は,I.②,II.③,III.④であり,副作用は認められなかった。
【考察】
PCSが18点であり,破局的思考は強くはないと考えた。術後2,3日目では,患側TENS後にNRSが2低下し,両側TENS後には変化がなく追加効果が得られなかったが,特に疼痛の強い術後1日目では,患側TENS後には変化がなく,両側TENS後にNRSが2低下したことから,疼痛が強い状態では,両側TENSが有効な可能性がある。また,1時間後でも効果が持続したが,鎮痛持続時間の間隔で一日に複数回TENSを実施する際は,皮膚の状態等を定期的に観察すべきであると考察した。また,副作用も認められず,アンケート結果から受け入れは良好であったと考えるが,術前から十分に説明し予備的に実施することにより,刺激強度も増強でき,更に受け入れが良好になると考察した。今後は,鎮痛開始時間や患側TENSと両側TENSの鎮痛効果や鎮痛持続時間を,症例数を増やし調査していく。本研究の限界として,患側TENSと両側TENSの連続実施により,患側TENSの鎮痛持続時間が調査できなかったことや追跡時間が短いこと等が挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨転子部骨折術後痛に対して,両側TENSを実施しNRSが低下したが,患側TENSと両側TENSとの効果の比較を,症例数を増やし更なる検討をする必要がある。