[P2-B-0777] 機能的電気刺激サイクリングにおける代謝効率の検討
リカンベント自転車を用いて
Keywords:機能的電気刺激, 自転車, 代謝
【はじめに,目的】
機能的電気刺激(FES)を用いたサイクリングは,脊髄損傷者の下肢筋や心肺機能の強化に有効であることが報告されている。しかし,対麻痺者における運動の効率は依然として低いままであり,代謝効率は健常人の1/3程度にとどまることが報告されている。このことは筋疲労が生じて運動制御が限界に達してしまう問題として重要である。先行研究では,サイクリング運動の代謝効率はクランク軸パワーから算出していた。本研究の目的は,関節が行った仕事からサイクリング運動の代謝効率を算出し,FESによるサイクリング運動の効率が悪い要因を推察することである。
【方法】
被験者は22歳の健常男性1名とした。本研究では3輪のリカンベント自転車を用いたサイクリング運動を行い,被験者の関節パワーを算出するためにペダル部分に4個の3軸力学センサを組み込んで床反力のベクトルを計測した。球体反射マーカの貼付位置は左右の大転子,膝関節裂隙,外果,クランク軸,ペダル軸とし,3次元動作計測装置を用いて位置データを計測した。これらのデータを2次元剛体リンクモデルに代入し股,膝,足関節のモーメントを算出した。FESには搬送中周波刺激装置を使用した。刺激波形はバースト波であり,変調周波数は20Hzおよび50Hzに設定した。表面電極の貼付部位は両側の大腿四頭筋およびハムストリングスとした。各筋の刺激タイミングは,クランク軸に取り付けたエンコーダとPICマイコンにより,クランク角度に応じて刺激される筋が切り替わるようにした。これにより,FESで連続的にペダルを回し続けるサイクリング運動を可能とした。計測条件は,随意運動,FESによる運動(20Hz,50Hz)の3パターンとした。代謝効率には1)クランク軸パワーを酸素消費量で除した値,2)関節パワーを代謝効率で除した値,の2つを用いた。算出したデータの群間の差をみるために,ペダリング周期ごとの関節モーメントの極値を採用し,反復測定分散分析を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
サイクリング運動における関節モーメントは足関節で小さく,膝関節よりも股関節で大きく,関節モーメントと関節角速度の積を時間積分して求めた関節仕事も,膝関節よりも股関節で有意に大きかった。また膝,股関節ともに屈曲モーメントよりも伸展モーメントが有意に大きかった。クランク軸パワーと酸素消費量より算出した代謝効率は,随意運動では32%,FESサイクリング運動では変調周波数20Hzで20%,50Hzで23%であった。一方,関節パワーと酸素消費量より算出した代謝効率は,随意運動では73%,FESサイクリング運動では変調周波数20Hzで82%,50Hzで89%であった。
【考察】
クランク軸パワーと酸素消費量より算出したサイクリング運動の代謝効率は,対側でも同程度の関節仕事を行っていることを考慮すると,随意運動で約60%であると推定される。また,クランク軸トルクから計算した機械仕事と呼気ガス計の値から代謝効率を算出した先行研究では,随意運動で約30%で,今回の結果と似ている。このことから,リカンベント自転車によるサイクリング運動では,下肢関節の行った仕事のうち,約半分がクランクの回転に変換されていると考えられる。これに対しFESによる運動は随意運動に比べて代謝効率が低いという結果であった。この原因としてはFESでは足部の力の方向まで制御していないため,ペダルに加わる力ベクトルのうちクランクの回転方向成分が小さいことが考えられる。一方,関節パワーと酸素消費量より算出したサイクリング運動の代謝効率は,クランク軸に入力された機械仕事から求めた時とは逆に随意運動時よりも電気刺激運動時の効率が良かった。この原因としては,FES下では拮抗筋が作用しないため,同じ関節パワーに対して筋消費エネルギーが少なかったことが考えられる。また今回の結果から,変調周波数を変化させて代謝効率を上げる方法も考えられるが,日頃の運動習慣などの個人差,ペダリングの回転周期によっても異なるといわれており,さらに検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
FESサイクリングは脊髄損傷対麻痺者のみならず脳卒中片麻痺者にも健康維持・増進に貢献することが期待されており,QOLの向上も期待できる。FESサイクリングの代謝効率を上げることは下肢麻痺者の持久力や有酸素能力の向上につながる。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に実施した。被験者には十分な説明をするとともに書面で同意を得た。
機能的電気刺激(FES)を用いたサイクリングは,脊髄損傷者の下肢筋や心肺機能の強化に有効であることが報告されている。しかし,対麻痺者における運動の効率は依然として低いままであり,代謝効率は健常人の1/3程度にとどまることが報告されている。このことは筋疲労が生じて運動制御が限界に達してしまう問題として重要である。先行研究では,サイクリング運動の代謝効率はクランク軸パワーから算出していた。本研究の目的は,関節が行った仕事からサイクリング運動の代謝効率を算出し,FESによるサイクリング運動の効率が悪い要因を推察することである。
【方法】
被験者は22歳の健常男性1名とした。本研究では3輪のリカンベント自転車を用いたサイクリング運動を行い,被験者の関節パワーを算出するためにペダル部分に4個の3軸力学センサを組み込んで床反力のベクトルを計測した。球体反射マーカの貼付位置は左右の大転子,膝関節裂隙,外果,クランク軸,ペダル軸とし,3次元動作計測装置を用いて位置データを計測した。これらのデータを2次元剛体リンクモデルに代入し股,膝,足関節のモーメントを算出した。FESには搬送中周波刺激装置を使用した。刺激波形はバースト波であり,変調周波数は20Hzおよび50Hzに設定した。表面電極の貼付部位は両側の大腿四頭筋およびハムストリングスとした。各筋の刺激タイミングは,クランク軸に取り付けたエンコーダとPICマイコンにより,クランク角度に応じて刺激される筋が切り替わるようにした。これにより,FESで連続的にペダルを回し続けるサイクリング運動を可能とした。計測条件は,随意運動,FESによる運動(20Hz,50Hz)の3パターンとした。代謝効率には1)クランク軸パワーを酸素消費量で除した値,2)関節パワーを代謝効率で除した値,の2つを用いた。算出したデータの群間の差をみるために,ペダリング周期ごとの関節モーメントの極値を採用し,反復測定分散分析を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
サイクリング運動における関節モーメントは足関節で小さく,膝関節よりも股関節で大きく,関節モーメントと関節角速度の積を時間積分して求めた関節仕事も,膝関節よりも股関節で有意に大きかった。また膝,股関節ともに屈曲モーメントよりも伸展モーメントが有意に大きかった。クランク軸パワーと酸素消費量より算出した代謝効率は,随意運動では32%,FESサイクリング運動では変調周波数20Hzで20%,50Hzで23%であった。一方,関節パワーと酸素消費量より算出した代謝効率は,随意運動では73%,FESサイクリング運動では変調周波数20Hzで82%,50Hzで89%であった。
【考察】
クランク軸パワーと酸素消費量より算出したサイクリング運動の代謝効率は,対側でも同程度の関節仕事を行っていることを考慮すると,随意運動で約60%であると推定される。また,クランク軸トルクから計算した機械仕事と呼気ガス計の値から代謝効率を算出した先行研究では,随意運動で約30%で,今回の結果と似ている。このことから,リカンベント自転車によるサイクリング運動では,下肢関節の行った仕事のうち,約半分がクランクの回転に変換されていると考えられる。これに対しFESによる運動は随意運動に比べて代謝効率が低いという結果であった。この原因としてはFESでは足部の力の方向まで制御していないため,ペダルに加わる力ベクトルのうちクランクの回転方向成分が小さいことが考えられる。一方,関節パワーと酸素消費量より算出したサイクリング運動の代謝効率は,クランク軸に入力された機械仕事から求めた時とは逆に随意運動時よりも電気刺激運動時の効率が良かった。この原因としては,FES下では拮抗筋が作用しないため,同じ関節パワーに対して筋消費エネルギーが少なかったことが考えられる。また今回の結果から,変調周波数を変化させて代謝効率を上げる方法も考えられるが,日頃の運動習慣などの個人差,ペダリングの回転周期によっても異なるといわれており,さらに検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
FESサイクリングは脊髄損傷対麻痺者のみならず脳卒中片麻痺者にも健康維持・増進に貢献することが期待されており,QOLの向上も期待できる。FESサイクリングの代謝効率を上げることは下肢麻痺者の持久力や有酸素能力の向上につながる。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に実施した。被験者には十分な説明をするとともに書面で同意を得た。