第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習1

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0470] トラッキング課題における運動学習に伴う運動イメージ中の皮質脊髄路興奮性の変化

立本将士1,2, 土屋順子2, 沼田純希2, 田辺茂雄3, 山口智史1,4, 近藤国嗣1, 大高洋平1,4, 菅原憲一2 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科, 3.藤田保健衛生大学リハビリテーション学科, 4.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

Keywords:経頭蓋磁気刺激, 運動誘発電位, 学習効果

【はじめに,目的】
運動イメージは,運動を想起することで実際の運動と類似した大脳皮質の運動関連領域の賦活が得られることが報告されている(Facchini et al, 2002)。そのため,運動が困難な中枢神経疾患に対するリハビリテーションの手法として有用性が示唆されている。また,動作獲得において重要である運動学習は,学習に伴った行動の変容に大脳皮質運動野の興奮性の変化が関連している(Classen et al, 1998)。しかしながら,運動学習過程における運動イメージとの関連性を明らかにした検討は十分ではなく,運動学習前後で運動イメージ中の皮質脊髄路興奮性に変化を及ぼす可能性が考えられる。そこで本研究の目的は,運動学習に伴う運動イメージ中の皮質脊髄路興奮性の変化を検討することとする。

【方法】
対象は健常成人8名とした。運動学習課題および運動イメージ課題は,トラッキング課題を用いた手関節背屈運動とした。課題は,練習セッションと試験セッションに分けて実施した。練習セッションでは,PCディスプレイ上に表示された基線に,発揮された右手関節背屈トルクに合わせて上下するマーカーを合わせていくトラッキング課題を実施した。基線は一つのサイン波形とし,基線の頂点は最大随意収縮の30%となるように設定した。すべての施行において,基線の最大-最小のタイミングは同一となるよう設定した。練習は10回を1セットとし,7セット実施した。試験セッションでは,運動学習の成立過程を検討するため,練習セッションと同様のトラッキング課題を10回実施した。その際,視覚フィードバックによる学習効果を抑制するため,基線及びマーカーは消失するよう設定した。試験セッションは練習施行前,練習1セット後,4セット後,7セット後でそれぞれ実施した。皮質脊髄路興奮性の検討には,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation:TMS)による運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を用いた。TMSは,左一次運動野を刺激し,右橈側手根伸筋(ECR)および橈側手根屈筋(FCR)からMEPを記録した。TMSの安静時運動閾値は,50μVのMEPが50%の確率で誘発される強度とし,安静時閾値の120%を試験刺激強度とした。MEPの測定は,各試験セッション直後に学習課題と同様の課題を運動イメージにて実施し,TMSはマーカーが基線の頂点を通過するタイミング(最大イメージ)と,その後最低値に至るタイミング(最小イメージ)で,それぞれ10回の刺激を行った。データ解析は,運動学習効果において,試験セッションのトラッキング基線とマーカー追跡線との誤差面積(root mean square:RMS)を算出した。皮質脊髄路興奮性の変化は,イメージ中のMEPの最大振幅の平均値を算出後,安静状態におけるMEPの最大振幅値で除したMEP振幅比を算出した。統計解析は,トラッキング課題の学習効果を検討するため,試験セッションそれぞれのRMS値において反復測定分散分析を行った。皮質脊髄路興奮性の変化に関しては,ECRおよびFCRの,最大イメージと最小イメージそれぞれにおいて反復測定分散分析を行い,Bonferroni法にて多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。

【結果】
運動学習効果において主効果を認め(F[3,21]=3.742,p=0.027),RMS値は練習施行前と練習4セット後との間に有意な減少を認めた。皮質脊髄路興奮性の変化に関して,ECRの最大イメージ中のMEPにおいて主効果を認め(F[3,21]=3.445,p=0.035),MEP振幅比は練習施行前で1.63±0.48,練習4セット後で2.05±0.62と有意な増大を認めた。その他,ECRの最小イメージおよび拮抗筋であるFCRにおいて,有意差は認められなかった。

【考察】
本研究の結果より,トラッキング課題におけるRMS値が減少した練習4セットまでの間に学習効果を認め,主動作筋であるECRの学習に伴った運動イメージ中の皮質脊髄路の興奮性の増大が認められた。以上より,相動性運動を伴う運動学習は,時間経過を反映した運動イメージにおける興奮性増大をより向上させることが示唆された。しかしながら,最小イメージにおける興奮性の変化や拮抗筋に関しては,一貫した傾向が得られなかった。このことから,運動イメージ中の一次運動野の特性として,粗大な運動を発揮するイメージは興奮性を増大させる。その一方で,微細な出力調整を要する課題では,イメージへの反応性は減衰する可能性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
運動イメージのメカニズムや運動学習との関連を検討することにより,運動イメージを中枢神経疾患リハビリテーションに応用する基礎的知見の一つとなり得ると考えられる。