[P2-C-0473] 手指の他動的な形状識別における知覚情報の違いが皮質脊髄路の興奮性に及ぼす変化について
―経頭蓋磁気刺激装置による運動誘発電位を用いた検討―
Keywords:他動運動, 形状識別, 皮質脊髄路
【はじめに】第49回理学療法学術集会において,触覚と運動覚にもとづく手指の他動的な形状識別が,皮質脊髄路(CST)の神経活動動態の興奮性に増加を認めたことを経頭蓋磁気刺激装置(TMS)を用いて報告した(竹内2014)。しかし,運動覚(Van de Winckel A 2012)や,運動覚と触覚(Servos P 2001)により,形状識別を検討した報告など,知覚させる感覚情報が先行研究で異なっており,知覚情報の違いがCSTの興奮性に及ぼす変化についての報告は少ない。本研究では,健常成人を対象として,対象物の形状識別における知覚情報の違いが,CSTの神経活動動態に及ぼす変化について,TMSによる運動誘発電位(MEP)と背景筋電図を用いて検討した。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢26.4±4.0歳)とした。被験者は椅子座位にて,両上肢を正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位の状態で,安静を保持するように指示した。課題は,形状が異なる4種類の対象物を使用し,右第2指の他動運動にて,運動速度は1秒間に約1cmで統一して実施した。課題は,①形状に合わせて指を動かす条件(運動覚入力;条件A),②形状に指を触れさせる条件(触,運動覚入力;条件B),③形状に合わせて指を動かして識別を求める条件(運動覚による形状識別;条件C),④形状に指を触れさせて識別を求める条件(触,運動覚による形状識別;条件D)とした。条件A,Bでは,対象物を一種類のみ使用し,条件C,Dでは,識別させる対象物の順序をランダムとした。課題中は視覚遮蔽下にて実施した。TMSは,各条件において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。右第2指を他動的に動かしてから約2秒後に左一次運動野の手指領域直上を刺激した。被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Research Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定して実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各条件時のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各条件時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各条件のMEP振幅比と,安静時および各条件を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析,Kruskal Wallis検定と,tukey’s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【結果】MEP振幅比は,条件A;1.2±0.2,条件B;1.5±0.4,条件C;1.9±0.7,条件D;4.3±1.5であり,条件の違いによって変化が生じることが示された(F(3,36)=27.7,p<0.01)。条件Dは,その他の条件に比較して有意に高い値を示した(p<0.01)。その他の条件間では,有意な変化は認めなかった。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;119.3±32.6,条件A;119.4±20.1,条件B;127.3±17.0,条件C;123.3±18.3,条件D;122.0±32.7であり,安静時及び各条件間に有意な変化は認めなかった(F(4,45)=0.17,p=0.95)。
【考察】条件Dで,その他の条件よりも背景筋放電量に有意な差を認めていないにもかかわらず,MEP振幅比が有意に高い値を示した。単なる感覚入力よりも形状識別において,頭頂連合野,高次運動野の活性化(Kawashima 2002)に伴い,一次運動野との神経連絡を介してCSTの神経活動動態の興奮性を増大させたことが示唆された。一方,条件Cは条件A,Bに比べてMEP振幅比が高いものの,有意な変化を認めなかった。対象物の特徴検出においては,触覚と運動覚の統合が必要であり,能動的触覚の要素がより関与する(Iwamura 1996)ことから,運動覚のみより,触覚と運動覚にもとづく形状識別を実施したほうが,CSTの神経活動動態の興奮性を増大させることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の意義としては,単なる感覚入力よりも,特に触覚と運動覚にもとづく形状識別がCSTの神経活動動態の興奮性の増大に重要であることを示唆したことである。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢26.4±4.0歳)とした。被験者は椅子座位にて,両上肢を正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位の状態で,安静を保持するように指示した。課題は,形状が異なる4種類の対象物を使用し,右第2指の他動運動にて,運動速度は1秒間に約1cmで統一して実施した。課題は,①形状に合わせて指を動かす条件(運動覚入力;条件A),②形状に指を触れさせる条件(触,運動覚入力;条件B),③形状に合わせて指を動かして識別を求める条件(運動覚による形状識別;条件C),④形状に指を触れさせて識別を求める条件(触,運動覚による形状識別;条件D)とした。条件A,Bでは,対象物を一種類のみ使用し,条件C,Dでは,識別させる対象物の順序をランダムとした。課題中は視覚遮蔽下にて実施した。TMSは,各条件において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。右第2指を他動的に動かしてから約2秒後に左一次運動野の手指領域直上を刺激した。被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Research Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定して実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各条件時のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各条件時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各条件のMEP振幅比と,安静時および各条件を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析,Kruskal Wallis検定と,tukey’s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【結果】MEP振幅比は,条件A;1.2±0.2,条件B;1.5±0.4,条件C;1.9±0.7,条件D;4.3±1.5であり,条件の違いによって変化が生じることが示された(F(3,36)=27.7,p<0.01)。条件Dは,その他の条件に比較して有意に高い値を示した(p<0.01)。その他の条件間では,有意な変化は認めなかった。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;119.3±32.6,条件A;119.4±20.1,条件B;127.3±17.0,条件C;123.3±18.3,条件D;122.0±32.7であり,安静時及び各条件間に有意な変化は認めなかった(F(4,45)=0.17,p=0.95)。
【考察】条件Dで,その他の条件よりも背景筋放電量に有意な差を認めていないにもかかわらず,MEP振幅比が有意に高い値を示した。単なる感覚入力よりも形状識別において,頭頂連合野,高次運動野の活性化(Kawashima 2002)に伴い,一次運動野との神経連絡を介してCSTの神経活動動態の興奮性を増大させたことが示唆された。一方,条件Cは条件A,Bに比べてMEP振幅比が高いものの,有意な変化を認めなかった。対象物の特徴検出においては,触覚と運動覚の統合が必要であり,能動的触覚の要素がより関与する(Iwamura 1996)ことから,運動覚のみより,触覚と運動覚にもとづく形状識別を実施したほうが,CSTの神経活動動態の興奮性を増大させることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の意義としては,単なる感覚入力よりも,特に触覚と運動覚にもとづく形状識別がCSTの神経活動動態の興奮性の増大に重要であることを示唆したことである。