第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習1

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0476] 健常者における直流前庭電気刺激が主観的視性垂直位に与える影響について

塩崎智之1,2, 中村潤二2,3, 生野公貴2,3, 岡田洋平4, 冷水誠4, 森岡周1,4 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション研究室, 2.西大和リハビリテーション病院, 3.畿央大学大学院健康科学研究科物理医学系リハビリテーション研究室, 4.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

キーワード:SVV, 直流前庭電気刺激, 垂直位認知

【はじめに,目的】
姿勢制御において垂直位認知は重要な要素の一つである。垂直位認知の検査方法として主観的視性垂直位(subjective visual vertical:SVV)がある。これまでSVVは前庭機能検査として用いられていたが,近年は脳卒中患者の垂直位認知経路の機能評価としても用いられており,半側空間無視患者やプッシャー症候群を示す患者において偏位がみられると報告されている(Saj,2005)。また,脳卒中発症初期のSVVの偏位が6ヵ月後のADLやバランス能力に影響するという報告もみられる(Bonan,2006)。前庭感覚を刺激する方法として直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)がある。GVSは両側乳様突起から直流電流を通電することで前庭器官を刺激する電気刺激法である。GVS実施後に脳卒中患者においてSVVが陰極側に傾くという報告や健常成人においてGVS実施中に陽極に傾き,実施後には効果は持続しないとの報告がみられる(Saj,2006,Volkening,2014)。ただし,この報告には頭部の位置を一定にしていないという限界点があった。SVVは60度以内の頭部の傾斜で傾斜方向と反対側へSVVが傾く事が報告されている。そこで,本研究の目的は頭部の傾斜の統制を行った条件で健常成人においてGVSの実施がSVVの経時的な変化にどのような影響をもたらすかを調査することとした。
【方法】
対象は健常成人8名(男性4名,女性4名,平均年齢26.4±2.8歳)とした。SVVを測定するためのプログラムは先行研究(Saj,2006)に準じて作成し,PCスクリーンの参照座標をなくした状態で垂直であると判断する位置まで,白いバーを対象者自身がコントローラー操作により回転させた。SVVの測定は暗所にて安静座位で実施し,周辺視野を取り除くため視野中心以外はゴーグルで視覚情報を遮断した。時計回りの偏位を正,反時計回りを負として,0.1度単位で算出した。測定に制限時間は設けず,10回実施した平均値を検査値とした。固有感覚の入力を避けるため頭部,体幹の固定は行わなかった。頭部に加速度計を装着し空間における頭部の傾きが前額面上で1度以内になるように統制し,SVV測定時の頭部傾斜角度を計測した。
GVSには多機能型電気治療器を用い,両側の乳様突起に自着性電極を貼付して行った。安静座位にて1.5mAの直流電流を20分間通電した。極性は右乳様突起を陽極とした。
SVVはGVS実施前,実施中(10分間経過後),実施後の3つの時点で測定した。統計解析は,各時点のSVVの差について反復測定一元配置分散分析を用いて検証し,多重比較にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
検査時の頭部傾斜角度は0.0±0.3度であった。SVVはGVS実施前0.5±1.1度,実施中1.7±1.1度,実施後0.0±1.4度であった。GVS実施中は実施前に比較し有意に時計回りに偏位し,実施後は実施前に比較し有意に反時計回りに偏位した。(p<.01)GVS実施前と実施後においては有意な差は認めなかった。実施中の変化量は1.1±0.8度,実施前後では-0.5±0.7度であった。
【考察】
本研究の結果,GVS中は陽極側にSVVが変化する事が示された。頭部の傾斜を統制し,傾斜によるSVVの偏位を除外した条件でも先行研究と同様の結果が得られた。ただし,実施後に効果は持続せず,SVVは実施前の状態に戻った。脳卒中患者においてGVSの効果が持続するという報告とは異なった結果となった。脳卒中患者に比べ健常成人ではGVS実施後に素早く適応的に垂直位認知を行えたのではないかと考えられる。その違いの原因を調査することで垂直位認知の障害の病態を解明していくことにつながる可能性がある。それに加え,垂直位認知への治療介入は明確にされていないため,GVS刺激中にSVVの操作が可能であれば垂直位認知に障害のある患者への治療の発展につながる可能性も考えられる。また,本研究では変化量が先行研究に比べ微量ではあるが高い値を示した。今回の研究で頭部の傾斜を統制したことが影響した可能性が考えられる。今後は脳卒中患者による調査や垂直位認知の変化への適応のメカニズムを調査する必要がある。本研究の限界点として極性を右陽極のみで実施している事が挙げられる。そのため,極性の変更やsham刺激条件を加えることでGVSの効果を詳細に調査する必要もある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は頭部傾斜角度など垂直位認知に影響する要因を極力除外した条件で垂直位認知に対するGVSの効果について検証し,GVS刺激中には垂直位認知を操作する方法の一つとなり得ることを示した。垂直位認知に障害のある患者に適用する際の基礎的知見となる。