第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習2

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0486] 視覚遮断下における他機能の代償的向上の検討

~重心動揺での検討~

井藤公紀, 牧野均 (北海道文教大学人間科学部理学療法学科)

Keywords:視覚遮断, 重心動揺, 平均台

【はじめに,目的】
これまでのリハビリテーションでは,視覚によるフィードバックを積極的に行い,多数の感覚系を賦活する中で行われ,治療効果が認められてきた。石原によると,視覚情報処理が姿勢の安定に貢献するとしている。
一方,視覚障害者は視覚機能を補うために聴覚や体性感覚等が優れているという報告がある。これは,多くの外界認知情報を占める視覚の欠落を補うために,聴覚が代償して機能が向上したことが要因と考えられる。このことから,視覚を遮断することで代償的に他機能の向上がみられ,治療効果が向上しないかと考えた。
そこで,視覚遮断下での治療アプローチにより,向上がみられるか。また,視覚的フィードバックを用いた群との比較も行い,実験及び考察することとした。
【方法】
対象:特に整形外科的,神経学的疾患のない健常学生60名(男性30名,女性30名)とし,研究の趣旨および方法を十分に説明し,同意を得られた者とした。
実験機器:マットスキャン(ニッタ株式会社)アイマスク,メジャー,角材(高さ20mm,幅90mm,長さ550cm),平行棒(高さ68.5cm,幅14.5cm,長さ350cm)テープ(幅20mm,長さ550cm),ストップウォッチ
方法:裸足で片脚立位にて,重心動揺を30秒間計測。目線は被験者の目線の高さで2m先のピンを注視させ,支持脚は利き足とする。計測肢位は上肢自然下垂,非支持脚は股関節中間位,膝関節90°とし,以後二回の計測も同様とした。
課題を二分間施行する。課題内容により,A~Fの六群に分ける(各群,男女5名ずつ)。課題内容は次のようなものである。なお,閉眼の場合はアイマスクを着用した上で閉眼する。
A:開眼にて,テープ上を往復。端まで行ったら後ろ歩き
B:閉眼にて,テープ上を往復。端まで行ったら後ろ歩き
C:開眼にて,平均台上を往復。端まで行ったら後ろ歩き
D:閉眼にて,平均台上を往復。端まで行ったら後ろ歩き
D’:閉眼にて,平行棒上を往復。端まで行ったら後ろ歩き
E:開眼にて,立位をとる
F:閉眼にて,立位をとる
課題後,直ぐに重心動揺を計測。その後,五分間安静座位をとり,再び重心動揺を計測し,終了とした。
統計処理は正規性のあるものには対応のあるt検定を,正規性のないものにはWilcoxon符号付順位検定を用いた。
群間比較では正規性のあるものにはスチューデントのt検定を,正規性のないものにはマン・ホイットニ検定を用いた。各分析項目の有意水準は5%未満とした。
【結果】
総軌跡長ではC群前・直後,前・5分後で有意な増加,D群前・直後で有意な増加,直後・5分後で有意な減少を認めた。
外周面積ではA群前・直後,前・5分後で有意な増加,C群前・直後,前・5分後で有意な増加,D群前・直後で有意な増加,直後・5分後で有意な減少,D’群前・5分後で有意な減少を認めた。
矩形面積ではC群に前・直後,前・5分後で有意な増加,D群に直後・5分後で有意な減少,D’群に前・5分後で有意な減少を認めた。
【考察】
D’群の前・5分後の有意な減少は,足底や体幹筋を中心とした筋出力コントロールが向上したことが要因と考える。平均台の高さは68.5cmあるため,落下への恐怖から足底筋での筋出力コントロール調節が促され,静止立位を測る際にも調節が上手く行われたと考える。一方,D群は高さが20mmと低いことが認知されているため,精神的安堵感があり,十分な筋出力コントロールを促せなかったと考える。
次に,D群の直後・5分後に有意な減少がみられたのは,筋疲労が要因と考える。池田らによると,視覚遮断群には努力性の高い立ち直りがみられるという報告がある。これにより,平均台歩行においても視覚遮断群は努力性の高いものとなり,筋疲労が出現しやすかったと考える。筋疲労と片足立位との相互関係は,片足立位時の重心動揺は下肢の筋力や感覚が影響することを村田らが報告している。
次に,平均台による重心動揺への効果を検討する。平均台の群に有意な増加がみられたのは,テープ群に比べ,課題中の片脚支持時間が長く,積極的な全身でのボディコントロールを促せず,運動への結びつきに差が生じたためと考えられる。奥住らによると,片足立ちは静的平衡機能,平均台歩きは動的平衡機能の評価として用いられてきたが,本実験のC・D群にではこれら静的・動的の組み合わせにより行われた。本結果により,動的平衡機能の刺激が静的平衡機能の向上に繋がらないと考える。
今回の実験では視覚遮断下での治療アプローチは治療効果を向上させるとはいえないと判断する。今後の課題として,関連する因子をシンプルなものとし,純粋に開眼・閉眼を比べられる実験を行い,再検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
本実験において,視覚遮断下でのリハビリ効果が出れば,臨床で視覚遮断を用いて効率の良いリハビリ効果が期待できる。