[P2-C-0489] 後傾座位姿勢が前後方向における体幹垂直位知覚に及ぼす影響
視覚と座位保持時間の違いによる検討
キーワード:自覚的垂直位, 後傾座位, 視覚条件
【はじめに,目的】
医療施設や福祉施設において,車椅子使用者がいわゆる仙骨座り等の不良姿勢を保持する場面を見かける。この姿勢の要因として,車椅子の構造上の問題点,および車椅子使用者側の問題が考えられる。車椅子使用者側の問題を大きく分けると,骨格構造および筋機能の問題,および感覚系の問題があげられよう。感覚系については,感覚情報を統合した結果である自己身体位置の知覚が大きく関わるものと推察される。
空間における自己身体位置の知覚に関して,自覚的垂直位(体幹の垂直位知覚;以下,SPV)や,自覚的視性垂直位(視覚的垂直位知覚;以下,SVV)に関する研究が多数報告されている。SPVやSVVは身体傾斜により変化し,中でもSPVは側方傾斜座位により傾斜方向に変位し,傾斜角度,および維持時間に影響される。この現象は前後方向の垂直位知覚においても見られる可能性があり,車椅子上での体幹後傾座位を保持した場合にも,SPVが時間経過に伴い後方に変位するかもしれない。SPVに関与する要因には視覚や前庭機能,体性感覚などが挙げられるが,視覚情報への依存度は高いと思われる。それゆえ,閉眼状態では開眼状態に比べてSPVに何らかの影響が表れる可能性がある。そこで本研究は,車椅子を模した環境において身体の後方傾斜が前後方向における自覚的垂直位知覚に及ぼす影響と,それらの開眼閉眼での違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は,前庭疾患及び脊椎・骨盤の整形外科的疾患の既往がない健常成人男性15名(31.0±3.6歳)であった。
実験は,車椅子での骨盤後傾位座位を想定し,背もたれ角度を5度,背もたれと大転子との間を大腿長の65%に相当する距離とした。
骨盤後傾座位は,保持時間5分,10分,15分の3条件,および閉眼(アイマスク着用)と開眼の2条件の,合わせて6条件について1試行ずつランダムな順番で行われた。
実験手順:1)C7棘突起,右肩峰,L3棘突起,右上前腸骨棘,右大転子に反射マーカーを貼付した。2)骨盤後傾座位から自覚的垂直位での座位姿勢を開眼と閉眼とでそれぞれ5回ずつ保持させた。3)骨盤後傾座位(6条件)をランダムな順番で試行させた。測定:手順2)と3)において,それぞれ「身体が垂直と感じる位置まで身体を起して下さい」と指示し,姿勢が一定となった時点で被験者の右方15mの位置に設置したカメラで撮影した。
画像解析にはImageJ 1.49h(NIH)を使用した。手順2)で撮影した5回の座位姿勢の平均値を介入前基準姿勢とした。介入前基準姿勢と各条件で得られた姿勢について,C7-大転子のマーカーを結ぶ線分と垂直線とのなす角度(体幹傾斜角とする)を計測し,体幹後傾方向を(+)として表した。
統計手法は,体幹傾斜角における視覚条件,および座位保持時間(介入前基準姿勢,5分,10分,15分)の影響は,繰り返しのある二元配置分散分析を行い,有意な影響が認められた場合にはBonferroniの多重比較検定を用いて検討された。なお統計解析にはSPSS 11.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
体幹傾斜角度に対する視覚条件(p<0.05),および座位保持時間(p<0.01)による有意な影響が認められた。閉眼条件では,すべての時間で体幹傾斜角度が開眼条件よりも有意に後傾していた。また,体幹傾斜角度は,介入前基準姿勢と比べていずれの座位時間も有意に後傾していた(p<0.01)。各座位時間の間における有意な影響は認められなかった。
【考察】
今回の実験では,閉眼条件では開眼条件に比べ体幹傾斜角が有意に後傾していたことから,前後方向における垂直位の知覚において視覚情報への依存度が高いことが示唆された。また視覚条件に関係なく骨盤後傾座位を5分間以上保持すると介入前基準姿勢と比べて体幹傾斜角が有意に後傾していた。以上のことから,5分以上の骨盤後傾座位を保持することにより,座位保持時間に関係なくSPVが後方に変位することが示唆された。
本実験の限界として,時間設定が短かったことや,対象を若年健常者のみとしたことが挙げられる。座位保持時間を長く設定した場合や,高齢者を対象とした場合には何らかの傾向がみられる可能性があり,今後さらなる検討を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果のような基礎データを蓄積することは,車椅子での不良姿勢の原因究明や,その予防及び改善のための方策について,感覚機能を切り口としてアプローチすることにつながる。
医療施設や福祉施設において,車椅子使用者がいわゆる仙骨座り等の不良姿勢を保持する場面を見かける。この姿勢の要因として,車椅子の構造上の問題点,および車椅子使用者側の問題が考えられる。車椅子使用者側の問題を大きく分けると,骨格構造および筋機能の問題,および感覚系の問題があげられよう。感覚系については,感覚情報を統合した結果である自己身体位置の知覚が大きく関わるものと推察される。
空間における自己身体位置の知覚に関して,自覚的垂直位(体幹の垂直位知覚;以下,SPV)や,自覚的視性垂直位(視覚的垂直位知覚;以下,SVV)に関する研究が多数報告されている。SPVやSVVは身体傾斜により変化し,中でもSPVは側方傾斜座位により傾斜方向に変位し,傾斜角度,および維持時間に影響される。この現象は前後方向の垂直位知覚においても見られる可能性があり,車椅子上での体幹後傾座位を保持した場合にも,SPVが時間経過に伴い後方に変位するかもしれない。SPVに関与する要因には視覚や前庭機能,体性感覚などが挙げられるが,視覚情報への依存度は高いと思われる。それゆえ,閉眼状態では開眼状態に比べてSPVに何らかの影響が表れる可能性がある。そこで本研究は,車椅子を模した環境において身体の後方傾斜が前後方向における自覚的垂直位知覚に及ぼす影響と,それらの開眼閉眼での違いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は,前庭疾患及び脊椎・骨盤の整形外科的疾患の既往がない健常成人男性15名(31.0±3.6歳)であった。
実験は,車椅子での骨盤後傾位座位を想定し,背もたれ角度を5度,背もたれと大転子との間を大腿長の65%に相当する距離とした。
骨盤後傾座位は,保持時間5分,10分,15分の3条件,および閉眼(アイマスク着用)と開眼の2条件の,合わせて6条件について1試行ずつランダムな順番で行われた。
実験手順:1)C7棘突起,右肩峰,L3棘突起,右上前腸骨棘,右大転子に反射マーカーを貼付した。2)骨盤後傾座位から自覚的垂直位での座位姿勢を開眼と閉眼とでそれぞれ5回ずつ保持させた。3)骨盤後傾座位(6条件)をランダムな順番で試行させた。測定:手順2)と3)において,それぞれ「身体が垂直と感じる位置まで身体を起して下さい」と指示し,姿勢が一定となった時点で被験者の右方15mの位置に設置したカメラで撮影した。
画像解析にはImageJ 1.49h(NIH)を使用した。手順2)で撮影した5回の座位姿勢の平均値を介入前基準姿勢とした。介入前基準姿勢と各条件で得られた姿勢について,C7-大転子のマーカーを結ぶ線分と垂直線とのなす角度(体幹傾斜角とする)を計測し,体幹後傾方向を(+)として表した。
統計手法は,体幹傾斜角における視覚条件,および座位保持時間(介入前基準姿勢,5分,10分,15分)の影響は,繰り返しのある二元配置分散分析を行い,有意な影響が認められた場合にはBonferroniの多重比較検定を用いて検討された。なお統計解析にはSPSS 11.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
体幹傾斜角度に対する視覚条件(p<0.05),および座位保持時間(p<0.01)による有意な影響が認められた。閉眼条件では,すべての時間で体幹傾斜角度が開眼条件よりも有意に後傾していた。また,体幹傾斜角度は,介入前基準姿勢と比べていずれの座位時間も有意に後傾していた(p<0.01)。各座位時間の間における有意な影響は認められなかった。
【考察】
今回の実験では,閉眼条件では開眼条件に比べ体幹傾斜角が有意に後傾していたことから,前後方向における垂直位の知覚において視覚情報への依存度が高いことが示唆された。また視覚条件に関係なく骨盤後傾座位を5分間以上保持すると介入前基準姿勢と比べて体幹傾斜角が有意に後傾していた。以上のことから,5分以上の骨盤後傾座位を保持することにより,座位保持時間に関係なくSPVが後方に変位することが示唆された。
本実験の限界として,時間設定が短かったことや,対象を若年健常者のみとしたことが挙げられる。座位保持時間を長く設定した場合や,高齢者を対象とした場合には何らかの傾向がみられる可能性があり,今後さらなる検討を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果のような基礎データを蓄積することは,車椅子での不良姿勢の原因究明や,その予防及び改善のための方策について,感覚機能を切り口としてアプローチすることにつながる。