[P2-C-0505] 二重課題と環境設定が姿勢制御に与える影響について
Keywords:姿勢制御, 二重課題, 環境設定
【はじめに,目的】
姿勢制御は,課題依存的な性質と環境依存的な性質があることが知られている。例えば,同じ姿勢制御条件であっても,二重課題条件下では姿勢制御が困難になることが多くの疾患で報告されている。しかし,環境から受ける影響により,姿勢制御がどのような影響を受けるかについては十分に検証されていない。本研究の目的は,姿勢制御に影響を与える二重課題と,環境設定の相互作用を明らかにすることである。
【方法】
対象は,健常若年者10名とした(年齢22.8±1.5歳)。姿勢制御課題として被験者が台車上に台車の持ち手と反対方向を向いて立ち,検者が台車を30回以上前後方向に揺らすことによる外乱に対する姿勢制御課題を行った。実験条件は,被験者に二重課題を行うものと行わないものの2種類を設定し,各々に対して台車中央と先端の位置で立位を行わせる計4条件{二重課題なし・台車中央(以下NC),二重課題あり・台車中央(以下DC),二重課題なし・台車先端(以下NF),二重課題あり・台車先端(以下DF)}で測定を行った。二重課題の課題内容は100から素数を順に減ずるものとし,各課題条件はランダムな順序で実施した。課題中の外乱とその反応を定量化する目的で,加速度計を用いて台車の前進方向の加速度(以下,台ACC)と被検者の右側の腓骨頭の加速度(以下,下腿ACC)を測定した。また,外乱に対する応答を知る目的で,筋電図を右側の前脛骨筋(以下,TA)と外側腓腹筋(以下,GAS)より導出した。筋活動と加速度の測定は,Delsys社製3軸加速度筋電計Trigno Wireless Systemを用いて行った。得られた筋電図および加速度は20Hz-250Hzのband_pass filterでフィルター処理後,筋電図は50msのRMS波形で平滑化した。加速度は,外乱方向の軸のみを解析に用い,台ACCは100ms,下腿ACCは500msの平均波形で平滑化した。台ACCの最小-最小間毎で区切り30個の区間を作り,その区間ごとに台車の最大加速度(前進方向の最大値)を検出した。その後,台車に加わる加速度が条件ごとに同じ加速度(加速度の差が±0.02未満)となるように試行をマッチングさせ,等しい外乱となるように調整した。筋電図は最大等尺性収縮時の値で除して正規化した。4条件間での台の揺れに対する下腿の動揺の程度や筋活動の変化を検討するため,下腿ACC・振幅,TA,GASにおいてそれぞれ,Wilcoxonの符号付順位検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【結果】
どの条件下においても,一回の揺れの中で,GASはほぼ一定の筋活動を示し,TAは台車が後方へ加速するタイミングでのみ増加していた。NCとNFとの比較では,NFで下腿ACC,TAとGASの筋活動が有意に上昇した(p<0.05)。DCとDFとの比較では,DFで下腿振幅が有意に上昇した(p<0.05)。NCとDC,NFとDF,NCとDFのそれぞれの比較において有意差は認められなかった。
【考察】
二重課題による姿勢制御の変化(NC vs. DC)は,認められなかった。しかし,環境条件による変化(NC vs. NF)において下腿ACC,TA・GASの筋活動が有意に変化した。したがって,二重課題の影響よりも環境設定の影響が強いことが示唆された。台車先端ではGASの筋活動を強め下腿の揺れを小さくすることで台車から落下しないようにする必要があり,その反動として後方に倒れないようTAが活動を強くすると考えられる。これが台車中央と先端との環境の違いを生じさせると考えられる。さらに,二重課題下で環境の変化を加えた場合(DC vs. DF),下腿の揺れに対しては二重課題をしていない場合と同様な環境の影響が見られたが,応答である筋活動には差が認められなかった。これは二重課題を行うことで計算課題に注意が向き,環境への認知負荷が小さくなることを示していると考えられる。以上のことから,二重課題によって環境の影響は打ち消される可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法を行う際,環境の影響と課題の影響は相互に作用しあう可能性があることが示唆された。二重課題を行うことで環境に対する制御が行えなくなる可能性があるとともに,過剰な精神的緊張などにより環境の影響を受けやすい場合には二重課題により,その影響を低減できるかもしれない。
姿勢制御は,課題依存的な性質と環境依存的な性質があることが知られている。例えば,同じ姿勢制御条件であっても,二重課題条件下では姿勢制御が困難になることが多くの疾患で報告されている。しかし,環境から受ける影響により,姿勢制御がどのような影響を受けるかについては十分に検証されていない。本研究の目的は,姿勢制御に影響を与える二重課題と,環境設定の相互作用を明らかにすることである。
【方法】
対象は,健常若年者10名とした(年齢22.8±1.5歳)。姿勢制御課題として被験者が台車上に台車の持ち手と反対方向を向いて立ち,検者が台車を30回以上前後方向に揺らすことによる外乱に対する姿勢制御課題を行った。実験条件は,被験者に二重課題を行うものと行わないものの2種類を設定し,各々に対して台車中央と先端の位置で立位を行わせる計4条件{二重課題なし・台車中央(以下NC),二重課題あり・台車中央(以下DC),二重課題なし・台車先端(以下NF),二重課題あり・台車先端(以下DF)}で測定を行った。二重課題の課題内容は100から素数を順に減ずるものとし,各課題条件はランダムな順序で実施した。課題中の外乱とその反応を定量化する目的で,加速度計を用いて台車の前進方向の加速度(以下,台ACC)と被検者の右側の腓骨頭の加速度(以下,下腿ACC)を測定した。また,外乱に対する応答を知る目的で,筋電図を右側の前脛骨筋(以下,TA)と外側腓腹筋(以下,GAS)より導出した。筋活動と加速度の測定は,Delsys社製3軸加速度筋電計Trigno Wireless Systemを用いて行った。得られた筋電図および加速度は20Hz-250Hzのband_pass filterでフィルター処理後,筋電図は50msのRMS波形で平滑化した。加速度は,外乱方向の軸のみを解析に用い,台ACCは100ms,下腿ACCは500msの平均波形で平滑化した。台ACCの最小-最小間毎で区切り30個の区間を作り,その区間ごとに台車の最大加速度(前進方向の最大値)を検出した。その後,台車に加わる加速度が条件ごとに同じ加速度(加速度の差が±0.02未満)となるように試行をマッチングさせ,等しい外乱となるように調整した。筋電図は最大等尺性収縮時の値で除して正規化した。4条件間での台の揺れに対する下腿の動揺の程度や筋活動の変化を検討するため,下腿ACC・振幅,TA,GASにおいてそれぞれ,Wilcoxonの符号付順位検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【結果】
どの条件下においても,一回の揺れの中で,GASはほぼ一定の筋活動を示し,TAは台車が後方へ加速するタイミングでのみ増加していた。NCとNFとの比較では,NFで下腿ACC,TAとGASの筋活動が有意に上昇した(p<0.05)。DCとDFとの比較では,DFで下腿振幅が有意に上昇した(p<0.05)。NCとDC,NFとDF,NCとDFのそれぞれの比較において有意差は認められなかった。
【考察】
二重課題による姿勢制御の変化(NC vs. DC)は,認められなかった。しかし,環境条件による変化(NC vs. NF)において下腿ACC,TA・GASの筋活動が有意に変化した。したがって,二重課題の影響よりも環境設定の影響が強いことが示唆された。台車先端ではGASの筋活動を強め下腿の揺れを小さくすることで台車から落下しないようにする必要があり,その反動として後方に倒れないようTAが活動を強くすると考えられる。これが台車中央と先端との環境の違いを生じさせると考えられる。さらに,二重課題下で環境の変化を加えた場合(DC vs. DF),下腿の揺れに対しては二重課題をしていない場合と同様な環境の影響が見られたが,応答である筋活動には差が認められなかった。これは二重課題を行うことで計算課題に注意が向き,環境への認知負荷が小さくなることを示していると考えられる。以上のことから,二重課題によって環境の影響は打ち消される可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法を行う際,環境の影響と課題の影響は相互に作用しあう可能性があることが示唆された。二重課題を行うことで環境に対する制御が行えなくなる可能性があるとともに,過剰な精神的緊張などにより環境の影響を受けやすい場合には二重課題により,その影響を低減できるかもしれない。