第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

生体評価学1

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0522] 大腿四頭筋の最大トルク発揮時間から筋疲労率は予測可能か?

~筋疲労率予測因子の検討~

藤沢千春1,2, 玉木彰2, 山田英司3 (1.神鋼病院リハビリテーションセンター, 2.兵庫医療大学大学院医療科学研究科, 3.総合病院回生病院関節外科センター附属理学療法部)

キーワード:筋疲労, 最大トルク発揮時間, 最大トルク値

【はじめに,目的】
筋疲労試験は健常者やスポーツ選手を対象とした等速性運動で連続的に最大筋収縮をさせる方法や負荷設定された最大挙上重量の反復回数を測定する方法,更には自転車エルゴメーターを用いた無酸素性試験など様々な測定方法で評価されてきた。しかしながら,筋疲労試験は被験者に対する身体負荷量が大きいことから理学療法対象患者への臨床応用が困難であるのが現状である。したがって,臨床応用性を高めるには身体負荷が少なく筋疲労を予測できる方法が必要であると考えられる。本研究の目的は,最大トルク値と最大トルク発揮時間,筋厚から筋疲労率が予測可能かを検討し,更に,最大トルク値と最大トルク発揮時間の関係性を分析することである。
【方法】
対象者を2013年12月から2014年5月の間に兵庫医療大学校内で募集した。事前に予備研究を行い,筋疲労率(以下F.I.)と最大トルク発揮時間の結果からGpower 3.1を使用してサンプルサイズを算出した。予備研究(n=13)においてF.I.と最大トルク発揮時間の決定係数は0.405であった。この結果より,エフェクトサイズを決定し,有意水準を5%,検出力を95%に設定し,両側検定にてサンプルサイズを決定したところ計22名が必要であったが,データエラーを考慮して25名を研究対象とした。筋疲労評価および等速性膝伸展筋力測定は,等速性筋力測定装置を用いて,膝関節屈曲位90°から伸展位0°間の膝関節伸展屈曲運動を角速度180°で連続32回実施した。測定項目は膝関節伸展時の最大トルク値(PT値),最大トルク発揮時間とした。F.I.は等速性膝伸展筋力測定より得られた30回のPT値よりF.I.=100-[(最終5回のPT値/最初の5回のPT値)×100]の式にて算出した。膝関節伸展1回目と32回目は情報バイアスを考慮して解析から除外した。大腿四頭筋筋厚の測定は超音波診断装置を用い,モードは二次元のB-mode,プローブ7.5MHz,深さ4.0cmとした。測定姿勢は背臥位で膝関節伸展0°で測定した。測定部位は膝蓋骨外側部から上前腸骨棘長の2/3の位置とし,外側広筋を測定した。尚,超音波診断装置を用いた外側広筋の測定は事前に検査者内の信頼性を検討するために級内相関係数を実施し,0.89%(95%IC:0.69~0.99)と高い信頼性であることを確認して実施した。統計学的処理はピアソンの積率相関係数と単回帰分析を実施し,統計解析はR 2.8.1を使用して統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
各測定項目においてF.I.は28.02±9.23%,最大トルク発揮時間は0.23±0.05秒,PT値は104.94±32.56Nm,筋厚は1.9±0.33cmであった。ピアソンの積率相関係数の結果,F.I.と最大トルク発揮時間の間および最大トルク発揮時間とPT値の間に負の相関(r=-0.53,p<0.01,r=-0.42,p<0.01)を認め,PT値と筋厚に正の相関(r=0.38,p<0.05)がそれぞれ認められた。筋厚とF.I.,F.I.,最大トルク発揮時間の間に相関関係は認められなかった(p>0.05)。単回帰分析では目的変数をF.I.とし,説明変数を最大トルク発揮時間とした結果,y=-92.04x+48.87で決定係数は0.256であった。目的変数を最大トルク発揮時間,説明変数をPT値とした結果ではy=0.007x+0.3,決定係数は0.179であった。
【考察】
本研究の結果から,PT値が上昇するほど最大トルク発揮時間が短くなる傾向にあり,加えて最大トルク発揮時間が短くなるほど筋疲労は大きくなる傾向にあった。したがって,定速度・時間の中で爆発的に筋出力が生成できるほど最大トルク発揮時間の短縮とPT値の上昇が生じるものと考えられる。また,本研究結果では,PT値の減少は最大トルク発揮時間を延長させF.I.が低下することを示唆している。健常者を対象に,筋収縮速度と収縮時間を一定にした条件下での最大筋収縮においては,最大トルク発揮時間が最も筋疲労率を予測できる因子であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
筋疲労評価は被験者への負担が大きい特徴があり,臨床上で身体機能が大幅に低下した理学療法対象患者に対しての筋疲労評価は実施が困難となる場合が多い。そのため,身体への負担の少ない評価方法で筋疲労率が予測できる因子を検討する意義は大きい。