第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学1

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0525] 軽度嚥下障害患者における嚥下量の違いが嚥下音,呼気音の音響特性に与える影響

森下元賀1, 曽田淳也2, 小林まり子2, 水谷雅年1 (1.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科, 2.医療法人思誠会渡辺病院リハビリテーション科)

Keywords:嚥下障害, 嚥下音, 音響解析

【はじめに,目的】脳卒中,神経筋疾患,加齢などの影響によって嚥下機能は低下する。嚥下機能の低下は誤嚥性肺炎のリスクを増大させ,廃用症候群による寝たきりの原因ともなる。これらのことから,理学療法の対象となる高齢者において嚥下機能を適切に把握しておくことは,誤嚥性肺炎を予防する上でも重要となる。通常,正確な摂食嚥下機能の検査は,嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)などによって行われる。しかし,これらは実施するために必要な環境整備と専門のスタッフの配置が必要であり,在宅や高齢者通所,入所施設で現実にはあまり実施されていない。間接的な嚥下スクリーニング検査として,反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテストが行われているが,これらは間接的な手法であり嚥下状態を正確に捉えているとは言い難い。これまでの研究では嚥下時と嚥下後の呼気時の嚥下音の解析を行うことによって,嚥下後の咽頭残留の程度を把握できるといわれている。そこで,改訂水飲みテストにおいて軽度嚥下障害と判定された入院高齢者を対象に,嚥下時と嚥下後の呼気時の音響解析を行い,嚥下量の程度によって咽頭残留が異なるかを健常若年者と比較することを本研究の目的とした。
【方法】対象は,医師,言語聴覚士によって軽度嚥下障害と診断された入院高齢患者8名(平均年齢85.8±7.4歳,改訂水飲みテスト3点:2名,4点:6名),摂食嚥下機能に問題のない健常若年者9名(平均年齢20.7±0.7歳)とした。方法は5,10,20,30mlの常温水道水をコップより摂取し,自由なタイミングで嚥下させた。嚥下後すぐに随意的な呼気を行い,その際の呼気音の記録も行った。各摂取量の間は十分な時間を空けて行った。嚥下音,呼気音の計測にはCardio Microphone(AD Instruments社製,MLT201)を輪状軟骨直下気管外側に装着し,Powerlab(AD Instruments社製,ML846GP)を介して音響データをLabChart Version.8に取り込み,解析を行った。得られた嚥下音,呼気音の波形から,嚥下音以外を反映しているといわれている30Hz以下の周波数を遮断し,嚥下音持続時間,嚥下時,呼気時の平均振幅周波数(Mean Amplitude Frequency:MAF),平均パワー周波数(Mean Power Frequency:MPF)をFFT解析によって行った。統計学的検定はSPSS Statics Version20を用いて,嚥下量と患者群,健常若年者群との関係において二元配置分散分析を用いて行った。
【結果】嚥下音持続時間は,全ての嚥下量で患者群において有意に時間が延長していた(p<0.05)。嚥下量による差は両群で認められなかった。嚥下時のMAFは患者群が5ml,10ml,20ml,30mlの順に,151.0±34.9Hz,145.1±23.1Hz,142.8±34.6Hz,138.0±42.2Hzであり,嚥下量による差は認めなかった。健常若年者群では5ml,10ml,20ml,30mlの順に,109.9±12.5Hz,108.6±15.7Hz,114.0±14.6Hz,111.1±13.8Hzであり,嚥下量による差は認められなかった。患者群と健常若年者群の比較では,全ての嚥下量で患者群のほうが有意に周波数が大きかった(p<0.05)。MPFに関しては嚥下量,各群間に有意差を認めなかった。呼気時のMAFは患者群が5ml,10ml,20ml,30mlの順に,129.9±15.7Hz,136.2.±25.2Hz,141.4±31.1Hz,153.9±28.7Hzであり,5mlと比較して,20ml,30mlで有意に周波数が大きかった(p<0.05)。健常若年者群では5ml,10ml,20ml,30mlの順に,119.0±20.2Hz,113.4±23.4Hz,111.9±20.8Hz,115.0±19.8Hzであり,嚥下量による差は認められなかった。患者群と健常若年者群の比較では,10ml,20ml,30mlで患者群のほうが有意に周波数が大きかった(p<0.05)。MPFに関しては嚥下量,各群間に有意差を認めなかった。
【考察】患者群の嚥下時のMAFは高値を示している事から速度成分として早い状態であることが明らかになった。また,嚥下音持続時間は患者群の方で延長していることから,嚥下運動が緩徐になっていることを示された。これらのことは嚥下が効率的に行えていないことを意味している。呼気時のMAFは患者群で高値を示し,嚥下量の増加とともに高値となっていくことから,咽頭残留の増加による呼気音の変化の可能性が示された。これらのことから,特に嚥下後の呼気音の音響解析は咽頭残留の程度の把握に有用である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,軽度嚥下障害を有する患者の嚥下音,呼気音の音響特性を明らかにすることが出来た。これにより,VFやVEなどの専門の設備を持たない施設,在宅等においても嚥下後の咽頭残留の程度を音響測定によって把握し,安全な食形態の検討に役立てられるものと考える。