第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0528] 近赤外分光法(NIRS)による局所筋疲労の解析

荒金晃平, 佐藤仁美, 平井健太朗, 森田正治 (国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科)

キーワード:筋疲労, 近赤外分光法(NIRS), 血中酸素動態

【はじめに,目的】
本研究の目的は,健常成人を対象に運動強度条件の違いによる局所筋の疲労程度について,血中酸素動態の変化を非観血的に測定する近赤外分光法(以下NIRS)を用いて分析することである。
【方法】
整形外科的疾患を有さない健常成人16名(男性9名,女性7名,平均年齢21.7±0.6歳)を対象とした。対象筋は前脛骨筋とし,底背屈中間位で筋機能解析装置(Biodex system 3)を用いて最大等尺性収縮(以下MVC)の測定を3回行い,得られた値のうち最大値をMVCとして採用した。十分に休息を入れた後,同肢位にて各%MVC条件(20%,40%,60%,80%)で30秒間の等尺性収縮を60秒の休憩をはさみ3回実施した。また,3回目の20%MVC実施後には120秒間の休憩を入れ,引き続き40%,60%,80%MVCでも同様の運動課題を実施した。対象筋上の皮膚にNIRS(Spectratech社製)のプローブを取り付け,770nmと840nmの2波形の近赤外線吸収係数から血中の酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの濃度変化量(⊿Coxy・D,⊿Cdeoxy・D)を算出し,その差(⊿Hb・D)を筋疲労の値として採用した。また,運動後の変化は,各運動強度3回目の実施直後(Hb00s)から10秒間隔で,運動後120秒(Hb120s)までの値を測定した。
統計解析はJSTAT for Windowsを用いて一元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合に多重比較を行った。
【結果】
前脛骨筋におけるHb00sの⊿Hb・Dは,運動強度が上がるにつれ,有意に高値を示した。運動後の時間経過に伴う⊿Hb・Dは,20%MVCと40%MVCの間では差を認めなかったが,20%MVCと60%MVC及び80%MVCの間では有意差を認めた。また,各運動強度ともHb00sからHb10sの間で⊿Hb・Dは有意な変化を示した(p<0.0001)。さらに,Hb00sとHb20sからHb120sにかけての⊿Hb・Dは,20%MVC,40%MVC,60%MVCのそれぞれにおいては有意な変化を示したが,80%MVCでは変化を示さなかった。
【考察】
Hb00sの⊿Hb・Dは,運動強度が上がるにつれ有意差を認めた。特に80%MVCは20%MVCの3倍を超える⊿Hb・Dの変化を示しており,このことは運動強度に伴う筋疲労の程度の増加を反映していると考えられる。また,今回,同負荷の試行回数の影響について確認していないが,運動強度だけではなく試行回数の影響も受けていると思われる。
運動後の時間経過に伴う⊿Hb・Dは,20%MVCと40%MVC間では差を認めなかったが,20%MVCと60%MVCあるいは80%MVC間では有意差を認めた。⊿Coxy・Dは,60%MVC,80%MVCにおいて,b00sからHb40sにかけての変化は著明であるが,Hb40s以降ではほとんど変化していない。このことから⊿Coxy・D濃度の変化は,運動強度に依存していると考えられる。
各運動強度ともHb00sからHb10sの間で⊿Hb・Dは顕著に上昇した。これは疲労に伴う局所筋への酸素不足を補うために,血管拡張に伴う血液が供給され,⊿Coxy・Dが増加したものと推測される。
森田らによると,20%MVCでの⊿Hb・Dは,Hb00sからHb30s間でも0に漸近したままであるが,80%MVCではHb00s以降,時間経過に伴い⊿Hb・Dは有意な変化を示し,また,試行回数の影響も受けなかったと報告している。本研究では,40%MVC及び60%MVCで先行研究と類似した結果を示したが,20%MVC及び80%MVCでは異なる結果を示した。20%MVCにおいては,対象者のほとんどが初動の筋出力が上手くできず,20%をはるかに超える60%~80%の出力で対応したため,低強度の20%MVCではあっても疲労に何らかの影響を及ぼしたと考える。また,60%MVCの段階で疲労を訴える者が多く存在した。すでにその段階で筋内圧により血管が圧迫され,血流量も減少し,80%MVCでは無酸素性の運動を余儀なくされ,Biodexのモニター上の目標レベルを維持できなかったと考える。このことからも,80%MVCの⊿Hb・Dは,明らかに他の運動強度と異なり,Hb00sの値に近づくような変化を示したと推測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で用いたNIRSは筋電図ではとらえられない運動強度に応じた運動後の疲労程度を計測する装置としては有用である。また,トレーニング後の疲労回復を血中酸素動態で評価することが容易であり,リハビリテーションにおける有用性が期待できる。