第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学3

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0544] スマートフォンを用いた歩数測定と目測での測定の一致度について

大久保雅人1, 水野公輔2, 有阪直哉3, 守田憲崇4, 柴喜崇1, 鶴田陽和4 (1.北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻, 2.北里大学東病院リハビリテーション部, 3.北里大学大学院医療系研究科医療情報学, 4.北里大学医療衛生学部基礎医学部門医療情報学)

Keywords:歩数, 10m歩行テスト, スマートフォン

【はじめに,目的】
10m歩行の測定における歩行速度や歩幅の評価は,転倒発生に関わる有用な指標である(新井ら,2011)。臨床場面における10m歩行の測定では,ストップウォッチで所要時間を測り目視で歩数を数える方法が取られているが,10m平均歩幅を計算するための歩数計測が,目視,かつ整数値で求められるため,正確な値を測定できていないのが現状である。シート式圧力センサなどを用いることで正確な歩幅や歩数を特定する方法もあるが,機器が高価であり,汎用面で問題がある。我々はこれまでに,スマートフォンに内蔵されている3軸加速度センサおよび角速度センサを使用して,歩行時の体幹・骨盤を運動学的に解析するための計測アプリケーションを開発しており,スマートフォンによる運動学的解析が,妥当性,再現性の面で,三次元位置解析装置と同様の性能を有することを示してきた(Mizunoら,2013)。また,3軸式加速度活動量計を用いた1分間の通常歩行における歩数計測は装着部位に関わらず有用な精度を保持していること(小泉ら,2013)も報告されている。そこで本研究では,スマートフォンの内臓センサを用いて,歩数を同定できるアルゴリズムを考案することを目的として,目測での歩数とアルゴリズムで算出された歩数を比較した。
【方法】
対象は,歩行が自立している地域在住の中・高齢者40名(平均年齢73.3±5.7歳,平均身長153.1±5.9cm,平均体重51.5±7.0kg,男性2名,女性38名)とした。なお測定には2台のスマートフォンを使用し,1台は測定用機器として被験者の胸骨前面にバンドを用いて固定し,もう1台はBlue tooth接続にて同期させ,ストップウォッチ機能を備えたリモコン機器として使用した。課題は10m快適歩行とし,被験者には「普段歩いている速度で歩いてください」と指示を与えた。なお歩行路は10mの測定区間と,前後に3mの補助路を設定した。測定は測定用機器がとらえた測定区間中の加速度データと角速度データ,リモコン機器による時間,及び目測での歩数カウントとした。歩数は臨床場面で通常用いられている方法とし,先行した足が開始線を踏む,または越えた時点を1歩目,終了線を踏む,または越えた時点でカウントを終了した。測定用機器,およびリモコン機器による測定は,身体中心位置が開始線を越えてから終了線を越えるまでの間とした。センサから得られた重力加速度(m/s2),運動加速度(m/s2),角速度(degree/s),姿勢(degree),四元数のデータの中で,最も精度の高いデータを,目測で得られたデータと比較した。得られたデータから歩行以外の微細な振動を取り除くため,加速度がピークとなるタイミングで歩数をカウントすることとし,歩数をカウントした時刻から0±200(msec)以内に発生した波形に関しては歩数のカウントから除外した。
【結果】
得られたデータの中でもっとも精度が高かったデータはスマートフォンの鉛直方向の加速度データであった。目測による歩数との誤差範囲は±2歩であった。誤差の分布は目測を基準とすると,+2歩が1名,+1歩が16名,±0歩(目視と完全に一致)が18名,-1歩が4名,-2歩が1名であり誤差の平均値は+0.3歩であった。
【考察】
現時点での歩数測定において最も誤差の少ない方法は結果の通りであったが,臨床で使用するにはより良いアルゴリズムの考案が必要となる結果であった。誤差が生じた原因として,目測で歩数をカウントした時間と機器の計測時間で開始時,および終了時の時刻にずれが生じたことが考えられる。よって,誤差平均がプラス方向へ偏移した理由として,機器の測定を開始する前に先行した足が開始線を踏んでいた場合に,目測でカウントされた1歩が機器ではカウントされない事態が生じたためであると考えられた。今後,踵接地との同期を取るなどして,更に精度の向上を目指したい。また,本研究では正常な歩容をしている被験者を対象としており,異常歩行を呈している人に対しては検証していない。臨床活用に向けて,精度を高める必要があり,今後は異常歩行を考慮にいれたアルゴリズムを考案し,より汎用性に富むツールを開発する予定である。
【理学療法学研究としての意義】
スマートフォンによる歩数の同定に関する精度が向上することで,臨床場面で簡便かつ正確に10m歩行時の歩数測定が実現できる可能性が示唆された。今後10m歩行における歩数をビックデータとして扱うための,データ収集手段となりうる可能性がある。