第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

変形性膝関節症4

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0574] 人工膝関節置換術後1年における膝関節屈曲拘縮は運動機能や術後の活動性の低下と関連する

西川徹1, 南角学1, 西村純1, 布留守敏2, 伊藤宣2, 栗山新一2, 池口良輔1,2, 松田秀一1,2 (1.京都大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.京都大学医学部整形外科)

Keywords:人工膝関節置換術, 可動域, 運動機能

【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)術後においては,膝関節の関節可動域(以下,ROM)の拡大や下肢筋力の向上を図りながら,歩行を中心とした動作能力の改善を目的に理学療法を展開していく。しかしながら,TKA術後患者が抱える主な問題点として,膝関節痛,膝関節ROM制限,下肢筋力の低下,歩行能力および術後の活動性の低下が報告されている。TKA術後により適切で根拠のある治療方針や理学療法プログラムの立案のためには,それぞれの問題点の関連性を把握することが必要となる。臨床場面において,TKA術後長期が経過した場合においても膝関節屈曲拘縮とともに運動機能の低下を呈する症例を経験する。TKA術後における膝関節屈曲拘縮がその他の問題点に与える影響を検討することは適切に介入していくために極めて重要であるが,これらの関連性を検討した報告は少ない。そこで,本研究の目的は,TKA術後1年の膝関節屈曲拘縮が運動機能や術後の活動性に及ぼす影響を検討することである。

【対象と方法】対象はTKAを施行された39名(男性6名,女性33名,年齢72.5±6.8歳,BMI 26.1±4.6kg/m2)とした。対象者は当院のTKA術後プロトコールに準じてリハビリテーションを行い,術後3週で退院となった。測定項目はTKA術後1年の歩行能力,術側の膝関節ROM,下肢筋力,片脚立位時間とした。歩行能力としてはTimed up and go test(以下,TUG)を用いて測定した。膝関節ROMの測定は,日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて術側の屈曲と伸展のROMを計測し,5°単位にて記録した。下肢筋力は術側の膝関節伸展・屈曲筋力を測定し,測定にはIsoforceGT-330(OG技研社製)を用いた。筋力値として膝関節伸展・屈曲筋力はトルク体重比(Nm/kg)を算出した。それぞれ2回測定し最大値を採用した。また,患者立脚型評価として,2011 knee society scoreを用いてTKA術後1年の歩行時の疼痛と術後の活動性を評価した。さらに,TKA術後1年での術側の膝関節伸展のROMを測定し,伸展角度が0°であった症例(以下,A群)と5°以上の伸展制限を認めた症例(以下,B群)の2群に分類した。統計処理は,2群間の各測定項目の比較には,カイ二乗検定,対応の無いt検定,Mann-WhitneyのU検定を用い,統計学的有意基準は危険率5%未満とした。

【結果】A群は23名(男性2名,女性21名,年齢72.3±6.6歳,BMI 26.6±4.8kg/m2),B群は16名(男性4名,女性12名,年齢73.7±7.0歳,BMI 25.3±4.2kg/m2)であり,性別,年齢,BMIは両群間に有意差を認めなかった。TUGはA群8.3±2.7秒,B群12.5±7.1秒であり,A群はB群と比較して有意に低い値を示した。膝関節屈曲筋力はA群0.55±0.16Nm/kg,B群0.34±0.22Nm/kg,膝関節伸展筋力はA群1.24±0.35Nm/kg,B群0.98±0.43Nm/kgであり,膝関節屈曲筋力に関してはB群はA群と比較して有意に低い値を示し,膝関節伸展筋力に関しては両群間に有意差を認めなかったもののA群と比較してB群は低い傾向を示した(p=0.056)。また,術側の膝関節屈曲ROMと片脚立位時間については,いずれも両群間に有意差を認めなかった。平地歩行時の疼痛のスコアはA群8.5±1.6点,B群7.1±2.1点でありB群はA群と比較して有意に低い値を示した。また,術後の活動性のスコアはA群65.3±19.9点,B群45.7±23.6点であり,B群はA群と比較して有意に低い値を示した。

【考察】本研究の結果から,TKA術後1年において,約4割の症例で膝関節屈曲拘縮を呈していることが明らかとなった。さらに,TKA術後1年での膝関節屈曲拘縮を認める症例では,膝関節痛の増加とともに下肢筋力と術後の活動性の低下を認めていることが示された。この結果から,TKA術後に下肢筋力の向上や術後の活動性の改善を図っていくためには,術後早期から膝関節伸展ROMの拡大に取り組むとともに術後定期的な膝関節ROMの評価や介入が重要となると考えられた。

【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,TKA術後の長期的な運動機能の改善や術後の活動性を確保するための根拠のある治療方針の一助となることを示唆していると考えられ,理学療法研究として意義があると思われた。