[P2-C-0580] 人工膝関節全置換術後患者のステップ動作における下肢筋の筋活動パターンの検討
Keywords:人工膝関節全置換術, ステップ動作, 筋活動パターン
【はじめに,目的】
ステップ動作は歩行あるいは歩行開始動作の再現や歩行時の姿勢修正を目的として理学療法で使用される臨床上,有用な動作である。ステップ動作では運動開始前に予測的姿勢調節として,事前に重心動揺を調整する筋活動が見られることが健常高齢者を対象として報告されている。予測的姿勢調節の障害はバランス機能の低下や転倒リスクに影響する可能性があるため,ステップ動作における姿勢調節の神経筋機構を理解することは重要である。人工膝関節全置換術(以下,TKA)後患者では,歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加するなどの神経筋機構の障害が報告されているが,筋活動開始時間などの筋活動パターンに関する報告は見当たらない。本研究の目的は,ステップ動作課題を用いてTKA患者の下肢筋の筋活動パターンについて調査し,術後の理学療法を検討する上での一助を得ることとした。
【方法】
対象はTKA後4週が経過した10名(TKA群:男2女8名,平均年齢68.6歳)と年齢をマッチさせた健常高齢者10名(健常群:男1女9名,平均年齢68.0歳)とした。施行動作は,歩隔程度に開脚した安静立位を開始肢位とし,音刺激開始後すぐに,TKA群は非術側を,健常群は非利き足を,身長の40%のラインを踵が超えるように前方へ踏み出す動作とした。なお,対象者には下肢を前方に踏み出した後,踏み出した下肢へしっかりと体重移動し,支持脚を一歩前へ出すよう指示した。筋活動開始時間の測定はNoraxon社製筋電計(TELEMYO G2)を使用し,導出筋は支持脚の大殿筋,中殿筋,長内転筋,外側広筋,大腿二頭筋,前脛骨筋および外側腓腹筋とした。音刺激開始をtime0とし,音刺激開始直前の安静立位100msでの平均筋活動を基線とし,time0から基線より2SDの範囲を越えた最初の時間を筋活動開始時間と定義した。また,前方へ踏み出した下肢の足底にフットスイッチを取り付け,下肢挙上開始時間を測定した。統計学的分析として,TKA群と健常群の筋活動開始時間および下肢挙上開始時間の比較ならびに各群における筋活動開始時間と下肢挙上開始時間の比較に二元配置分散分析を使用し,多重比較の調整としてBonferroni法を用いた。また,下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連性の検討にPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
TKA群と健常群の比較について,外側広筋の筋活動開始時間は健常群(0.36±0.17s)と比較してTKA群(0.68±0.43s)で有意に遅延した。その他の筋活動開始時間および下肢挙上開始時間には有意な差を認めなった。各群における比較について,TKA群では下肢挙上開始時間と比較して,外側広筋を除く全ての筋の筋活動開始時間が有意に早かった(p<0.05)。健常群では下肢挙上開始時間と比較して,大殿筋を除く全ての筋の筋活動開始時間が有意に早かった(p<0.05)。また,下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連について,TKA群では,下肢挙上開始時間と長内転筋,外側広筋および大腿二頭筋は有意な相関を認めた(各r=0.78,0.77,0.91)。健常群では,下肢挙上開始時間と中殿筋および外側広筋は有意な相関を認めた(各r=0.71,0.72)。
【考察】
本研究結果から,TKA群では外側広筋の筋活動開始時間が健常群より有意に遅延し,また,両群で下肢挙上開始時間より筋活動開始時間が有意に早くなる筋に違いがあることが観察された。Horakらはある局所の関節機能が障害された場合,代償的に他の関節による姿勢制御戦略を用いることを述べており,TKA患者のステップ動作では大腿四頭筋の筋機能の低下を股関節で代償する正常とは異なった筋活動パターンを用いる可能性が示唆された。下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連性について,TKA群と健常群では有意な相関を示す筋に違いが見られ,TKA群では特に大腿二頭筋と強い相関を示した。TKA群では,膝屈筋の活動を早めることで,膝の同時収縮を早め,動作開始前の姿勢安定化を図っていることが推察されるが,今後,筋活動量などより詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
ステップ動作は静的状態から動的状態への移行動作であり,その神経筋機構について理解することは,立位における動作開始時の姿勢安定性への理解に繋がり,転倒予防に関する一助を提供する可能性がある。本研究で観察された筋活動パターンの違いがTKA後の立位動作の安定性に影響することも予想されるため,今後,TKA後の筋活動パターンの変化がパフォーマンスに与える影響などについて調査し,更なる検討を進めたい。
ステップ動作は歩行あるいは歩行開始動作の再現や歩行時の姿勢修正を目的として理学療法で使用される臨床上,有用な動作である。ステップ動作では運動開始前に予測的姿勢調節として,事前に重心動揺を調整する筋活動が見られることが健常高齢者を対象として報告されている。予測的姿勢調節の障害はバランス機能の低下や転倒リスクに影響する可能性があるため,ステップ動作における姿勢調節の神経筋機構を理解することは重要である。人工膝関節全置換術(以下,TKA)後患者では,歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加するなどの神経筋機構の障害が報告されているが,筋活動開始時間などの筋活動パターンに関する報告は見当たらない。本研究の目的は,ステップ動作課題を用いてTKA患者の下肢筋の筋活動パターンについて調査し,術後の理学療法を検討する上での一助を得ることとした。
【方法】
対象はTKA後4週が経過した10名(TKA群:男2女8名,平均年齢68.6歳)と年齢をマッチさせた健常高齢者10名(健常群:男1女9名,平均年齢68.0歳)とした。施行動作は,歩隔程度に開脚した安静立位を開始肢位とし,音刺激開始後すぐに,TKA群は非術側を,健常群は非利き足を,身長の40%のラインを踵が超えるように前方へ踏み出す動作とした。なお,対象者には下肢を前方に踏み出した後,踏み出した下肢へしっかりと体重移動し,支持脚を一歩前へ出すよう指示した。筋活動開始時間の測定はNoraxon社製筋電計(TELEMYO G2)を使用し,導出筋は支持脚の大殿筋,中殿筋,長内転筋,外側広筋,大腿二頭筋,前脛骨筋および外側腓腹筋とした。音刺激開始をtime0とし,音刺激開始直前の安静立位100msでの平均筋活動を基線とし,time0から基線より2SDの範囲を越えた最初の時間を筋活動開始時間と定義した。また,前方へ踏み出した下肢の足底にフットスイッチを取り付け,下肢挙上開始時間を測定した。統計学的分析として,TKA群と健常群の筋活動開始時間および下肢挙上開始時間の比較ならびに各群における筋活動開始時間と下肢挙上開始時間の比較に二元配置分散分析を使用し,多重比較の調整としてBonferroni法を用いた。また,下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連性の検討にPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
TKA群と健常群の比較について,外側広筋の筋活動開始時間は健常群(0.36±0.17s)と比較してTKA群(0.68±0.43s)で有意に遅延した。その他の筋活動開始時間および下肢挙上開始時間には有意な差を認めなった。各群における比較について,TKA群では下肢挙上開始時間と比較して,外側広筋を除く全ての筋の筋活動開始時間が有意に早かった(p<0.05)。健常群では下肢挙上開始時間と比較して,大殿筋を除く全ての筋の筋活動開始時間が有意に早かった(p<0.05)。また,下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連について,TKA群では,下肢挙上開始時間と長内転筋,外側広筋および大腿二頭筋は有意な相関を認めた(各r=0.78,0.77,0.91)。健常群では,下肢挙上開始時間と中殿筋および外側広筋は有意な相関を認めた(各r=0.71,0.72)。
【考察】
本研究結果から,TKA群では外側広筋の筋活動開始時間が健常群より有意に遅延し,また,両群で下肢挙上開始時間より筋活動開始時間が有意に早くなる筋に違いがあることが観察された。Horakらはある局所の関節機能が障害された場合,代償的に他の関節による姿勢制御戦略を用いることを述べており,TKA患者のステップ動作では大腿四頭筋の筋機能の低下を股関節で代償する正常とは異なった筋活動パターンを用いる可能性が示唆された。下肢挙上開始時間と筋活動開始時間の関連性について,TKA群と健常群では有意な相関を示す筋に違いが見られ,TKA群では特に大腿二頭筋と強い相関を示した。TKA群では,膝屈筋の活動を早めることで,膝の同時収縮を早め,動作開始前の姿勢安定化を図っていることが推察されるが,今後,筋活動量などより詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
ステップ動作は静的状態から動的状態への移行動作であり,その神経筋機構について理解することは,立位における動作開始時の姿勢安定性への理解に繋がり,転倒予防に関する一助を提供する可能性がある。本研究で観察された筋活動パターンの違いがTKA後の立位動作の安定性に影響することも予想されるため,今後,TKA後の筋活動パターンの変化がパフォーマンスに与える影響などについて調査し,更なる検討を進めたい。