第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

変形性膝関節症5・ACL損傷

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0583] 前十字靱帯再建術後12ヵ月までの最大膝伸展筋力と膝関節運動の切り替え時間の関連

山内智之, 木村忠彰, 安達玉恵, 富樫俊文, 垣見修平, 脇田洋平, 辻真莉子 (日本大学病院リハビリテーション科)

キーワード:前十字靱帯再建術, 最大膝伸展筋力, 切り替え時間

【はじめに,目的】
臨床上,膝関節疾患や膝関節手術後などで膝関節の伸展・屈曲運動の切り替えが乏しい患者では,膝伸展筋力が弱い印象を受ける。膝関節の靱帯損傷で一般的な前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷の再建術後の患者において,膝伸展トルクの回復は非常に重要な問題であり,閉鎖運動連鎖においては,大腿四頭筋の収縮は膝関節前方剪断力の主要な制動因子であると述べられている。つまり,ACL再建術後の膝伸展筋の筋力強化・回復は重要であり,脛骨前方移動の制動においても大切な要因である。しかし,最大膝伸展筋力と膝関節の運動切り替え時間について検討した報告は渉猟した限り見られなかった。そこで本研究の目的は,ACL再建術後3・6・9・12ヵ月の最大膝伸展筋力と膝関節運動の切り替え時間の関連を検討することとした。
【方法】
2010年4月から2013年3月までに,同一施設内で半腱様筋腱を用いてACL再建を解剖学的二重束再建術にて行い,術後3・6・9・12ヵ月の時点で評価が可能な同一者とした。除外基準は半月板損傷(切除・縫合),軟骨損傷,ACL以外の靱帯損傷,変形性膝関節症を有する者とした。対象はACL再建術後の患者16名(男性:11名,女性:5名),筋力測定機器はサイベックス770-NORMを使用し,最大膝伸展筋力は角速度60度/秒で測定した。最大膝伸展筋力の値は,試行間での最大値とした。屈曲位から伸展運動への切り替え時間は,屈曲トルクが0になり伸展トルクが0超過になるまでの時間とした。膝関節の運動切り替え時間は,筋力測定と同時に測定され,試行間での平均値を抽出した。調査方法は患者データを後方視的に抽出した。検討項目は,最大膝伸展筋力と切り替え時間の二項目とした。データ解析ソフトはJSTAT for windowsを使用し,対応のあるt検定を実施した(有意水準5%未満)。
【結果】
対象者の基礎データは平均値±標準偏差で,年齢が26±10.0歳,身長が168±10cm,体重が74±24kgであった。術後3・6・9・12ヵ月の患側の最大膝伸展筋力の%体重比と切り替え時間の平均値±標準偏差は,54±13%,0.068±0.014秒・62±11%,0.070±0.022秒・64±12%,0.065±0.015秒・69±14%,0.059±0.016秒であった。すべての時期で最大膝伸展筋力と切り替え時間の間に有意差を認めた。
【考察】
膝伸展筋力の低下と切り替え時間の延長に関して,Freedmanらは関節内・外の受容器の損傷や侵襲は,固有受容器が機能低下に陥り,筋の制御による反応時間の遅れが現れるとし,川島らはACL損傷側と健常側で,外乱刺激に対してEMGを測定した結果,末梢過程でACL損傷側が有意に遅延していたと述べている。ここでの末梢過程とは表面筋電図を用い,刺激を加えてから筋電図波形が発生するまでの時間(電気力学的遅延)を指す。したがって,切り替え時間の延長には,神経-筋の機能低下が関与していると考えた。また膝伸展筋力の低下も,術後膝関節の神経-筋の機能低下による二次的な筋力低下の可能性が示唆された。
本研究の限界として,性別ごとに群間を分けていないこと,日常活動度が一定でないこと,筋電図学的な筋の質的評価を行っていないことなどが考えられた。さらに,臨床応用の可能性を高めるためには,対象を明確にし,量的評価に加え質的評価を加えることで,詳細な分析が可能になると考える。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後には最大膝伸展筋力の低下と切り替え時間の延長を認め,要因として筋収縮の制御不良の存在が推察され,神経-筋の協調性が重要であると考えられた。