[P2-C-0586] カオス解析によるACL損傷患者の下肢関節不安定性の検証
キーワード:ACL, 三次元動作解析, 最大リアプノフ指数
【はじめに,目的】
前十字靭帯(ACL)損傷は着地,切り返しなどのスポーツ動作で生じ,スポーツレベル維持困難・日常生活に支障をきたす。またACL再建後も正常膝関節とは異なる関節運動が観察され,長期的な変形性膝関節症進行に関与しておりACL再建術のみでは変形性膝関節症を予防できないと報告されている。ACL再建術後に関する先行研究の多くは角度・モーメントの最大値を解析対象としており,外反角度・外反モーメントなどの最大値が大きいと動的安定性が低いと述べているが,これらは時系列な変化を考慮していないため動作特性を見過ごしている可能性がある。このことから動的不安定性の評価には時系列データを用いた解析が必要であると考えられる。
そこで本研究では動作特性を視覚的に評価するため各関節角度を1階時間微分し位相面解析を行うとともに下肢関節動的不安定性を定量化するため,関節角度の時系列データからカオス解析である最大リアプノフ指数(LyE)を用い,ACL再建者下肢関節動的不安定性を検証した。
【方法】
対象は整形外科的な既往がない健常者6名(男性3名,女性3名,年齢25.1±2.1,身長168.3±9.6cm,体重64±10.7kg)ACL再建者6名(男性3名,女性3名,年齢25.25±7.8,身長160.3±4.8cm,体重60.2±3.2kg,術後期間310.5±9.3日)とした。解析動作は快適速度でのトレッドミル上歩行とし,練習として6分間の歩行を行った後,2分間(少なくとも100歩行周期)を計測した。データ計測には三次元動作解析装置Myomotion(NORAXON社100Hz)を用い,股関節屈曲/伸展,膝関節屈曲/伸展,足関節底屈/背屈の角度変化を記録した。得られた角度データから,位相面解析を行った。また数値解析ソフトウェアMATLAB(Mathworks社製)を使用し,動的不安定性を定量化する指数である最大LyEを算出した。統計は3群(健常群,非再建側群,ACL再建側群)をANOVAと多重比較法(Tukey)を用い検定を行い,有意水準はP<0.05とした。
【結果】
健常群,非再建側群,ACL再建側群において各関節最大角度・歩行速度に有意差を認めなかった。位相面解析では健常群と比較し,非再建側群・ACL再建側群で関節運動が周期的でないことが確認された。最大LyEの値は3関節において,健常群<非再建側群<ACL再建側群となり,膝関節(健常群0.130±0.003,非再建側群0.151±0.005,ACL再建群0.165±0.007)では3群間それぞれで有意差(P<0.05)が生じ,股関節(健常群0.151±0.007,非再建側群0.162±0.011,ACL再建群0.167±0.007)および足関節(健常群0.161±0.002,非再建側群0.167±0.004,ACL再建群0.170±0.003)では,健常群と比較し非再建側群・ACL再建群で高値を示し有意差(P<0.05)が生じたが,非再建群/ACL再建側群間に有意差は生じなかった。
【考察】
ACL再建を行った患者の歩行時の動的不安定性を最大LyEを用いて調査した。Stergiouら(2006)は人体の動きを時系列的にみると,ある程度の変動性をもっており,変動性が最適な状態から逸脱すると運動システムがより剛性になる,もしくは不安定になると述べている。最大LyEは変動の時系列的・不安定性の尺度であり,より高い最大LyEは動的に不安定であるとされている。本研究では最大LyEの値は下肢3関節において,健常群<非再建側群<ACL再建側群となり,ACL再建側の下肢関節が動的に不安定であることが示された。また非再建側も健常者と比較すると動的に不安定であり,ACL再建は非再建側の関節不安定性にも影響を与えていることが示された。足関節・股関節動的安定性の変化が生じていた。膝関節は中間関節であるため膝関節の不安定性によって大腿・下腿の変動性が変化し,股関節・足関節に影響を与えた可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建患者の下肢関節動的不安定性を定量化した。最大LyEを用いることで治療介入の効果判定・スポーツ復帰の基準,再受傷・長期的なOAの予防の一助となる可能性がある。
前十字靭帯(ACL)損傷は着地,切り返しなどのスポーツ動作で生じ,スポーツレベル維持困難・日常生活に支障をきたす。またACL再建後も正常膝関節とは異なる関節運動が観察され,長期的な変形性膝関節症進行に関与しておりACL再建術のみでは変形性膝関節症を予防できないと報告されている。ACL再建術後に関する先行研究の多くは角度・モーメントの最大値を解析対象としており,外反角度・外反モーメントなどの最大値が大きいと動的安定性が低いと述べているが,これらは時系列な変化を考慮していないため動作特性を見過ごしている可能性がある。このことから動的不安定性の評価には時系列データを用いた解析が必要であると考えられる。
そこで本研究では動作特性を視覚的に評価するため各関節角度を1階時間微分し位相面解析を行うとともに下肢関節動的不安定性を定量化するため,関節角度の時系列データからカオス解析である最大リアプノフ指数(LyE)を用い,ACL再建者下肢関節動的不安定性を検証した。
【方法】
対象は整形外科的な既往がない健常者6名(男性3名,女性3名,年齢25.1±2.1,身長168.3±9.6cm,体重64±10.7kg)ACL再建者6名(男性3名,女性3名,年齢25.25±7.8,身長160.3±4.8cm,体重60.2±3.2kg,術後期間310.5±9.3日)とした。解析動作は快適速度でのトレッドミル上歩行とし,練習として6分間の歩行を行った後,2分間(少なくとも100歩行周期)を計測した。データ計測には三次元動作解析装置Myomotion(NORAXON社100Hz)を用い,股関節屈曲/伸展,膝関節屈曲/伸展,足関節底屈/背屈の角度変化を記録した。得られた角度データから,位相面解析を行った。また数値解析ソフトウェアMATLAB(Mathworks社製)を使用し,動的不安定性を定量化する指数である最大LyEを算出した。統計は3群(健常群,非再建側群,ACL再建側群)をANOVAと多重比較法(Tukey)を用い検定を行い,有意水準はP<0.05とした。
【結果】
健常群,非再建側群,ACL再建側群において各関節最大角度・歩行速度に有意差を認めなかった。位相面解析では健常群と比較し,非再建側群・ACL再建側群で関節運動が周期的でないことが確認された。最大LyEの値は3関節において,健常群<非再建側群<ACL再建側群となり,膝関節(健常群0.130±0.003,非再建側群0.151±0.005,ACL再建群0.165±0.007)では3群間それぞれで有意差(P<0.05)が生じ,股関節(健常群0.151±0.007,非再建側群0.162±0.011,ACL再建群0.167±0.007)および足関節(健常群0.161±0.002,非再建側群0.167±0.004,ACL再建群0.170±0.003)では,健常群と比較し非再建側群・ACL再建群で高値を示し有意差(P<0.05)が生じたが,非再建群/ACL再建側群間に有意差は生じなかった。
【考察】
ACL再建を行った患者の歩行時の動的不安定性を最大LyEを用いて調査した。Stergiouら(2006)は人体の動きを時系列的にみると,ある程度の変動性をもっており,変動性が最適な状態から逸脱すると運動システムがより剛性になる,もしくは不安定になると述べている。最大LyEは変動の時系列的・不安定性の尺度であり,より高い最大LyEは動的に不安定であるとされている。本研究では最大LyEの値は下肢3関節において,健常群<非再建側群<ACL再建側群となり,ACL再建側の下肢関節が動的に不安定であることが示された。また非再建側も健常者と比較すると動的に不安定であり,ACL再建は非再建側の関節不安定性にも影響を与えていることが示された。足関節・股関節動的安定性の変化が生じていた。膝関節は中間関節であるため膝関節の不安定性によって大腿・下腿の変動性が変化し,股関節・足関節に影響を与えた可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建患者の下肢関節動的不安定性を定量化した。最大LyEを用いることで治療介入の効果判定・スポーツ復帰の基準,再受傷・長期的なOAの予防の一助となる可能性がある。