第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

体幹・肩関節

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0599] 肩腱板広範囲断裂例における上腕二頭筋長頭腱の障害と肘屈筋筋力の関係について

山本泰雄1, 当麻靖子1, 浦本史也1, 佐々木梢1, 小畠昌規2, 皆川裕樹2 (1.医療法人仁陽会西岡第一病院リハビリテーション部, 2.医療法人仁陽会西岡第一病院整形外科)

キーワード:肩腱板断裂, 上腕二頭筋, 筋力

【目的】肩腱板広範囲断裂例では,上腕二頭筋長頭腱(LHBT)損傷が存在していることが少なくない。肩関節と肘関節の運動に関与する上腕二頭筋は,肩関節の動的安定化組織の一つである。従って,大きな腱板断裂や腱板断裂修復後に機能的な肩の運動をえるためには,上腕二頭筋の機能やその状態を十分に理解し適切な運動療法を行うことが大切である。今回,腱板損傷例に対する安全で効果的な運動療法を探るため肩腱板広範囲断裂例におけるLHBT損傷の有無と肘屈筋筋力の関係について臨床的に調査した。
【方法】対象は2009年3月から2013年12月の間に当院で腱板断裂の診断を受け,鏡視下肩腱板修復術がおこなわれた腱板断裂例のうち広範囲の断裂が確認され術前に理学療法評価が行われた28例28肩(男性18例,女性10例)とした。対象の術前の理学療法評価より肘関節の屈筋筋力と手術中所見との関連を調査した。肘関節の筋力測定は徒手筋力測定器(power TrackIITM,MEDIX)を用いて同一理学療法士が行った。測定肢位は背臥位とし,肘屈曲90°での等尺性筋力を2回測定した。測定値は大きい値を採用した。筋力は,手術側/非術側の比を用いて比較した。また,対象を鏡視下腱板修復術中にLHBT損傷が確認された群とされなかった群の2群に分類し比較した。手術中にLHBT損傷が確認された群は10肩,男性7名,平均年齢67±11,3歳であった。LHBT損傷が確認されなかった群は18肩,男性11肩,平均年齢66,4±9,9歳であった。統計解析は群内の非術側と術側の比較には,対応のあるt検定,ウィルコクソンの符号付順位和検定を群間の非術側/術側比の比較にはMann-Whitney U testを適応した。有意水準は5%とした。
【結果】術中にLHBT損傷が確認された10例での非術側と術側の筋力比は0.93と,肘屈筋筋力の術側と非術側での有意な差は認められなかった。一方,手術中にLHBT損傷が確認されなかった群での非術側と術側の筋力比は0.85%と,少なくとも関節鏡視下でLHBT損傷が確認されなかった非術側に筋力の低下傾向がみられた。尚,2群間の比較では有意な差がなかった。
【考察】LHBT損傷による肘屈筋筋力への影響については以前から報告されている。皆川は腱板断裂後に疼痛が遺残する原因病変の一つがLHBTの病変であるとしている。これは,腱板断裂例に対して効果的かつ安全に運動療法を行うには,肩の動的支持機構の一つであるLHBTへの配慮が必要であることを示している。今回の検討では,関節鏡視下腱板修復術中にLHBT損傷が確認された群では非術側と比較して肘屈筋筋力に差が見られなかった。これは,非術側にもLHBT損傷が存在している可能性がある。一方,LHBT損傷が関節鏡視下に確認されなかった群では,手術側で肘屈筋筋力が低い傾向が示された。術前の評価時においては,腱板断裂による疼痛などによる抑制がかかったなどのLHBT以外の要素の影響があったものと思われる。また,2群間では術側と非術側での肘筋力比の有意な差がないことより,LHBT損傷は単に筋力の差としては表出されづらいことを示しているものと考えられる。肩腱板広範囲断裂例ではたとえ肘屈筋筋力が比較的保たれて,疼痛の訴えや明らかなPopeyes signなどの臨床所見が無い非術側であっても,負荷をかけた運動の適用は疼痛などの症状を惹起するなどの危険性が示唆された。肩腱板修復術後の固定期間中の日常生活での非術側の肘への負荷増大を避けてもらうなどの生活指導が重要である。また安易な非術側への負荷を加えた運動は避けるべきである。本研究の制限は,非術側の画像での評価がなされていない点である。
【理学療法研究としての意義】
今回の検討は,肘屈筋筋力の明らかな低下や術側,非術側での筋力の差がない場合でも,比較的大きい腱板断裂例ではLHBT損傷がある場合があり,保存療法,手術療法を問わず,安全で効果的な運動療法を行うための参考になると思われる。