第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

発達障害理学療法2

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0629] 呼吸障害を有する児に対するMAC導入の効果

西村暁子1, 藤本智久1, 森本洋史1, 中島正博1, 西野陽子1, 皮居達彦1, 田中正道1, 濱平陽史2, 五百藏智明2, 久呉真章2 (1.姫路赤十字病院リハビリテーション科, 2.姫路赤十字病院小児科)

Keywords:重症心身障害児, 呼吸障害, 器械的咳介助装置

【目的】
重症心身障害児は,胸郭の変形などにより拘束性呼吸障害をきたしやすく,さらに肺炎などの呼吸器感染症などを引き起こすと痰の喀出に難渋し,入院治療が必要となったり入院が長期化することがある。そこで当院では,2012年より呼吸理学療法として器械的咳介助Mechanically assisted coughing(MAC)を用いて痰の喀出を促し,希望があれば在宅への導入を勧めている。今回,MACを用いた呼吸管理の効果を検討する目的で,呼吸器障害が主原因で当院に入院した重症心身障害児に対して,MAC導入前後で入院した回数および入院日数を調査しその効果を検討したので報告する。

【対象および方法】
当院に入院経験があり在宅でもMACを導入している重症心身障害児11名を対象とした。内訳は男児9例・女児2例で,導入時平均年齢は5.3±4.5歳であった。患者データはカルテより以下の項目を後方視的に調査した。疾患名,MAC導入日,MAC導入前1年の呼吸障害が主原因での入院回数および入院日数,MAC導入後1年の呼吸障害が主原因での入院回数及び入院日数を調査し,MAC導入前後で比較検討した。なお統計学検定は,統計解析ソフトStatMateIIIを使用し,対応のあるt検定を用いて,有意水準は5%未満とした。
MAC導入方法;気道感染症などの呼吸障害により複数回入院した児のうち家族の希望や主治医より依頼のあった児に対してMACを導入した。使用した機器は,フィリップス・レスピロニクス合同会社製 カフアシストである。導入にあたっては主治医の指示または許可を得てから行った。導入方法は,主に入院中に人工呼吸器の最大吸気圧から試行し,経皮的酸素モニター(SpO2)や脈拍数等に変化が出ない程度の条件を設定し,スクイージングを併用しながら排痰を促すように実施した。退院前には家族に使用方法の指導を行い在宅へ導入し,在宅では吸引時および分泌物が少ない日でも1~2回/日は実施してもらうように指導した。
【結果】
疾患の内訳は,低酸素性虚血性脳症4例,脳性麻痺2例,その他(ミオパチー,染色体異常など)5例であった。MAC導入前1年間の平均入院回数は3.18±2.1回,導入後の1年間の入院回数は1.91±1.8回と導入後に入院回数は統計学的有意に入院回数が減少した(p<0.05)。また,MAC導入前1年間の平均入院日数は65.82±57.7日,導入後の1年間の入院日数は32.64±31.1日と導入後の入院日数は統計学的に有意な差は得られなかった(p=0.069)。
【考察】
カフアシストは,フェイスマスクまたは気管切開カニューレに接続することにより,急激に陽圧から陰圧に瞬時にシフトすることで,肺から高い呼気流速を生じ自然の咳を補強するか,人工的に咳を作り出し,末梢気道に貯留した分泌物を中枢気道まで移動させることができるといわれている。移動してきた痰は口腔・鼻腔内を拭うか,吸引操作を行うだけでよく,生理的な排痰方法といえる。近年,咳ができない,または弱い神経筋疾患の患者や効果的に排痰を促したい患者で注目されてきている機器である。今回の検討では,在宅で人工呼吸器管理をされている重症心身障害児では,カフアシストを用いた在宅での呼吸管理が呼吸器感染症による入院回数を減少させることが示唆された。一方で,入院中カフアシストを併用した呼吸理学療法を実施することにより入院する日数を減少させるか,という検討項目では有意な差は認められなかった。これは,MAC導入前は比較的軽症の呼吸器感染症でも入院することが多く,そのための治療期間は短期間であったことが考えられる。しかし,MAC導入後は軽症での入院回数は明らかに減少しており,より重症化した呼吸器疾患による入院により入院日数が長期化したものと考えられる。在宅で過ごしている重症心身障害児やその家族にとっては痰による気道閉塞が命取りになることも少なくなく,MACを導入した児の家族は,以前までのスクウィージングや体位ドレナージによる排痰と比べ簡便で安全でより確実な排痰効果を感じておられる方が多い。現在,MACは保険適応となったとはいえ,人工呼吸器との併用が条件でありまだ門戸が狭いのが現状である。今後,人工呼吸器を必要としないが排痰に難渋している患者のMACへのニーズが高まってくることが予想される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,重症心身障害児など呼吸管理を必要とする児に対して,MACを導入することにより呼吸器感染症による入院回数を減らすことが期待できることが示唆され,在宅で呼吸理学療法を実施する上で意義があると考える。