第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

発達障害理学療法2

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0635] 脳動静脈奇形および脳実質摘出後,独歩可能となった1歳児症例

藤本智久1, 西村暁子1, 森本洋史1, 中島正博1, 西野陽子1, 皮居達彦1, 田中正道1, 高橋和也2, 久呉真章3 (1.姫路赤十字病院リハビリテーション科, 2.姫路赤十字病院脳神経外科, 3.姫路赤十字病院小児科)

キーワード:脳動静脈奇形, 乳幼児, 片麻痺

【はじめに】
一般的に脳動静脈奇形(以下AVM)は1~2%に脳出血を起こすとされており,脳出血を起こすと片麻痺などの後遺症を残しやすい。今回,脳出血後に開頭し脳動静脈奇形および脳実質の一部摘出後,右片麻痺を呈した児に理学療法を実施し,退院後 独歩可能となった症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
1歳5ヵ月 女児。
生後11ヵ月時,機嫌不良となり頻回に嘔吐+.深夜に夜間急病センター受診。胃腸炎と診断され帰宅。直後に全身痙攣をおこすようになり当院救急搬送。小児科当直対応し,頭部CTにて脳出血指摘され,脳外科紹介。意識障害(JCS100)を認め,四肢麻痺の状態であった。頭部CT所見は左前頭側頭葉に43×36×41mm大の皮質下出血を認め,右へのMidline Shiftも伴っていた。緊急手術(左前頭頭頂開頭手術)が実施され,血腫および血腫周囲のAVMを含めた脳組織を一塊に摘出された。術後はICU管理となり,術後4日後に小児科病棟へ転棟しリハビリ開始となる。
発症前の児の発達は,独歩を始めたばかりであり,発語もまだ不十分な状態であった。
【経過およびアプローチ】
リハビリ開始時は,ベッド上安静でJCS 1桁,右片麻痺を呈し(B.R.S.上肢II,下肢II,手指II),左上下肢の動きは徐々に活発で右下肢の緊張はやや亢進。唾液嚥下は可能だが啼泣時にはムセを認めた。右上下肢の触覚は少しわかっているようで,右へも少し注意を向けることができた。また,発語は認めなかった。まず,触覚刺激で右半身への注意を促し,また四肢のダブルタッチのように自分で自分の体を触ることで自己身体のイメージの構築ができるように促した。術後7日にて,ベッド上での座位練習が許可された為,徐々に座位練習と追視を利用した頚部コントロールの練習および腹臥位での練習を開始した。すると術後10日でB.R.S.上肢III,下肢II,手指II~IIIとなり,頚部が安定すると,座位も徐々に可能となり,腹臥位で肘支持も可能となった。術後12日で介助立位が可能となったが,尖足傾向を認めた。そこで下肢への注意を促すために,足底とくに踵への触覚刺激を用いて荷重を促した。術後18日でB.R.S.上肢IV,下肢IV,手指II~III。這い這いが可能(右上肢の支持も可能)となった。術後20日でつかまり立ち,伝い歩きが少し可能。術後24日で自宅退院。退院後は,週に2回の外来通院でフォローした。術後1ヶ月で,独歩2歩可能。上下肢に比べ手指の動きが不十分であったため,右手に注意を向けるために右手に鈴をつけるように指導後,右手を吸ったり,右手を触る行動が増えた。右手でおもちゃのレバーを押そうとする行動を認めた。術後2ヶ月でB.R.S.上肢V,下肢V,手指IV,独歩は増えてきたが,膝完全伸展位で反張傾向を認めた。そこで,踵に荷重すると音が鳴る靴を履いてもらうよう指導し,音を出しながら歩く練習を家でも続けてもらった。術後3ヶ月で左から右手への持ち替え可能。積み木2つ可能。術後4ヶ月で立位バランスも徐々に改善し,発達も月齢相当となった。術後5カ月で,B.R.S.上肢V,下肢V,手指Vで少し発語も見られるようになり,ゆっくりした歩行では歩容も改善し,近隣の小児通園施設へ紹介となった。
【考察】
乳幼児の脳出血は,比較的少なく1歳未満の児に対しては,言語の獲得や歩行も不安定な状態であることより,リハビリテーションも発達を考慮したアプローチが必要になってくる。本症例は,発症前は,独歩を始めたところであり,言葉はまだ十分出ていなかった状態であった。そこで認知発達学的なアプローチとして,術後の動静に合わせて発達段階を追うように動作練習や認知課題を展開していった。乳幼児の場合は,言葉の理解も不十分なところからアプローチを進めるため,遊びの中で展開することが多いが,そこに児の発達段階(回復段階)に合わせて麻痺側へ注意を向けることで回復と発達を促すことができたと考える。つまり,動静が制限されている安静期には,ダブルタッチなどを用いて自己身体のイメージの構築につながるようなアプローチを心掛け,その後は麻痺側上肢に鈴をつけたり,音が鳴る靴を履いてみたりといった麻痺側上下肢への注意を向けるように促したことが,順調な回復と発達につながっていったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
乳幼児期の脳障害では,可塑性もよく予後も良好なことが多い。本症例は,脳動静脈奇形と同時に脳実質の一部を摘出後,右片麻痺を呈していた。しかし,発達および回復段階に沿って麻痺側への注意を促し遊びを用いることによって独歩可能となるまで関わることができた。このことは,小児の後天性脳疾患に対する理学療法を展開する上でも参考になり有用である。