[P2-C-0647] 高齢者の脊髄不全損傷における移動能力の予後予測についての一考察
Keywords:高齢者, 脊髄不全損傷, 予後予測
【はじめに,目的】
近年,高齢者の脊髄不全損傷者は増加傾向であり,今後高齢者の増加と共に更なる増加が予想される。脊髄不全損傷のリハビリテーションにおいては,末梢からの反復刺激入力が,脊髄内の歩行中枢を刺激することで歩行能力改善に結びつき,実用歩行獲得に至る可能性が高いと報告されている。しかしながら,脊髄不全損傷でもその損傷度と回復具合は様々であるため,不全損傷者の麻痺の的確な予後予測と移動動力を予測する事は難しい。予後予測の先行研究において,受傷後早期の神経学的変数やASIA分類を用いた報告はあるが,高齢者の不全損傷者における予後予測の検討報告は少ない。そこで今回,高齢者の脊髄不全損傷においての移動能力の予後予測に関連する要因を明らかにすることを目的に調査を実施したので報告する。
【方法】
対象は2011年4月~2014年4月までに当院入院中で脊髄不全損傷を有する者のうち,受傷後2か月以内かつ65歳以上で,受傷前歩行が自立しており,認知症(MMSE27±2.2)を有さない者9名(平均年齢78.6±15.9歳,男性7名,女性2名)であり,四肢麻痺4名,対麻痺5名であった。改良FrankelはA1;2例,B1;1例,B2;1例,C1;2例,C2;3例。
退院時の歩行能力を自立群と非自立群に分け,退院時の移動能力の予後予測に関連する項目を調査した。調査項目は,基本情報(年齢,性別,受傷原因,既往歴),疾患情報(障害名,術式),入院時・退院時点での神経学的機能(改良Frankel及びASIA impairment scale(以下AIS)分類)AIS運動・表在触覚・痛覚score,深部感覚の障害程度,膀胱直腸障害の有無)及び動作能力(移動形態とmotor FIM)とした。調査は同一の理学療法士1名で実施し,統計学的分析は,Wilcoxon 符号順位検定とχ2乗検定を用い,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
入院期間は平均147.6±39.2日。全例とも既往に脊椎脊髄疾患を有していた。移動形態は,入院前は全例歩行自立していたが,転入時は全例車椅子での移動,退院時は非歩行自立群3例(車椅子2例,介助歩行1例),歩行自立6例(屋内自立3例,屋外自立3例)となった。改良Frankel分類では,Aの2症例がB1とC1に,それ以外のB・Cの症例は全症例がD1・D2へ改善し,そのうち4例は半年後にD3へ改善し,転入時A・B1の3例が歩行自立に達さなかった。
両群ともに転入・退院時での比較にて,AIS運動・触覚・痛覚score,motor FIMで改善が得られ,運動・痛覚scoreとmotor FIMにおいて歩行自立群で有意に改善を認めた。非歩行自立群において,転入時に深部感覚脱失及び便意無しであり,退院時においても改善を認めなかった。歩行自立群では,感覚障害及び尿便意の改善に伴い,麻痺・感覚障害の改善を認めた。χ2乗検定にて退院時の移動能力の予後に関わる要因において,非歩行自立群と「深部感覚脱失」「膀胱直腸障害の有無」の項目において有意差を認めた。
【考察】
不全損傷であれば,初期時に重度の感覚障害や麻痺を呈していても,リハビリテーションによる神経ネットワークの再構築化により,改善度合いは異なるが麻痺は改善可能であることが示唆された。今回,麻痺の回復に比べ,感覚障害の回復率は低い結果となった。その要因として,運動麻痺の回復過程では,残存した神経回路による代償や非損傷側皮質脊髄路の軸索枝の損傷側へ投射により麻痺の回復に繋がるが,感覚路においては代償神経回路がないため,脊髄浮腫が改善する受傷後6か月である程度プラトーに達する可能性が高いと推察される。また,先行研究にて,痛覚や尿便意の有無が麻痺回復の予後予測に有用であると報告されており,本調査においては「痛覚」「膀胱直腸障害の有無」「深部感覚脱失」が不全損傷者における退院後の移動能力に影響を及ぼすことが示唆された。受傷後の膀胱直腸障害や痛覚・深部感覚の障害の有無や回復状況を評価していくことで,脊髄不全損傷者における的確な予後予測及び移動能力の予後予測の一助に繋がると考える。今後は,対象数を増やし更に検討を加える共に,使用可能な予後予測の指標作成に繋げていきたい。
【理学療法研究としての意義】
脊髄不全損傷者の移動形態予後に関する要因を明らかにすることは,計画的かつ効率の良いリハビリテーションを行う上で重要である。
近年,高齢者の脊髄不全損傷者は増加傾向であり,今後高齢者の増加と共に更なる増加が予想される。脊髄不全損傷のリハビリテーションにおいては,末梢からの反復刺激入力が,脊髄内の歩行中枢を刺激することで歩行能力改善に結びつき,実用歩行獲得に至る可能性が高いと報告されている。しかしながら,脊髄不全損傷でもその損傷度と回復具合は様々であるため,不全損傷者の麻痺の的確な予後予測と移動動力を予測する事は難しい。予後予測の先行研究において,受傷後早期の神経学的変数やASIA分類を用いた報告はあるが,高齢者の不全損傷者における予後予測の検討報告は少ない。そこで今回,高齢者の脊髄不全損傷においての移動能力の予後予測に関連する要因を明らかにすることを目的に調査を実施したので報告する。
【方法】
対象は2011年4月~2014年4月までに当院入院中で脊髄不全損傷を有する者のうち,受傷後2か月以内かつ65歳以上で,受傷前歩行が自立しており,認知症(MMSE27±2.2)を有さない者9名(平均年齢78.6±15.9歳,男性7名,女性2名)であり,四肢麻痺4名,対麻痺5名であった。改良FrankelはA1;2例,B1;1例,B2;1例,C1;2例,C2;3例。
退院時の歩行能力を自立群と非自立群に分け,退院時の移動能力の予後予測に関連する項目を調査した。調査項目は,基本情報(年齢,性別,受傷原因,既往歴),疾患情報(障害名,術式),入院時・退院時点での神経学的機能(改良Frankel及びASIA impairment scale(以下AIS)分類)AIS運動・表在触覚・痛覚score,深部感覚の障害程度,膀胱直腸障害の有無)及び動作能力(移動形態とmotor FIM)とした。調査は同一の理学療法士1名で実施し,統計学的分析は,
【結果】
入院期間は平均147.6±39.2日。全例とも既往に脊椎脊髄疾患を有していた。移動形態は,入院前は全例歩行自立していたが,転入時は全例車椅子での移動,退院時は非歩行自立群3例(車椅子2例,介助歩行1例),歩行自立6例(屋内自立3例,屋外自立3例)となった。改良Frankel分類では,Aの2症例がB1とC1に,それ以外のB・Cの症例は全症例がD1・D2へ改善し,そのうち4例は半年後にD3へ改善し,転入時A・B1の3例が歩行自立に達さなかった。
両群ともに転入・退院時での比較にて,AIS運動・触覚・痛覚score,motor FIMで改善が得られ,運動・痛覚scoreとmotor FIMにおいて歩行自立群で有意に改善を認めた。非歩行自立群において,転入時に深部感覚脱失及び便意無しであり,退院時においても改善を認めなかった。歩行自立群では,感覚障害及び尿便意の改善に伴い,麻痺・感覚障害の改善を認めた。χ2乗検定にて退院時の移動能力の予後に関わる要因において,非歩行自立群と「深部感覚脱失」「膀胱直腸障害の有無」の項目において有意差を認めた。
【考察】
不全損傷であれば,初期時に重度の感覚障害や麻痺を呈していても,リハビリテーションによる神経ネットワークの再構築化により,改善度合いは異なるが麻痺は改善可能であることが示唆された。今回,麻痺の回復に比べ,感覚障害の回復率は低い結果となった。その要因として,運動麻痺の回復過程では,残存した神経回路による代償や非損傷側皮質脊髄路の軸索枝の損傷側へ投射により麻痺の回復に繋がるが,感覚路においては代償神経回路がないため,脊髄浮腫が改善する受傷後6か月である程度プラトーに達する可能性が高いと推察される。また,先行研究にて,痛覚や尿便意の有無が麻痺回復の予後予測に有用であると報告されており,本調査においては「痛覚」「膀胱直腸障害の有無」「深部感覚脱失」が不全損傷者における退院後の移動能力に影響を及ぼすことが示唆された。受傷後の膀胱直腸障害や痛覚・深部感覚の障害の有無や回復状況を評価していくことで,脊髄不全損傷者における的確な予後予測及び移動能力の予後予測の一助に繋がると考える。今後は,対象数を増やし更に検討を加える共に,使用可能な予後予測の指標作成に繋げていきたい。
【理学療法研究としての意義】
脊髄不全損傷者の移動形態予後に関する要因を明らかにすることは,計画的かつ効率の良いリハビリテーションを行う上で重要である。