第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

神経難病理学療法

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0658] 3D神経メラニン画像を用いたパーキンソン病患者の中脳黒質の評価

玉利誠1,2, 宇都宮英綱2,3, 永良裕也3 (1.福岡国際医療福祉学院, 2.国際医療福祉大学大学院, 3.福岡山王病院)

キーワード:パーキンソン病, 神経メラニン画像, 黒質

【はじめに,目的】
パーキンソン病(以下PD)は,中脳黒質のドーパミン神経細胞の変性や脱落による慢性進行性の神経変性疾患であるが,MRI画像でその変性を捕捉することは困難とされてきた。しかし近年,3 Tesla MRIを用いた神経メラニン画像(以下NMI)の有用性が注目されており,2DのNMIでPD患者と健常者の黒質を比較した先行研究(sasaki, et al. 2004)では,PD患者の黒質に著明な信号強度の低下が認められ,そのピクセル数は正常人よりも低値であったとされている。しかし,その一方で,スライスギャップのある2DのNMIは黒質の評価に不適当であるという意見もあるほか(Matsuura et al. 2013),PD患者の黒質のピクセル数とHoehn & Yahr scaleの関連については,負の相関を認めるとする報告や関連を認めないとする報告があり,統一した見解は得られていない。そこで今回,3 Tesla MRIを用いて3DのNMIを撮像し,PD患者と正常人の黒質のピクセル数を比較するとともに,PD患者のHoehn & Yahr scaleとの関連を調査した。
【方法】
対象は,2009年7月から2014年8月の間にF病院において診療目的にてNMIを撮像した53~84歳(67.5±7.9歳)のPD患者26例(男性11例,女性15例)と,54~90歳(75.9±7.6歳)の正常人27例(男性12例,女性15例)とした。PD群は医師によってPDの診断がなされた者とし,正常(以下Control)群は認知症疑いにて頭部MRI画像を撮像したものの明らかな異常所見を認めず,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)においても20点以上を有し,認知症が否定された者とした。NMIの撮像には3Tesla MRI(PHLIPS社製Achieva 3T)を用い,撮像条件はFast Field Echo,matrix size:320×242,FOV:200×200mm,Slice thickness:2mm,TR:27,TE:5.7とした。撮像は医師の指示のもとに放射線技師が行った。解析にはフリーソフトウェアImage Jを用い,NMIを8 bitに変換した後に全画像を平滑化し,黒質と中脳水道両側のhigh contrast以外が消失する値を閾値として二値化し,左右の黒質のピクセル数を全画像で合計して半定量値(以下NMI-SN)とした。統計学的処理にはDr. SPSS for Windowsを用い,PD群とControl群のNMI-SNについてMann-Whitney U testを行った。また,PD群のNMI-SNとHoehn & Yahr scaleについてSpearmanの順位相関係数を算出した。
【結果】
NMI-SNは,PD群:1133.2±623.4,Control群:1982.1±589.7であり,PD群において有意に低値を示した(p<0.001)。また,PD群のHoehn & Yahr scaleは,stage1:4例,stage2:3例,stage3:12例,stage4:7例,stage5:0例であり,NMI-SNとの間に関連は認められなかった。
【考察】
中脳の黒質ではドーパミンの代謝によって神経メラニンが産生されるが,神経メラニンは鉄や銅と結合して常磁性体となりT1短縮効果を示すため,NMIでは高信号領域として描出される。また,PD患者における黒質の信号強度の低下は,PDの病理学的特徴である黒質緻密部の変性を反映する所見と考えられている。3Dシーケンスを用いた本研究においても,PD群の黒質のピクセル数がControl群よりも有意に低値を示したことから,NMIによって黒質の変性を特異的に評価できる可能性が示唆された。また,PD群のNMI-SNとHoehn & Yahr scaleとの間に関連が認められなかったことから,PD患者の呈する症状は,一次性の黒質病変に加え,不活動に伴う筋力低下や関節可動域の低下といった二次性の要因も混在している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はMRIを用いてPD患者の黒質の病理学的変化を捉えるための基礎的研究であり,今後もPD患者の運動機能との関連や病期の進行に伴う変化を経時的に調査することにより,PD患者の理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。