[P2-C-0666] 更衣動作を用いた心的回転と視点取得の比較
Keywords:更衣動作, 心的回転, 視点取得
【はじめに,目的】
イメージ能力のリハビリテーションは臨床でも行われているが,イメージ課題には文字や図形,手足などの身体の一部を用いたものが多い。しかし,運動イメージと課題特異性との関連性(北裏,2007)が報告されていることから,日常生活動作(以下,ADL動作)をイメージすることで,実際の運動に,より直接的に反映されやすいと考える。
衣服の各部位と自己の空間関係の認知障害である着衣失行の病態について,イメージ能力との関連性が一要因として推察されており,心的回転の障害が更衣動作を困難にしていることが報告されている(上田,2013)。
空間の記憶イメージを異なる視点からイメージ変換する際には,心的回転または視点取得という操作が用いられる。一般に心的回転では対象表象の操作が行われるのに対し,視点取得では仮想的自己に対して操作が加えられる。
本研究では,更衣というADL動作に即したイメージ課題の有用性を心的回転及び視点取得の2つのイメージ方法から検証することを目的とする。
【方法】
対象は健常大学生40名(男性9名,女性31名,平均年齢21.4歳)を対象とし,心的回転課題群と視点取得課題群の2群に20名ずつランダムに群分けした。
先行研究より,日本版運動心像質問紙改訂版(JMIQ-R)を用いて被験者のイメージ能力評価を行った後に心的回転課題あるいは視点取得課題を行った。最後にイメージにおける主観的評価を得るためにアンケート調査を実施した。
心的回転課題において,手課題では左右いずれかの手を,更衣課題では右袖または左袖に腕を通している人の写真を3秒間提示した後に,次のスライドで先行刺激に一致する左右いずれかの手または袖に通す腕が一致する人の写真を垂直軸を中心に回転させた手課題または更衣課題のそれぞれ2つの写真から選択させる。
視点取得課題において,心的回転課題と同様の写真と5方向のうちいずれか一つの矢印を3秒間提示した後に,次のスライドで矢印の方向からの見え方として正しい写真を下部のいろいろな角度から見た手課題,更衣課題の2つの写真から選択させる。各課題について,これらを1セットとし100試行ずつ行った。
統計処理は100試行の合計反応時間と正答率について,心的回転群及び視点取得群における手課題と更衣課題において対応のあるt検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
合計反応時間において,心的回転群の更衣課題は手課題よりも有意に短く(p<0.01),視点取得群の更衣課題と手課題において有意差は無かった。
正答率において,心的回転群の更衣課題と手課題において有意差は無く,視点取得群の更衣課題は手課題よりも有意に高かった(p<0.05)。
【考察】
心的回転の障害が更衣動作を困難にしていることが報告されている。本研究では,更衣動作に着目して心的回転と視点取得の2つのイメージ手法について比較検証した。
結果,心的回転群において,更衣課題の合計反応時間は手課題より速いが,正答率は手課題と有意差はなかった。心的回転では,被験者が実際に自分の手を刺激に合わせようとして動かす身体感覚の共感的投入が行われる。また,一般に心的回転では対象表象の操作が行われるのに対し,空間的視点取得では仮想的自己に対して操作が加えられる。そのため,心的回転時には運動関連領域は,被験者が対象物を自分の手で操作した結果であると想像した時のみ活性化する(積山,1987)。このことから,運動の想起が困難な対象者に対して筋感覚的運動イメージを鮮明化させるという目的で理学療法として導入したい時には心的回転を用いることが有用である可能性がある。
一方,視点取得群において,更衣課題の合計反応時間は手課題と有意差はないが,正答率は手課題より高かった。空間的視点取得は,外的情報処理(他者)と内的関連性(自己)から成る複合体で,他者の視点からの見えを経験することによって見えを区別する必要性に気づき,自己の視点からの見えの確立が促されることが分かっている。また,仮想的自己が空間内を移動するイメージが喚起されるために運動関連領域が賦活するとも報告されている(杉村,1995)。このことから,他視点からの見えを理解させる目的で理学療法を導入したい時には空間的視点取得を用いることが有用である可能性がある。
イメージ能力のリハビリテーションは臨床でも行われているが,イメージ課題には文字や図形,手足などの身体の一部を用いたものが多い。しかし,運動イメージと課題特異性との関連性(北裏,2007)が報告されていることから,日常生活動作(以下,ADL動作)をイメージすることで,実際の運動に,より直接的に反映されやすいと考える。
衣服の各部位と自己の空間関係の認知障害である着衣失行の病態について,イメージ能力との関連性が一要因として推察されており,心的回転の障害が更衣動作を困難にしていることが報告されている(上田,2013)。
空間の記憶イメージを異なる視点からイメージ変換する際には,心的回転または視点取得という操作が用いられる。一般に心的回転では対象表象の操作が行われるのに対し,視点取得では仮想的自己に対して操作が加えられる。
本研究では,更衣というADL動作に即したイメージ課題の有用性を心的回転及び視点取得の2つのイメージ方法から検証することを目的とする。
【方法】
対象は健常大学生40名(男性9名,女性31名,平均年齢21.4歳)を対象とし,心的回転課題群と視点取得課題群の2群に20名ずつランダムに群分けした。
先行研究より,日本版運動心像質問紙改訂版(JMIQ-R)を用いて被験者のイメージ能力評価を行った後に心的回転課題あるいは視点取得課題を行った。最後にイメージにおける主観的評価を得るためにアンケート調査を実施した。
心的回転課題において,手課題では左右いずれかの手を,更衣課題では右袖または左袖に腕を通している人の写真を3秒間提示した後に,次のスライドで先行刺激に一致する左右いずれかの手または袖に通す腕が一致する人の写真を垂直軸を中心に回転させた手課題または更衣課題のそれぞれ2つの写真から選択させる。
視点取得課題において,心的回転課題と同様の写真と5方向のうちいずれか一つの矢印を3秒間提示した後に,次のスライドで矢印の方向からの見え方として正しい写真を下部のいろいろな角度から見た手課題,更衣課題の2つの写真から選択させる。各課題について,これらを1セットとし100試行ずつ行った。
統計処理は100試行の合計反応時間と正答率について,心的回転群及び視点取得群における手課題と更衣課題において対応のあるt検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
合計反応時間において,心的回転群の更衣課題は手課題よりも有意に短く(p<0.01),視点取得群の更衣課題と手課題において有意差は無かった。
正答率において,心的回転群の更衣課題と手課題において有意差は無く,視点取得群の更衣課題は手課題よりも有意に高かった(p<0.05)。
【考察】
心的回転の障害が更衣動作を困難にしていることが報告されている。本研究では,更衣動作に着目して心的回転と視点取得の2つのイメージ手法について比較検証した。
結果,心的回転群において,更衣課題の合計反応時間は手課題より速いが,正答率は手課題と有意差はなかった。心的回転では,被験者が実際に自分の手を刺激に合わせようとして動かす身体感覚の共感的投入が行われる。また,一般に心的回転では対象表象の操作が行われるのに対し,空間的視点取得では仮想的自己に対して操作が加えられる。そのため,心的回転時には運動関連領域は,被験者が対象物を自分の手で操作した結果であると想像した時のみ活性化する(積山,1987)。このことから,運動の想起が困難な対象者に対して筋感覚的運動イメージを鮮明化させるという目的で理学療法として導入したい時には心的回転を用いることが有用である可能性がある。
一方,視点取得群において,更衣課題の合計反応時間は手課題と有意差はないが,正答率は手課題より高かった。空間的視点取得は,外的情報処理(他者)と内的関連性(自己)から成る複合体で,他者の視点からの見えを経験することによって見えを区別する必要性に気づき,自己の視点からの見えの確立が促されることが分かっている。また,仮想的自己が空間内を移動するイメージが喚起されるために運動関連領域が賦活するとも報告されている(杉村,1995)。このことから,他視点からの見えを理解させる目的で理学療法を導入したい時には空間的視点取得を用いることが有用である可能性がある。