第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

地域理学療法6

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0670] 施設内高齢者における転倒危険因子の検討

―転倒場所別の分析―

加古川直己1, 渕上健2 (1.介護老人保健施設おおくま, 2.おおくまセントラル病院)

Keywords:施設内高齢者, 転倒危険因子, 転倒場所

【はじめに,目的】
高齢者の転倒は,ADL能力低下や寝たきりなどQOLを低下させる主要な要因である。その中で,施設内高齢者の転倒発生率は,地域在住高齢者に比べ2~3倍高く(Rubenstein;1994),介護場面において最も多い事故と報告されている(三田寺;2013)。近年,施設内高齢者における転倒要因について多数調査されており,身体機能低下のみでなく環境の影響についても示唆されている(角田;2008)。また,施設内では車椅子使用者と未使用者が共存し,各場所での転倒様式や発生状況に違いが認められることから,各場所における転倒危険因子が異なっていると考えられる。しかしながら,施設内高齢者の転倒危険因子を場所別で調査した報告は少ない。
よって,本研究の目的は,施設内高齢者における転倒危険因子を場所別に検討することである。
【方法】
対象は,2012年4月から2014年3月の期間に転倒した介護老人保健施設入所中の利用者とした。調査方法として,事故報告書から転倒記録を抽出し,転倒状況を後ろ向きに調査した。転倒基準としては,「本人の意思からではなく,床などのより低い面に身体が接触すること」(Gibson;1990)とし,車椅子からのずり落ちも含めた。
調査内容として,転倒場所,ADLにおける介助量,移動様式,服薬状況,理解力,視力,疼痛といった項目を抽出した。転倒予測因子の抽出には,目的変数を各転倒場所とし,説明変数を1)介助の有無,2)車椅子使用の有無,3)服薬の有無,4)理解力の有無,5)視力低下の有無,6)疼痛の有無としたロジスティック回帰分析を行った。また,このときの変数の妥当性を高めるために尤度比検定による変数増加法を用いた。検定にはSPSS ver17.0を使用し,有意水準は5%未満とした。

【結果】
総転倒数は220回であり,転倒場所として,居室が135回,廊下が54回,トイレが26回,リハ室が3回,浴室が2回であった。ロジスティック回帰分析の結果,居室内転倒では車椅子の有無と疼痛の有無が影響する変数として選択され(モデルχ2検定:p<0.01),オッズ比と有意確率は,車椅子の有無が2.6,p=0.00,疼痛の有無が2.4,p=0.00であった。廊下での転倒では介助の有無と車椅子の有無が選択され(モデルχ2検定:p<0.01),介助の有無が0.36,p=0.00,車椅子の有無が0.25,p=0.00であった。他の転倒場所では,ロジスティック回帰式が適合しないという結果となった。

【考察】
施設内の転倒において,居室と廊下で約9割を占めていた。これは,施設内高齢者の転倒状況を調査した報告(新野;1996)と同様の結果であり,1日における活動の多い場所が反映されたと考える。
居室内における転倒予測因子は,車椅子使用者と疼痛保有者であることが明らかとなった。施設内における車椅子使用者の転倒調査では,主な転倒場所はベッドサイドであり,車椅子のブレーキ忘れによる環境的要因や,車椅子使用者の認知及び運動機能低下の3要因が複合的に関与していたと報告されている(今岡;2012)。本研究においても,車椅子使用者は移乗時の動作手順が多くなることから,認知機能低下による手順間違いや確認不足が生じることに加え,運動機能低下によって不安定な状況下での対応が困難であることが考えられる。また,腰痛や膝関節痛がある者は,体幹及び膝関節の伸展運動が不十分でバランスを崩しやすく,転倒率が有意に高くなること(荒井;1993)や,膝関節症は動作開始時に疼痛が生じやすいことが報告されている(桂川;2014)。本研究の結果からも,朝方や夜間における不十分な覚醒状態からの動作開始時に疼痛が生じることで転倒の危険性が高まるのではないかと考える。
また,廊下での転倒予測因子は,歩行自立者であることが示された。施設内での事故調査において(三田寺;2013),歩行自立者がトイレや食堂へ移動する際,廊下でのふらつきによる転倒事故が最も多かったと報告している。本研究においても,歩行自立者はスタッフの注意が向きにくく,ふらつきやつまずきによって転倒していると考えられる。
以上のことから,居室と廊下における危険因子がそれぞれ異なっていることが明らかとなり,各転倒場所での危険因子に対する介入を実施していくことが効果的な転倒予防に繋がるのではないかと考える。しかしながら,本研究では各転倒場所での詳細な状況把握や転倒者の特性の評価を十分に行えていないため,転倒要因までは明らかにできていない。今後はこれらを踏まえた上での調査を実施していく必要があると考える。

【理学療法学研究としての意義】
施設内における各転倒場所での危険因子を明確にすることで,転倒事故の防止に有効的な対策に繋げられるのではないかと考える。