第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

地域理学療法8

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0695] 小学校での「歩く教室」事業の取り組み

学校体育への指導的介入について

兼子昌幸1,2, 井上剛3, 関口憲治1,2, 依田彰子1,2, 諏訪直人2,4, 工藤哲也5, 中村崇1,2, 澁川正人1 (1.医療法人アレックス佐久平整形外科クリニックスポーツ関節鏡センター, 2.特定非営利活動法人佐久平総合リハビリセンター, 3.佐久市役所市民健康部国保医療課医療給付係, 4.有限会社Body Conditioning Factory, 5.パーソナルジムEFFECT)

キーワード:小学校, 歩行, 指導

【はじめに,目的】
長野県佐久市では,世界最高健康都市構想を掲げ,市民が生涯を通じて豊かな心と健やかな身体を自らの行動で保てるように,予防活動をテーマとした,新しい視点による保健活動を展開している。
その一環として,子どもの頃からの健康意識の向上による,病気にならない,病気にかかりにくい健康な身体づくりを目指し,小中学生を対象に,ハイリスクアプローチとして,「学校血液検査の結果に基づく健康相談」,また,ポピュレーションアプローチとして,「生活点検表による自己生活記録」,「小学校歩く教室」,「中学校走る教室」を実施している。
今回は,これら佐久市が実施する事業のうち,「小学校歩く教室」に関わり,学校現場において行った姿勢と歩行の実技指導,また子ども達の興味を引くことができたストレッチなどについて報告する。
【方法】
佐久市が市内全16校の小学校に対して行ったアンケートにおいて「歩く教室」を希望した11校に対して,体育の授業の中で指導を行った。対象となった小学生は延べ2004名であった。
指導内容は基礎,選択A,選択Bの3コースで内容を分け,基礎コースは必須科目と位置づけ,基礎コースを修了した場合は,選択AまたはBのコースを受ける事ができるものとした。
基礎コースは,歩くことの新しい知識を得る事を目標に,正しい歩き方を体験する事を目的とした。選択Aは自分の歩き方,動き方を知る事を目標に,正しく歩く意識付けを目的とした。選択Bは正しい歩き方を使う事を目標に,正しい歩き方が生かせる事を目的として行った。
【結果】
平成26年5月より開始し,基礎コースは11校で21回(低学年9回,高学年12回),選択Aは4校で7回(低学年3回,高学年4回),選択Bは8校で9回(低学年2回,高学年7回)行った。
基礎コースの指導では,歩くという動作は,良い立位姿勢が重要であるとし,自身の姿勢を認識する事と同時に,良い姿勢を保持するよう指導を行った。選択Aでは,様々な歩き方を用いて自身のバランス能力を知ると同時に,左右対称に身体を動かす事が正しく歩くためには必要であることを認識する事ができた。選択Bでは,正しい歩き方の実践の中で速度を調整し,歩くから走るにつなげる事ができた。
指導の中で筋柔軟性の評価,立位姿勢の評価,またストレッチングの方法についての指導の際には,担任教諭をモデルにしたり,良い姿勢を促す際の号令も身近な野菜の名前を合図としたりして,子どもたちが理解しやすく,また興味を持つような環境を作るよう心掛けた。良い姿勢への号令は,その後も校内の授業や集会にて活用できるものとなった。
【考察】
歩行は,常に重力に抗して立位姿勢を保持しながら,全身を移動させるもの1であるため,指導では,良い立位姿勢を意識させ,より効率の良い歩行動作へとつなげるように行った。子どもたちの中には,正しい立位姿勢を保持する事が困難で,不良姿勢のまま歩行動作を行っている者もいた。また筋柔軟性の低下が著しい子どもも存在した。それ故に,正しい立位姿勢やストレッチングの方法,効率の良い歩行動作を指導する事ができたのは有効であったと考える。
現代の子どもたちは運動過多によるスポーツ傷害や運動不足による肥満傾向・生活習慣病がみられ「身体の二極化」がなされている2としているが,今回の取り組みは,子どもの健康意識を向上させ,小児生活習慣病の予防や将来的なロコモティブシンドローム(以下ロコモ)の予防につながると同時に,歩行を通じて自身の筋肉やバランス能力,姿勢の状態を知る事ができるものであったと考える。
小学校の体育では,運動神経系の発達を十分に促すことで,運動ができる身体にする必要性があり,将来のメタボリックシンドローム(以下メタボ)や骨粗鬆症の予防に通じる3としている。今回指導した歩行や姿勢以外にも走る,跳ぶ,投げるなどの様々な動作を行う中で,運動神経系の発達は促進されるが,同時にオーバーユースやマルユースによるスポーツ傷害を発生することも少なくない。また,学童期における運動器傷害を予防することが将来のロコモ・メタボ予防につながる4としている。それらの予防指導は非常に重要であり,今回のように学校の体育の現場で指導する事は有用であり,このような活動に参加する機会を増やしていく事が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本事業を通じ,関係者に深謝すると共に,今後も理学療法の発展の一助になればと考える。