第50回日本理学療法学術大会

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予防理学療法2

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0713] 当療養所に於ける筋力向上の取り組み

~全身振動トレーニング機を用いた運動効果について~

佐久間誠司, 渋谷誓子, 福島一雄 (国立駿河療養所)

キーワード:全身振動トレーニング, 高齢者, ハンセン病

【はじめに】当療養所では,現在66名のハンセン病回復者が入所し,平均年齢82歳と高齢化が進行している。我々は,第49回日本理学療法学術大会において,入所者の大腿四頭筋筋力が毎年有意に低下していることと,その対策として筋肉の組織再生を促すアミノ酸,βヒドロキシβメチル酪酸(HMB)を含む飲料を摂取しながらリハビリを実施した効果を報告した。有意な筋力向上効果は得られなかったが,筋力向上とリハビリに取り組む姿勢との関連性が示唆された。今回は新たな対策として,全身振動トレーニング機を導入し,その効果を検討したので報告する。
【方法】対象者11名(男性5名,女性6名,平均年齢81.1±6.5歳)に対して全身振動トレーニング機(パワープレート)を用いた筋力増強プログラムを実施した。運動メニューは1種目30秒とし,スクワット,ワイドスクワット,片脚スクワットなど個人の耐用能力ごとに設定した(運動時間は一人1分~6分)。大腿四頭筋筋力はA:開始時,B:4ヶ月経過後,C:9ヶ月経過後に,等尺性筋力および等速性筋力(角速度60度/秒,180度/秒,300度/秒)を左右側で測定し,体重で除して評価した。統計解析は,対応のある二つの平均値の差の検定を用いた。
【結果】対象者11名のうち,継続できたのは7名で,4名が途中で中止となった(中止理由は死亡や体調不良)。継続7名の平均運動頻度は,前半4ヶ月が3.2回/週,後半5ヶ月が3.1回/週だった。大腿四頭筋筋力の推移(A→B→Cと表記)は,等尺性筋力(右側48%→51%→50%,左側46%→47%→48%)であった。等速性筋力は,角速度60度/秒(右側:36%→36%→36%,左側:36%→37%→35%),180度/秒(右側:23%→25%→26%,左側:24%→26%→24%),360度/秒(右側:14%→16%→16%,左側:13%→15%→15%)であった。開始時と比較して,4ヶ月後の等速性筋力360度/秒の右側(p<0.05),9ヶ月後の等速性筋力180度/秒の右側(p<0.01)及び等速性筋力360度/秒の右側(P<0.01)で有意に筋力が向上した。
【考察】全身振動トレーニングは,重垂バンドなどを用いた通常の筋力トレーニングと同じ効果が短時間の運動で達成できるとされている。運動時間が短時間(1分~6分)であるにもかかわらず,有意な筋力向上がみられたのは,全身振動トレーニングの有効性を示していると思われる。さらに4ヶ月後に比べ9ヶ月後の筋力がより向上している傾向から,トレーニングを継続することでさらに効果が高まると予想される。筋力向上効果は高速の等速性筋力(角速度180度/秒,360度/秒)で起きており,等尺性筋力及び低速の等速性筋力では認めていない。これはこのトレーニングが,外部からの振動刺激に対して反射的な筋収縮が起きることを利用していることと関係していると推定されるが,正確な理由は不明である。高齢者は運動耐用能が低い場合が多いが,全身振動トレーニングは短時間で筋力向上が望めるため,高齢者に有効な運動プログラムであると考える。今後は,より効果的な運動メニューについて調べたい。
【理学療法学研究としての意義】当療養所での下肢筋力が毎年低下している現状を改善するため,全身振動トレーニング機を導入し,その効果を検討した。短時間の運動で,ある程度の筋力向上が得られ,運動耐用能が低い高齢者においても,効果的な運動プログラムとなる可能性が得られたことは意義深いと思われる。