[P2-C-0737] 腹部大動脈瘤術後患者における血管内皮機能障害と血管内皮機能障害を有する患者の特徴
キーワード:腹部大動脈瘤, 血管内皮機能障害, 回復期リハビリテーション
【はじめに,目的】
腹部大動脈瘤(AAA)に対する人工血管置換術は,本邦で最も多い血管外科領域の手術の一つである。AAAは動脈硬化から発症することが知られており,動脈硬化性疾患である狭心症や閉塞性動脈硬化症を合併することが報告されている。動脈硬化性疾患は血管内皮機能障害の進展により生じることから,AAA患者においても血管内皮機能が障害されていることが予測される。一方で,有酸素運動は血管拡張物質である一酸化窒素の産生を増加させることから,血管内皮機能を改善することが知られている。よって,AAA術後患者の回復期において,有酸素運動は血管内皮機能を改善し,他の動脈硬化性疾患の合併を予防できる可能性があると考えられる。しかし,AAA術後患者において血管内皮機能を調査している報告は少なく,AAA術後の血管内皮機能障害は明らかとなっていない。また,血管内皮機能の測定には専用の機器が必要であり,多くの施設では血管内皮機能の測定が困難であることから,血管内皮機能障害を有する患者の特徴を明らかにすることは,臨床上重要であると考えられる。そこで本研究は,AAA術後患者の回復期の運動療法を再考するために,AAA術後患者の血管内皮機能障害を把握し,さらに,血管内皮機能障害を有する患者の特徴を明らかとすることを目的とした。
【方法】
対象は,2012年8月から2014年3月までの間に,AAAに対して手術が施行された患者のうち,退院時に血管内皮機能の測定が可能であった23例(年齢71.3±8.8歳,男性78%)とした。すべての対象は,退院時にEndoPAT2000を用いて,血管内皮機能の指標とされている反応性充血指数(RHI)を測定した。さらに,先行研究を参考として,対象をRHI1.82未満であった8例をRHI低下群,RHI1.82以上であった15例をRHI維持群に分類した。患者背景因子として,年齢,性別,体格指数,併存疾患の有無,喫煙の有無および術前の血液検査所見を調査した。また周術期の因子として,手術時間,麻酔時間および術中の出血量を調査した。さらに退院時の因子として,退院時血液検査所見と在院日数を調査した。また,運動機能検査として,退院時の6分間歩行距離,握力,膝伸展筋力および最大歩行速度を調査した。統計解析はそれぞれの項目の2群間の比較に対応の無いt検定とχ二乗検定を用いた。
【結果】
AAA術後患者のRHIの平均値は2.14±0.65,中央値は1.93であった。RHI低下群および維持群におけるRHIの平均値はそれぞれ1.45±0.24と2.44±0.54であった。RHI低下群における入院直前の喫煙率は,RHI維持群と比較して有意に高値を示した(100 vs 69%,P<0.05)。RHI低下群における術前の中性脂肪(TG)は,RHI維持群と比較して有意に高値を示した(130.1±55.0 vs 82.7±19.7mg/dL,P<0.05)。RHI低下群における術前および術後の推算糸球体濾過量(eGFR)は,RHI維持群と比較して有意に低値を示した(55.9±17.8 vs 71.3±13.7mL/min/1.73m2;60.3±19.3 vs 78.8±17.0mL/min/1.73m2,それぞれP<0.05)。
【考察】
本研究においてAAA術後患者の約35%が,退院時に血管内皮機能障害を有していることが明らかとなった。また,血管内皮機能障害を認めた患者は,入院直前までの喫煙習慣の割合が多く,術前のTGが高値であり,そして術前後の腎機能が低下していた。喫煙は酸化ストレスを亢進させることが知られている。酸化ストレスの亢進は,一酸化窒素を不活性化し血管内皮機能を低下させることが知られている。また,TGを取り込んだ脂肪細胞や腎機能障害によるレニン・アンジオテンシン系の活性化は,炎症性サイトカインの分泌を増加し血管の炎症を惹起することから,血管内皮機能を低下させることが報告されている。以上のことから,RHI低下群は血管内皮機能が障害されていたと考えられる。また,退院時のRHIの低下に術前の因子が影響していることから,RHI低下群はすでに術前から血管内皮機能障害が生じていたことが示唆された。これらの特徴を有するAAA患者は,退院時に血管内皮機能障害を有している可能性が高いため,回復期において血管内皮機能を改善する目的で運動療法を導入する必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
血管内皮機能障害を有するAAA術後患者の割合とその特徴を明らかとしたことが,本研究の臨床的意義である。
腹部大動脈瘤(AAA)に対する人工血管置換術は,本邦で最も多い血管外科領域の手術の一つである。AAAは動脈硬化から発症することが知られており,動脈硬化性疾患である狭心症や閉塞性動脈硬化症を合併することが報告されている。動脈硬化性疾患は血管内皮機能障害の進展により生じることから,AAA患者においても血管内皮機能が障害されていることが予測される。一方で,有酸素運動は血管拡張物質である一酸化窒素の産生を増加させることから,血管内皮機能を改善することが知られている。よって,AAA術後患者の回復期において,有酸素運動は血管内皮機能を改善し,他の動脈硬化性疾患の合併を予防できる可能性があると考えられる。しかし,AAA術後患者において血管内皮機能を調査している報告は少なく,AAA術後の血管内皮機能障害は明らかとなっていない。また,血管内皮機能の測定には専用の機器が必要であり,多くの施設では血管内皮機能の測定が困難であることから,血管内皮機能障害を有する患者の特徴を明らかにすることは,臨床上重要であると考えられる。そこで本研究は,AAA術後患者の回復期の運動療法を再考するために,AAA術後患者の血管内皮機能障害を把握し,さらに,血管内皮機能障害を有する患者の特徴を明らかとすることを目的とした。
【方法】
対象は,2012年8月から2014年3月までの間に,AAAに対して手術が施行された患者のうち,退院時に血管内皮機能の測定が可能であった23例(年齢71.3±8.8歳,男性78%)とした。すべての対象は,退院時にEndoPAT2000を用いて,血管内皮機能の指標とされている反応性充血指数(RHI)を測定した。さらに,先行研究を参考として,対象をRHI1.82未満であった8例をRHI低下群,RHI1.82以上であった15例をRHI維持群に分類した。患者背景因子として,年齢,性別,体格指数,併存疾患の有無,喫煙の有無および術前の血液検査所見を調査した。また周術期の因子として,手術時間,麻酔時間および術中の出血量を調査した。さらに退院時の因子として,退院時血液検査所見と在院日数を調査した。また,運動機能検査として,退院時の6分間歩行距離,握力,膝伸展筋力および最大歩行速度を調査した。統計解析はそれぞれの項目の2群間の比較に対応の無いt検定とχ二乗検定を用いた。
【結果】
AAA術後患者のRHIの平均値は2.14±0.65,中央値は1.93であった。RHI低下群および維持群におけるRHIの平均値はそれぞれ1.45±0.24と2.44±0.54であった。RHI低下群における入院直前の喫煙率は,RHI維持群と比較して有意に高値を示した(100 vs 69%,P<0.05)。RHI低下群における術前の中性脂肪(TG)は,RHI維持群と比較して有意に高値を示した(130.1±55.0 vs 82.7±19.7mg/dL,P<0.05)。RHI低下群における術前および術後の推算糸球体濾過量(eGFR)は,RHI維持群と比較して有意に低値を示した(55.9±17.8 vs 71.3±13.7mL/min/1.73m2;60.3±19.3 vs 78.8±17.0mL/min/1.73m2,それぞれP<0.05)。
【考察】
本研究においてAAA術後患者の約35%が,退院時に血管内皮機能障害を有していることが明らかとなった。また,血管内皮機能障害を認めた患者は,入院直前までの喫煙習慣の割合が多く,術前のTGが高値であり,そして術前後の腎機能が低下していた。喫煙は酸化ストレスを亢進させることが知られている。酸化ストレスの亢進は,一酸化窒素を不活性化し血管内皮機能を低下させることが知られている。また,TGを取り込んだ脂肪細胞や腎機能障害によるレニン・アンジオテンシン系の活性化は,炎症性サイトカインの分泌を増加し血管の炎症を惹起することから,血管内皮機能を低下させることが報告されている。以上のことから,RHI低下群は血管内皮機能が障害されていたと考えられる。また,退院時のRHIの低下に術前の因子が影響していることから,RHI低下群はすでに術前から血管内皮機能障害が生じていたことが示唆された。これらの特徴を有するAAA患者は,退院時に血管内皮機能障害を有している可能性が高いため,回復期において血管内皮機能を改善する目的で運動療法を導入する必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
血管内皮機能障害を有するAAA術後患者の割合とその特徴を明らかとしたことが,本研究の臨床的意義である。