第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0749] 外来血液透析患者における透析日の理学療法介入の効果の検討

清瀬直子 (おさふねクリニック)

キーワード:血液透析, 運動療法, 外来

【はじめに,目的】
2010年の日本透析医学会の調査では血液透析(HD)患者の約9割が頻回の通院をしながら在宅生活を送っている。外来HD患者は,通院による時間的拘束,食事制限による活動性・意欲の低下のため,動かない・動こうとしない傾向が強く非HD日の運動療法では脱落率が高い。K/DOQIのガイドラインで運動療法が推奨されるようになってから,HD中の運動療法が注目をされるようになった。しかし,HD中の運動療法に理学療法士が介入している施設は少数である。また,看護師や技師が多忙な業務の合間に提供していることも多く,リスク管理の面から比較的全身状態の良いHD患者を対象としている。本研究の目的は,外来HD患者のうち合併症や併存疾患によりADL低下や易転倒となった患者を対象とし,HD日に行った運動療法を中心とした理学療法の長期的効果について検討することである。
【方法】
対象は,歩行困難や易転倒を訴えるHD患者のうち,HD日毎に12カ月以上継続して理学療法を実施したHD患者23名(72.3±8.9歳,男性15名,透析歴6.2±5.0年,理学療法継続期間3.6±0.7年)である。理学療法は個別に行い,歩行困難なHD患者にはHD前にリハビリ室で,ADLが自立できているHD患者はHD中にベッド上で行った。理学療法士が不在の時は,あらかじめ設定したプログラムに従い透析室のスタッフがセッティングや観察を行い,週2~3回の頻度で30~60分間ずつ実施した。評価項目は生化学データより%クレアチニン産生速度(%CGR)を算出し,筋力評価として透析前の握力,バランス・歩行評価としてTimedup&Go test(TUG)の3項目について6カ月毎に最長36カ月間追跡しANOVAで検討した。統計学的分析にはSPSS Ver.19.0を使用した。
【結果】
観察期間中に6名が介護サービスの利用開始や自宅で運動が可能となったため介入を終了した。また,4名が死亡により終了した。介入開始時の各平均値は%CGRが67.4%,TUGが15.7秒,握力は17.8kgであった。%CGRの平均値は6カ月目で72.1%,12カ月目で74.3%,18カ月目で75.4%と徐々に増加していく傾向がみられ,介入開始時と比べ20~30%増加した値が36カ月間続いていた。介入時にTUGの計測が可能であったのは23名中18名であった。TUGは,6カ月目の平均値が13.0秒となり,その後も平均値は保持されていた。高齢者の転倒リスクの基準となる13.5秒以上の患者が,介入時は9名であったが漸減し24カ月目には3名となった。握力に変化は無く36カ月間,値は保持されていた。観察期間中,%CGR,TUG,握力とも有意な変化は認めなかった。また,理学療法実施中にHDを中止するような事故は無かった。
【考察】
統計学的に有意な改善は認められなかったものの,理学療法開始以降に%CGRとTUGでは改善傾向があり,その後も保持されていた。開始時の%CGR値から栄養状態,筋肉量ともに不足していたことが推測される。加齢や合併症の進行などにより運動機能の低下しやすいHD患者の運動機能が長期間保持されていることは,理学療法の有効性を示している。また,HD日に行うことで脱落者は無かった。これは透析施設内で理学療法を行うことでわざわざ場所を移る必要が無い上,HD前に実施する場合でも,運動療法の時間分だけ早めに来院すればよく,時間の確保が容易であったと考える。HD患者においては,口頭指導のみではなかなか運動が習慣化されてないことが多く,特に合併症や併存疾患のあるHD患者は,それぞれ個別の運動プログラムが必要とされる。また,ドライウェイトの設定変更や食事・飲水・排便による体重の増加量などで血圧変動や体調の変動しやすいHD患者に理学療法を行う場合,他職種からの情報が重要であるため,透析施設内で理学療法が行えることは安全面の上でも有意義であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
HD患者に対する運動療法が奨励されているにもかかわらず,多くのHD患者が通院している透析クリニックにおいて運動療法が導入されていないのが現状である。HD患者に対する理学療法介入の効果を明らかにすることは,透析医療の一環として理学療法が認知されるために意義あるものと考えられる。