第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

創傷管理・疼痛管理

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-C-0771] 介護老人保健施設における慢性疼痛の評価方法について

安藤剛1, 竹内透1, 梅林千恵1, 福田結美1, 森田知彦1, 奥野夏希1, 香川健太郎2, 越智久雄3, 西村敦4 (1.介護老人保健施設アイリス堺正風, 2.医療法人紀和会正風病院, 3.学校法人福田学園大阪リハビリテーション専門学校, 4.藍野大学)

Keywords:慢性疼痛, Abbey pain scale, Numeric rating scale

【はじめに,目的】

わが国は2007年より超高齢化社会になっており,理学療法士は医療や介護において大きな期待が寄せられている。高齢者の身体運動能力低下は様々原因が重複しており,その大きな原因として慢性疼痛があるが,高齢者の多くは認知症及びコミュニケーション能力低下により慢性疼痛の訴えを詳細に聞き取ることを困難にしている。
今までに質問形式による疼痛評価に関する報告は見られるが,認知症を罹患している高齢者に対してどれほど信頼性があるのか疑問に思われる。Abbeyが重度認知症患者を対象に客観的な行動評価法を提唱しAbbey pain scaleの日本語版としてAPS-Jが開発されている。認知症の程度を評価する方法としてはMini Mental State Examination(以下MMSE)があり,基本的生活動作評価法としBarthel Index(以下BI)は広く使われている。また,疼痛を10段階評価する評価方法としてNumeric rating scale(以下NRS)がある。
今回,介護老人保健施設利用者の慢性疼痛を客観的に評価できるのかについてAPS-J,MMSE,BI,NRSを3週間の理学療法士,作業療法士介入前後に比較検討し,一定の知見を得たので報告する。

【方法】
対象は平成26年9月18日から平成26年10月29日の間に介護老人保健施設アイリス堺正風(以下当施設)に入所中のものの中から,身体機能面で評価困難,評価期間中に当施設を退所した等の理由で評価不可能になったものを除いた合計60名とした。
今回検討した評価方法はAPS-J,NRS,BI,MMSEとした。介入の内容は関節可動域運動,リラクゼーション,筋力増強運動,神経筋再教育,作業活動,集団体操,風船バレー,小集団体操,物理療法,歩行練習,立ち上がり練習,起立練習,移乗練習,立位保持練習,車椅子自操練習,ADL練習,嚥下練習のうち,それぞれ対象者に必要なものを組み合わせて実施した。実施期間は評価期間中のうち3週間とし,介入前後でAPS-J,NRS,BI,MMSEの評価を行った。
統計学的解析としてSpearmans correlationを,解析ソフトとしてSPSSを用いて各評価項目間での相関を調査した。
【結果】
NRSとAPS-Jとの間で介入前後ともに弱い相関があることが分かった(介入前rs=0.27,介入後rs=0.26)。BIとAPS-Jでは介入前後でどちらも負の相関があることが分かった(介入前rs=-0.56,介入後rs=-0.49)。BIとNRSではどちらも相関はなかった(介入前rs=0.11,介入後rs=0.09)。
NRSとAPS-Jの介入前,介入後の相関が高いということは,痛みの主観的な数値評価と様々な行動による痛みの表現を段階評価したものとの一致度が高いといえる。
また介入後に各評価項目が改善したのはNRS10名,APS-J4名,MMSE33名であり,BIは変化がなかった。

【考察】

NRSとAPS-Jの関係でみると介入前rs=0.27,介入後rs=0.26であり弱い相関があることが分かった。つまりNRSが高い人ほどAPS-Jの点数も高いと考えられる。客観的行動評価法であるAPS-Jの得点が高いということは,NRSの得点と一致しており,主観的な疼痛評価法であるNRSと,客観的行動評価法であるAPS-Jとの関連も深い。この結果APS-Jの信頼性が高いことは先行研究とも一致する。
APS-Jは疼痛箇所があり,それが動作に影響している場合は点数が高くなる。本研究におけるBIとAPS-Jの相関係数では介入前rs=-0.56,介入後rs=-0.49であり,介入前後で負の相関があることは相互に妥当と思われる。これは慢性疼痛により自己での動作機会が減り介助量が多くなっているケース,また慢性疼痛による動作意欲の減退も影響しているケースが考えられる。
BIとNRSでは介入前rs=0.11,介入後rs=0.09でありどちらも相関はなかった。これは基本的生活動作能力が高くても,自己の疼痛の程度を的確に表現できていないと言える。
これらの結果からAPS-Jは客観的行動評価法として介護老人保健施設で慢性疼痛の評価法として用いた場合に有効だと考える。しかし,APSは文化的背景の異なる人種に対して作成されたもので,日本版であるAPS-Jでも痛みに対する表現の違いを考慮せざる得ない。今後は介入方法の違いをAPS-Jで評価し,介護老人保健施設における理学療法士の役割について検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
当施設に限らず介護老人保健施設入所者のQOLを高める為には慢性疼痛に対する理解が求められる。NRS,APS-J,MMSE,BIなどの評価方法を用いて疼痛を正しく理解し,適切な治療プログラムを実施することは理学療法学研究として意義があると考える。