第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

生体評価学4

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0886] 急性期病院に入院するがん患者の特徴および治療内容別の比較

簡易栄養状態評価と骨格筋指標を用いた検討

前田大忠1, 中木哲也1, 藤川彩1, 五十嵐ひかる1, 影近謙治2 (1.金沢医科大学病院医療技術部心身機能回復技術部門リハビリチーム, 2.金沢医科大学運動機能病態学リハビリテーション科)

Keywords:がん, 栄養状態, 筋量

【はじめに,目的】
2010年度の診療報酬改定で,がんのリハビリテーション料の算定が可能になり,がん患者へのリハビリテーション(以下リハ)の必要性が年々高まってきている。近年,注目されている,がん悪液質になると食事摂取量,体重の減少が生じ,単なる飢餓状態とは異なり,骨格筋の多大な喪失を呈する。これにより身体が衰弱し死に至ることも多く,がん患者の生命予後や生活の質(Quality of life:QOL)に多大な影響を与えると言われている。そのため,低栄養状態や活動性が低い状態の患者へのリハは慎重に行う必要がある。
入院中のがん患者は治療の有害事象による,低栄養状態や身体活動能力などが治療に影響するとされているが,生体インピーダンス法(Bioelectrical impedance analysis:BIA法)を用い,筋量を評価した報告は少ない。そこで,今回は急性期病院に入院し,リハを実施しているがん患者の栄養状態,骨格筋指標(Skeletal muscle mass index:SMI)を評価し,がん患者の特徴を明らかにすることを目的とした。また治療内容別による比較を行い,治療による特徴や栄養状態を検討することを目的とした。
【方法】
2013年12月~2014年10月までに当院に入院中し,リハビリテーションを実施している患者を対象とした。除外基準は意識障害や高度な認知症などにより意思疎通が不可能な者,ペースメーカーや人工関節などの体内金属が挿入されている者,著明に浮腫がある者とした。
患者の基礎情報として診断名や治療内容はカルテより収集し,身長と体重の測定を行った。評価項目は栄養状態の評価として簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional AssessmentR-Short Form:MNA-SF)を用い,歩行の項目は入院生活に置き換えて一部改訂し合計(点)を算出した。筋量の測定にはBIA法であるInbody S20(Bio space社製)を用い,骨格筋量(kg)を測定し,その総量を身長の2乗で除してSMI(kg/m2)を算出した。
対象者の診断名よりがん患者(以下がん群)と,がん以外の疾患を有する患者(以下非がん群)に分類した。また,がん群を治療内容別に,化学療法を行っている患者(以下chemo群)と,手術を行った患者(以下ope群)を分類した。比較項目はMNA-SF,SMIとした。がん群と非がん群の比較およびchemo群とope群の比較はスチューデントのt検定を行い,chemo群とope群のMNA-SFの比較のみウェルチのt検定を行った。いずれの検定も有意水準は5%とした。
【結果】
対象者は98名(男性:61名,女性:37名)であり,平均年齢は71.2±10.1歳であった。
がん群と非がん群の平均値はそれぞれ,MNA-SFは6.9±3.0点,8.9±2.7点,SMIは7.5±1.3kg/m2,7.9±1.3 kg/m2であり,MNA-SFにおいて,がん群が有意に低かった。chemo群とope群の平均値はそれぞれ,MNA-SFは7.2±2.2点,6.5±3.8点,SMIは7.7±1.2kg/m2,8.3±1.2kg/m2であり,chemo群のSMIが低下傾向を示した。
【考察】
急性期病院に入院し,リハを実施しているがん患者は,他の疾患を有している患者と比較し栄養状態が悪かった。これは治療の有害事象である,悪心や嘔吐,食事摂取量の低下,腸管の吸収障害などが影響していると考えられる。また化学療法を行っている患者は,SMIが低下傾向にあった。化学療法の影響として,骨格筋に関しては腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor:TNF)やインターロイキン-6(Interleukin-6)などのサイトカインが骨格筋の蛋白分解を増加させることで,骨格筋は萎縮し筋量の低下を引き起こすことが報告されている。これらに加え,骨髄抑制による隔離や様々な有害事象により活動範囲が狭小化する機会が多く,廃用症候群に陥るリスクが高いためと考える。
これらのことから,急性期病院に入院するがん患者にリハを実施する際は,栄養状態の把握が重要と考えられる。また運動を行う際は,筋量評価などを参考にして,負荷量の設定には十分な考慮が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期病院に入院する,がん患者へのBIA法を使用したSMIの報告は少なく,今回の報告は身体的特徴を予測する1つの指標になると考えられる。また臨床において不動を余儀なくされている患者でも,BIA法は背臥位で測定でき,簡便な方法であるため筋量の測定には有用なのではないかと考えられる。