第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

生体評価学4

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0889] 大腿骨近位部骨折例におけるHand Held Dynamometerを用いた等尺性股外転・膝伸展筋力の検者内信頼性の検討

認知症の重症度によって信頼性は異なるか?

川端悠士, 澄川泰弘, 吉仲真美, 武市理史, 後藤圭太, 藤森里美, 小原成美 (JA山口厚生連周東総合病院リハビリテーション科)

キーワード:認知症, 筋力, 信頼性

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折例(Hip Fracture;HF)の理学療法においては歩行再獲得が重要となるが,HFの歩行能力を決定する要因として下肢筋力が重要であることが多くの先行研究で明らかにされている。われわれも第49回日本理学療法学術大会で,HFにおける歩行能力を決定する要因として患側股外転・膝伸展筋力が重要であることを報告した。
筋力測定に関しては様々な方法が報告されているがHand Held Dynamometer(HHD)は安価で汎用性が高いため,近年広く使用されている。HFにおいてもHHDを用いた筋力測定の高い信頼性が確認されているが,認知症例を対象から除外した上で検討を行っている報告が多い。認知症の重症度によって筋力測定における信頼性が異なるか否かが明らかとなれば,認知症を有するHFを対象として筋力測定を行う上で非常に有益であると考えられる。そこで本研究ではHFにおけるHHDを用いた筋力測定の検者内信頼性が認知症の重症度によって異なるか否かを明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象はH24年1月からH25年9月の間に当院へ入院加療となったHF連続144例とした。このうち認知症老人の日常生活自立度(自立度)がIII・IV・Mに該当する18例,中枢神経疾患の既往を有する8例,転科例2例を除く116例(年齢:81.7±7.5歳,術後経過日数:50.4±18.0日)を分析対象とした。自立度III・IV・Mの症例に関しては測定方法の理解が困難なために測定が実施できない症例が存在したため,選択バイアスの影響を排除するため全例を対象から除外した。この116例を重症度別に正常群44例,I群38例,II群34例に分類した。なお自立度判定は担当療法士と複数の病棟看護師にて行った。
退院時にHHD(日本メディックス社製,power trackII)を使用し,患側股外転・膝伸展筋力を測定した。筋力測定は先行研究で高い信頼性が報告されている固定用ベルトを使用した方法で行った。測定回数は3回とし,測定値と大腿長・下腿長からトルク体重比を算出した。測定は事前に方法についてオリエンテーションを受けた6名の検者が行い,同一対象例に対しては1名の検者が行った。
患側股外転・膝伸展筋力の検者内信頼性について,認知症の重症度別に級内相関係数(Intra-class correlation coefficient:ICC)(1.1)を算出し比較した。範囲制約性の問題を除外するためにSEM(Standard Error of Measurement)を算出し認知症の重症度別に比較した。ICC・SEMの比較に当たっては95%CI(confidence interval)がオーバーラップしているか否かを検討した。統計学的解析には改変RコマンダーによるR2.8.1を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
患側股外転筋力/患側膝伸展筋力のICC(95%CI)は正常群で0.96(0.94-0.98)/0.97(0.95-0.98),I群で0.96(0.93-0.98)/0.96(0.93-0.98),II群で0.98(0.96-0.99)/0.98(0.97-0.99)であり,患側股外転・膝伸展筋力ともに認知症の重症度による有意差を認めなかった。患側股外転筋力/患側膝伸展筋力のSEM(95%CI)は正常群で6.30(5.48-7.40)/7.17(6.24-8.43),I群で6.39(5.51-7.62)/7.93(6.83-9.45),II群で3.49(2.98-4.20)/4.51(3.86-5.44)であり,患側股外転・膝伸展筋力ともにII群で正常群・I群に比較して有意に低値を示した。
【考察】
患側股外転・膝伸展筋力いずれもICCに認知症の重症度による有意差を認めなかった。またSEMはII群で有意に低値を示し,II群における測定値のバラツキが正常群・I群に比較して低いことから,軽度~中等度の認知症例を対象として筋力測定を行う場合,筋力測定の検者内信頼性には認知症の重症度による大きな相違は無いことが明らかとなった。
一般的に筋力測定を実施する際には,測定値の信頼性・妥当性が低くなることが予測されるため認知症例は対象から除外されることが少なくない。先行研究では認知症例を対象として握力測定における検者内信頼性を検討しているが,軽度~中等度の認知症例を対象とした場合には,測定値の高い検者内信頼性が確認されている。I群・II群のような軽度~中等度の認知症例においては測定方法に関する理解力や,指示遂行能力は保たれている場合が多く,HHDを使用した筋力測定においても高い検者内信頼性が得られたものと考える。

【理学療法学研究としての意義】
軽度~中等度の認知症を合併したHFにおける筋力測定の信頼性は,認知症の重症度により大きな相違は無いことが明らかとなった。本研究は認知症を合併したHFの筋力測定を行う上で非常に意義のある情報となるものと考える。