[P3-A-0892] 位置覚検査の運動様式による再現性の違い
Keywords:位置覚, 運動様式, 再現性
【はじめに,目的】
位置覚情報は,身体部位の位置関係に合わせた随意運動を調節し,関節周囲組織への過度のストレス防止やボディイメージの構築に役立てられている。そのため位置覚を正確に評価することは重要であると考える。位置覚検査法は,対側肢の模倣による検査法が多く用いられている。この方法は,検査肢を検者が他動的に動かし,対側の模倣肢は対象者が自動的に動かすものである。そのため両側では筋収縮の有無による筋張力の差異が生じている可能性がある。このことが検査法の結果に影響を及ぼしているのではないかという疑問が生じる。そこで本研究の目的は,運動様式の違いによる位置覚検査結果の違いを知ることとする。
【方法】
対象は膝関節に整形外科的,神経学的疾患の既往のない男性13名,女性7名,計20名(年齢21.6±0.7歳)とした。位置覚検査部位は左膝関節とし,端座位で,設定角度まで膝関節伸展運動を行い,5秒間保持し記憶させた後,同側で再現する方法とした。設定時と再現時の膝伸展角度の誤差角度を測定し,運動様式による違いを比較した。膝関節の運動様式は,随意運動によって膝関節を伸展し棒に接触させるものを自動運動,検者が踵部に紐をかけて他動的に下腿を引き上げるものを他動運動とした。この時に筋収縮が起こらないよう検者は大腿部の視診と下腿の重みを確認しながら行った。設定角度は30°,45°,60°の3条件とし,設定角度に達するところで下腿が棒に接触する角度設定装置を用いた。再現方法は,角度設定装置の棒を外し,対象者に自動運動で設定角度を再現させるものとし,各3回行った。運動様式2条件(自動運動,他動運動)と設定角度の3条件(30°,45°,60°)を組み合わせた6パターン(自動30°,自動45°,自動60°,他動30°,他動45°,他動60°)の施行順序はすべてランダムとした。膝関節角度の測定方法は,左側の大転子,大腿骨外側上顆,外果のランドマークをビデオカメラで側方から撮影し,画像解析ソフトにて膝関節角度を測定した。誤差角度は設定時と再現時の膝関節角度の誤差の絶対値の平均値とした。対象者には,着座後にアイマスクと耳栓を着用させ視覚と聴覚情報を制限した。統計学的検定は,2要因に対応のある2元配置分散分析を用いて検定を行った。危険率は5%未満とした。
【結果】
設定角度と運動様式の組み合わせによる各6パターンの誤差角度は,自動30°:3.9°±2.7°(平均値±SD,以下同様),他動30°:5.9°±3.5°,自動45°:3.9°±2.9°,他動45°:8.3°±5.0°,自動60°:4.2°±3.1°,他動60°:7.0°±3.8°であった。各設定角度で自動運動と他動運動間の誤差角度に有意差が認められ(p<0.01),設定角度の記憶を他動運動によって行った場合は誤差角度が大きい傾向にあった。設定角度による有意差は認められなかった。設定角度と運動様式の2要因間に交互作用は認められなかった。
【考察】
位置覚の誤差は自動運動と他動運動で違いが認められ,設定角度の記憶を他動運動によって行った場合は誤差角度が大きい傾向にあった。また,設定角度は大腿四頭筋やハムストリングスの長さを変化させていると予想されるが,設定角度による誤差に有意差は認められなかったので,筋長の位置覚検査への影響は少なかったと考える。従って,筋張力の変化が位置覚に大きく関与している可能性があると示唆された。対側肢の模倣による検査法では,検査肢は他動運動,模倣肢は自動運動という運動様式の違いがあり,位置覚に差異が生じることが考えられる。筋緊張が減退している場合,筋の張りが失われ垂れ下がるようになる。そのため,常に適度な筋緊張を保ち,張りのある健常者の筋よりも,弛緩性麻痺などを呈している方は筋張力が低下している可能性がある。他動運動による筋張力の少ない条件下では,位置覚情報が低下する可能性が示唆された。そのため,筋緊張が減退している方の位置覚鈍麻に関して,上位中枢での障害による深部感覚障害だけでなく,末梢の筋の状態も関与している可能性が考えられ,これらを把握し検査結果の解釈をする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,運動様式の違いによって筋張力の差異が生じ,位置覚検査の結果に影響を及ぼすことが示唆され,筋緊張の減退した方の位置覚鈍麻の解釈の一助となり得ると考える。
位置覚情報は,身体部位の位置関係に合わせた随意運動を調節し,関節周囲組織への過度のストレス防止やボディイメージの構築に役立てられている。そのため位置覚を正確に評価することは重要であると考える。位置覚検査法は,対側肢の模倣による検査法が多く用いられている。この方法は,検査肢を検者が他動的に動かし,対側の模倣肢は対象者が自動的に動かすものである。そのため両側では筋収縮の有無による筋張力の差異が生じている可能性がある。このことが検査法の結果に影響を及ぼしているのではないかという疑問が生じる。そこで本研究の目的は,運動様式の違いによる位置覚検査結果の違いを知ることとする。
【方法】
対象は膝関節に整形外科的,神経学的疾患の既往のない男性13名,女性7名,計20名(年齢21.6±0.7歳)とした。位置覚検査部位は左膝関節とし,端座位で,設定角度まで膝関節伸展運動を行い,5秒間保持し記憶させた後,同側で再現する方法とした。設定時と再現時の膝伸展角度の誤差角度を測定し,運動様式による違いを比較した。膝関節の運動様式は,随意運動によって膝関節を伸展し棒に接触させるものを自動運動,検者が踵部に紐をかけて他動的に下腿を引き上げるものを他動運動とした。この時に筋収縮が起こらないよう検者は大腿部の視診と下腿の重みを確認しながら行った。設定角度は30°,45°,60°の3条件とし,設定角度に達するところで下腿が棒に接触する角度設定装置を用いた。再現方法は,角度設定装置の棒を外し,対象者に自動運動で設定角度を再現させるものとし,各3回行った。運動様式2条件(自動運動,他動運動)と設定角度の3条件(30°,45°,60°)を組み合わせた6パターン(自動30°,自動45°,自動60°,他動30°,他動45°,他動60°)の施行順序はすべてランダムとした。膝関節角度の測定方法は,左側の大転子,大腿骨外側上顆,外果のランドマークをビデオカメラで側方から撮影し,画像解析ソフトにて膝関節角度を測定した。誤差角度は設定時と再現時の膝関節角度の誤差の絶対値の平均値とした。対象者には,着座後にアイマスクと耳栓を着用させ視覚と聴覚情報を制限した。統計学的検定は,2要因に対応のある2元配置分散分析を用いて検定を行った。危険率は5%未満とした。
【結果】
設定角度と運動様式の組み合わせによる各6パターンの誤差角度は,自動30°:3.9°±2.7°(平均値±SD,以下同様),他動30°:5.9°±3.5°,自動45°:3.9°±2.9°,他動45°:8.3°±5.0°,自動60°:4.2°±3.1°,他動60°:7.0°±3.8°であった。各設定角度で自動運動と他動運動間の誤差角度に有意差が認められ(p<0.01),設定角度の記憶を他動運動によって行った場合は誤差角度が大きい傾向にあった。設定角度による有意差は認められなかった。設定角度と運動様式の2要因間に交互作用は認められなかった。
【考察】
位置覚の誤差は自動運動と他動運動で違いが認められ,設定角度の記憶を他動運動によって行った場合は誤差角度が大きい傾向にあった。また,設定角度は大腿四頭筋やハムストリングスの長さを変化させていると予想されるが,設定角度による誤差に有意差は認められなかったので,筋長の位置覚検査への影響は少なかったと考える。従って,筋張力の変化が位置覚に大きく関与している可能性があると示唆された。対側肢の模倣による検査法では,検査肢は他動運動,模倣肢は自動運動という運動様式の違いがあり,位置覚に差異が生じることが考えられる。筋緊張が減退している場合,筋の張りが失われ垂れ下がるようになる。そのため,常に適度な筋緊張を保ち,張りのある健常者の筋よりも,弛緩性麻痺などを呈している方は筋張力が低下している可能性がある。他動運動による筋張力の少ない条件下では,位置覚情報が低下する可能性が示唆された。そのため,筋緊張が減退している方の位置覚鈍麻に関して,上位中枢での障害による深部感覚障害だけでなく,末梢の筋の状態も関与している可能性が考えられ,これらを把握し検査結果の解釈をする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,運動様式の違いによって筋張力の差異が生じ,位置覚検査の結果に影響を及ぼすことが示唆され,筋緊張の減退した方の位置覚鈍麻の解釈の一助となり得ると考える。