[P3-A-0895] 足趾屈曲変形の発生機序に関する機能解剖学的考察
キーワード:ハンマー趾, 長趾屈筋, 短趾屈筋
【はじめに,目的】
虚弱高齢者は立位姿勢を保持する際,バランス能力の低下を代償するために足趾を屈曲し,床面を圧迫して姿勢制御を行っていることが報告されている。これにより,しばしば第2-5趾に近位趾節間(PIP)関節が屈曲位,遠位趾節間(DIP)関節が過伸展位のいわゆるハンマー趾を認めることがある。
今回,このハンマー趾の発生に,長趾屈筋(FDL)あるいは短趾屈筋(FDB)のどちらの活動が影響するかを確認するため,解剖実習体を用いてそれぞれの腱を牽引し,機能解剖学的に検討したので報告する。
【方法】
研究・教育用に供された解剖実習体5体を対象とし,両側の足趾部を剥皮後,第3趾を足根中足関節において離断した。FDL腱とFDB腱および中足趾節(MP)関節,PIP関節,DIP関節の関節包を温存し,それ以外の軟部組織を除去した。5体10趾のうち,DIP関節の可動性が欠如していた1趾を除く9趾を用いて分析を行った。
中足骨の近位部より髄腔内に挿入した直径3mmの鋼線を,器具に取り付け中足骨を固定した。バネばかりを用い0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfの力を加え,FDL腱とFDB腱をそれぞれ牽引した。この際,立位姿勢を想定して足趾底側面を台に接地した「接地条件」と,接地しない「非接地条件」で腱の牽引を行った。
MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度を計測するため,牽引時および非牽引時において,側面よりデジタルカメラを用いて撮影を行った。その画像をもとに画像処理ソフト「ImageJ(米国国立衛生研究所)」を用い,各関節の角度を計測した。関節角度は,非牽引時を基準(0°)とし,牽引時の角度変化を求めた。なお,屈曲方向への変化をプラス,伸展方向への変化をマイナスで表した。
【結果】
「非接地条件」においてFDL腱を0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfで牽引した場合,基準からの平均角度変化はMP関節では6.9°,22.9°,27.6°,31.8°,PIP関節では18.7°,25.8°,31.7°,34.8°,DIP関節では12.5°,15.4°,16.2°,17.8°であった。いずれの関節も牽引力の増加に伴い屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では16.9°,22.9°,27.4°,32.5°,PIP関節では13.7°,21.3°,26.3°,29.5°と屈曲角度が増大した。DIP関節では-0.4°,-1.2°,-1.6°,-2.2°とほとんど変化を認めなかった。
「接地条件」においてFDL腱を牽引した場合,MP関節では-2.2°,-4.3°,-5.3°,-6.7°とわずかに伸展した。PIP関節では7.7°,10.5°,12.9°,15.6°,DIP関節では7.9°,11.1°,13.8°13.9°と,ともに屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では1.6°,1.1°,1.1°,0.0°とほとんど変化を認めなかった。PIP関節では7.0°,10.9°,14.2°,14.1°と屈曲角度が増大し,DIP関節では-4.5°,-8.7°,-11.3°,-14.3°と伸展角度が増大した。
【考察】
虚弱高齢者で立位姿勢を保持する際にしばしば認めるハンマー趾は,足趾屈筋群の活動により足趾を床に圧しつけて姿勢制御を行っているためと考えられる。末節骨底部に付着するFDLの主要な作用は,DIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節やPIP関節の屈曲に関与する。中節骨底部に付着するFDBの主要な作用は,PIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節の屈曲に関与する。両筋とも,ハンマー趾の特徴であるDIP関節の伸展作用は有していない。しかしながら,足趾が床面に接地した「接地条件」においてFDB腱を牽引した場合,PIP関節の屈曲によって足趾先端部が床に固定される。さらにPIP関節の屈曲に伴う中節骨の傾斜によってDIP関節は受動的に伸展される。したがって虚弱高齢者のハンマー趾は,バランス能力の低下を代償するために,FDBの活動が過剰になっていることがその発生機序の一要因と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
足趾屈曲変形は,足趾の胼胝や鶏眼を生じ,疼痛の原因になり,歩行能力の低下や転倒のリスクを高めることが報告されている。こうした症例に対して理学療法を行う上では,足趾屈曲変形の原因を究明することが重要である。今回の研究では,ご遺体を用いたFDL腱とFDB腱の牽引実験により,足趾屈曲変形の一要因を解明することができた。
虚弱高齢者は立位姿勢を保持する際,バランス能力の低下を代償するために足趾を屈曲し,床面を圧迫して姿勢制御を行っていることが報告されている。これにより,しばしば第2-5趾に近位趾節間(PIP)関節が屈曲位,遠位趾節間(DIP)関節が過伸展位のいわゆるハンマー趾を認めることがある。
今回,このハンマー趾の発生に,長趾屈筋(FDL)あるいは短趾屈筋(FDB)のどちらの活動が影響するかを確認するため,解剖実習体を用いてそれぞれの腱を牽引し,機能解剖学的に検討したので報告する。
【方法】
研究・教育用に供された解剖実習体5体を対象とし,両側の足趾部を剥皮後,第3趾を足根中足関節において離断した。FDL腱とFDB腱および中足趾節(MP)関節,PIP関節,DIP関節の関節包を温存し,それ以外の軟部組織を除去した。5体10趾のうち,DIP関節の可動性が欠如していた1趾を除く9趾を用いて分析を行った。
中足骨の近位部より髄腔内に挿入した直径3mmの鋼線を,器具に取り付け中足骨を固定した。バネばかりを用い0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfの力を加え,FDL腱とFDB腱をそれぞれ牽引した。この際,立位姿勢を想定して足趾底側面を台に接地した「接地条件」と,接地しない「非接地条件」で腱の牽引を行った。
MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度を計測するため,牽引時および非牽引時において,側面よりデジタルカメラを用いて撮影を行った。その画像をもとに画像処理ソフト「ImageJ(米国国立衛生研究所)」を用い,各関節の角度を計測した。関節角度は,非牽引時を基準(0°)とし,牽引時の角度変化を求めた。なお,屈曲方向への変化をプラス,伸展方向への変化をマイナスで表した。
【結果】
「非接地条件」においてFDL腱を0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfで牽引した場合,基準からの平均角度変化はMP関節では6.9°,22.9°,27.6°,31.8°,PIP関節では18.7°,25.8°,31.7°,34.8°,DIP関節では12.5°,15.4°,16.2°,17.8°であった。いずれの関節も牽引力の増加に伴い屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では16.9°,22.9°,27.4°,32.5°,PIP関節では13.7°,21.3°,26.3°,29.5°と屈曲角度が増大した。DIP関節では-0.4°,-1.2°,-1.6°,-2.2°とほとんど変化を認めなかった。
「接地条件」においてFDL腱を牽引した場合,MP関節では-2.2°,-4.3°,-5.3°,-6.7°とわずかに伸展した。PIP関節では7.7°,10.5°,12.9°,15.6°,DIP関節では7.9°,11.1°,13.8°13.9°と,ともに屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では1.6°,1.1°,1.1°,0.0°とほとんど変化を認めなかった。PIP関節では7.0°,10.9°,14.2°,14.1°と屈曲角度が増大し,DIP関節では-4.5°,-8.7°,-11.3°,-14.3°と伸展角度が増大した。
【考察】
虚弱高齢者で立位姿勢を保持する際にしばしば認めるハンマー趾は,足趾屈筋群の活動により足趾を床に圧しつけて姿勢制御を行っているためと考えられる。末節骨底部に付着するFDLの主要な作用は,DIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節やPIP関節の屈曲に関与する。中節骨底部に付着するFDBの主要な作用は,PIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節の屈曲に関与する。両筋とも,ハンマー趾の特徴であるDIP関節の伸展作用は有していない。しかしながら,足趾が床面に接地した「接地条件」においてFDB腱を牽引した場合,PIP関節の屈曲によって足趾先端部が床に固定される。さらにPIP関節の屈曲に伴う中節骨の傾斜によってDIP関節は受動的に伸展される。したがって虚弱高齢者のハンマー趾は,バランス能力の低下を代償するために,FDBの活動が過剰になっていることがその発生機序の一要因と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
足趾屈曲変形は,足趾の胼胝や鶏眼を生じ,疼痛の原因になり,歩行能力の低下や転倒のリスクを高めることが報告されている。こうした症例に対して理学療法を行う上では,足趾屈曲変形の原因を究明することが重要である。今回の研究では,ご遺体を用いたFDL腱とFDB腱の牽引実験により,足趾屈曲変形の一要因を解明することができた。