[P3-A-0901] 膝痛の局在部位の違いが痛覚過敏に及ぼす影響
キーワード:膝関節, 疼痛, 痛覚過敏
【目的】
変形性膝関節症患者の主訴の多くは「膝の痛み」である。臨床で遭遇する頻度が高いのは膝内側に比較的限局した痛みであるが,前面や外側,膝窩部に痛みを有する患者も存在する。一般的にこれらは「膝の痛み」として画一的に治療されることが多いが,痛みの局在部位の違いが痛覚過敏,さらには治療アウトカムにどの程度影響するかは不明である。本研究の目的は,膝痛の局在部位の違いが痛覚過敏に及ぼす影響を,ヒト実験的膝痛モデルを用いて明らかにすることである。
【方法】
健常成人男性6名(26±2歳)を対象に,1mEq/mlの高張食塩水(0.5ml)の膝周囲組織への注射によって膝内側痛モデル(MP)と膝外側痛モデル(LP)を作製した。MPは内側側副靭帯の脛骨付着部に,LPは腸脛靭帯の脛骨付着部に注射した。コントロールとして対側膝の同部位に等張食塩水の注射も行った。1被験者に対して2セッション(内側痛,外側痛)の実験を行った。注射による痛みの強さを100mmのvisual analogue scale(VAS)で経時的にモニタリングし,痛みの分布範囲も調査した。内側関節裂隙(MJS),外側関節裂隙(LJS),内側脛骨高原(MTP),外側脛骨高原(LTP)と前脛骨筋,長橈側手根伸筋の圧痛閾値(pressure pain threshold:PPT)をアルゴメーターを用いて測定した。PPTは注射前(ベースライン),注射直後,痛み消失後において注射側で3回測定しその平均値を検査値とした。
【結果】
高張食塩水注射によるVASのピーク値はMP 93.3±0.6mm(平均±標準偏差),LP 81.2±2.2mmであり,いずれもコントロールより有意に高値であった(p<0.05)。痛みの分布はMPが注射部位周囲の膝内側に限局したのに対し,LPは注射部位から下腿へ放散する傾向がみられた。コントロールでは注射部位のみの痛みを認めた。PPTに関して,MPでは,膝全体に及ぶ痛覚過敏を認めた(ベースライン/注射直後:MJS 357±229/148±61kPa,MTP 345±213/166±71kPa,LJS 394±205/273±197kPa,LTP 397±217/269±168kPa,p<0.05)。一方,LPでは膝外側に限局する痛覚過敏を認め(LJS 409±270/223±134kPa,LTP 426±252/246±147kPa,p<0.05),膝内側では圧痛閾値の低下を認めなかった(MJS 357±225/378±273kPa,MTP 277±206/355±269kPa)。前脛骨筋,長橈側手根伸筋の圧痛閾値はMP,LPともに変化がなかった。また,ベースラインの比較においてMJS・MTPはLJS・LTPに比べ有意に圧痛閾値が低かった(p<0.05)。
【考察】
PPTのベースラインは膝内側が外側よりも低かった。このことは内側が外側よりも同じ刺激に対して痛みを感じやすいことを意味し,内側の高張食塩水注射による痛みVASが外側よりも高いことと関係していると思われた。また,本実験ではMPとLPによる痛みそのものの拡がりと痛覚過敏の拡がりに解離が見られた。すなわち,高張食塩水注射による痛みそのものの拡がりはLPが大きく,痛覚過敏の拡がりはMPの方が大きかった。この両者の拡がりには中枢感作が関与していると考えられているが,痛みそのものの拡がりには注射部位の末梢神経支配や投射される脊髄髄節レベルが異なる(MP:L2-L4,LP:L4-S2)ことが関係している可能性がある。一方,痛覚過敏の拡がりに関しては,MPにおけるより強い侵害入力が脊髄後角より上位のレベルでより強い感作を引き起こした結果であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ヒト実験的疼痛モデルを用いた研究では,臨床研究のように個々の患者のバイアスに左右されずに,痛みそのものが感覚や運動系に及ぼす影響を的確に調査することができる。本研究では,膝痛の局在部位の違いが痛覚過敏に及ぼす影響の一部を明らかにすることができた。膝痛を有する患者のROMエクササイズや筋力トレーニングを行う際に,痛みの局在部位を詳細に問診し,そこに潜む痛覚過敏の程度や拡がりを念頭に置いておくことで,これまでにない一歩進んだ理学療法が可能になると考えている。
変形性膝関節症患者の主訴の多くは「膝の痛み」である。臨床で遭遇する頻度が高いのは膝内側に比較的限局した痛みであるが,前面や外側,膝窩部に痛みを有する患者も存在する。一般的にこれらは「膝の痛み」として画一的に治療されることが多いが,痛みの局在部位の違いが痛覚過敏,さらには治療アウトカムにどの程度影響するかは不明である。本研究の目的は,膝痛の局在部位の違いが痛覚過敏に及ぼす影響を,ヒト実験的膝痛モデルを用いて明らかにすることである。
【方法】
健常成人男性6名(26±2歳)を対象に,1mEq/mlの高張食塩水(0.5ml)の膝周囲組織への注射によって膝内側痛モデル(MP)と膝外側痛モデル(LP)を作製した。MPは内側側副靭帯の脛骨付着部に,LPは腸脛靭帯の脛骨付着部に注射した。コントロールとして対側膝の同部位に等張食塩水の注射も行った。1被験者に対して2セッション(内側痛,外側痛)の実験を行った。注射による痛みの強さを100mmのvisual analogue scale(VAS)で経時的にモニタリングし,痛みの分布範囲も調査した。内側関節裂隙(MJS),外側関節裂隙(LJS),内側脛骨高原(MTP),外側脛骨高原(LTP)と前脛骨筋,長橈側手根伸筋の圧痛閾値(pressure pain threshold:PPT)をアルゴメーターを用いて測定した。PPTは注射前(ベースライン),注射直後,痛み消失後において注射側で3回測定しその平均値を検査値とした。
【結果】
高張食塩水注射によるVASのピーク値はMP 93.3±0.6mm(平均±標準偏差),LP 81.2±2.2mmであり,いずれもコントロールより有意に高値であった(p<0.05)。痛みの分布はMPが注射部位周囲の膝内側に限局したのに対し,LPは注射部位から下腿へ放散する傾向がみられた。コントロールでは注射部位のみの痛みを認めた。PPTに関して,MPでは,膝全体に及ぶ痛覚過敏を認めた(ベースライン/注射直後:MJS 357±229/148±61kPa,MTP 345±213/166±71kPa,LJS 394±205/273±197kPa,LTP 397±217/269±168kPa,p<0.05)。一方,LPでは膝外側に限局する痛覚過敏を認め(LJS 409±270/223±134kPa,LTP 426±252/246±147kPa,p<0.05),膝内側では圧痛閾値の低下を認めなかった(MJS 357±225/378±273kPa,MTP 277±206/355±269kPa)。前脛骨筋,長橈側手根伸筋の圧痛閾値はMP,LPともに変化がなかった。また,ベースラインの比較においてMJS・MTPはLJS・LTPに比べ有意に圧痛閾値が低かった(p<0.05)。
【考察】
PPTのベースラインは膝内側が外側よりも低かった。このことは内側が外側よりも同じ刺激に対して痛みを感じやすいことを意味し,内側の高張食塩水注射による痛みVASが外側よりも高いことと関係していると思われた。また,本実験ではMPとLPによる痛みそのものの拡がりと痛覚過敏の拡がりに解離が見られた。すなわち,高張食塩水注射による痛みそのものの拡がりはLPが大きく,痛覚過敏の拡がりはMPの方が大きかった。この両者の拡がりには中枢感作が関与していると考えられているが,痛みそのものの拡がりには注射部位の末梢神経支配や投射される脊髄髄節レベルが異なる(MP:L2-L4,LP:L4-S2)ことが関係している可能性がある。一方,痛覚過敏の拡がりに関しては,MPにおけるより強い侵害入力が脊髄後角より上位のレベルでより強い感作を引き起こした結果であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ヒト実験的疼痛モデルを用いた研究では,臨床研究のように個々の患者のバイアスに左右されずに,痛みそのものが感覚や運動系に及ぼす影響を的確に調査することができる。本研究では,膝痛の局在部位の違いが痛覚過敏に及ぼす影響の一部を明らかにすることができた。膝痛を有する患者のROMエクササイズや筋力トレーニングを行う際に,痛みの局在部位を詳細に問診し,そこに潜む痛覚過敏の程度や拡がりを念頭に置いておくことで,これまでにない一歩進んだ理学療法が可能になると考えている。