[P3-A-0905] ラット膝関節拘縮モデルおける坐骨神経周囲組織の病態の免疫組織化学的検討
キーワード:ラット, 神経周囲腔, 拘縮
【はじめに,目的】関節可動域制限の原因の一つとして神経系の可動性や柔軟性の低下が関与していることが考えられており,我々は先行研究(吉田ら,2009)においてラット膝関節拘縮モデルの坐骨神経における神経周膜の肥厚および神経束と神経周膜の密着(神経周囲腔の消失)を報告し,これが神経の滑走を妨げている可能性を示した。しかし,この密着が何らかの接着因子の発現によるものなのか,それとも神経周膜の収縮などによる物理的な要因によるものなのか,あるいはそれ以外の未知の要因によるものなのかは不明である。そこで今回,ラット膝関節拘縮モデルを作製し拘縮時の坐骨神経周囲組織の変化および関節可動域運動(以下,ROM-e)がそれに与える影響について免疫組織化学的に検討することを目的に実験を行った。
【方法】対象には9週齢のWistar系雄ラットを用い,それを無作為にコントロール群,拘縮群,運動群の3群に分けた。拘縮群および運動群は麻酔後,右膝関節をキルシュナー鋼線と長ねじを使用した創外固定を用いて膝関節屈曲120°にて不動化した。この際,股関節,足関節に影響が及ばないように留意し,ラットはケージ内を自由に移動,水,餌は自由に摂取可能とした。拘縮群は不動化を2週間継続した。運動群は不動化処置の翌日よりイソフルランを用いた吸入麻酔により麻酔下で膝関節に対し2週間ROM-exを行い,ROM-ex時以外の期間は不動化を維持した。ROM-exは膝関節屈曲位を5秒間保持し,次にバネばかりを使用して右後肢を坐骨神経に伸張ストレスが加わるように体幹より120°腹頭側方向へ約1Nで牽引し5秒間保持する運動を3分間繰り返した。ROM-exは1日1回,週6回,2週間施行した。コントロール群は2週間の自由飼育とした。全群ともに実験期間終了後にジエチルエーテルにて安楽死させ,可及的速やかに右後肢を股関節より離断し標本を採取した。採取した下肢は10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定を行い,次いで脱灰液を用いて脱灰を4℃にて72時間行った。その後,大腿骨の長軸方向に平行な面で切断し大腿部断面標本を採取した。5%硫酸ナトリウム溶液で72時間の中,和後,パラフィン包埋して組織標本を作製した。作製したパラフィンブロックをミクロトームにて約3μmにて薄切した。薄切した組織切片はスライドガラスに貼付し,乾燥後に一般染色としてヘマトキシリン・エオジン染色を行い,それに加え免疫染色も行った。免疫染色では内因性ペルオキシダーゼのブロッキングには過酸化水素含有メタノール溶液を用い,一次抗体にはラミニンを用い,発色基質液にはDABを使用した。観察部位は坐骨神経周囲組織の長軸方向に平行な断面とし,光学顕微鏡下に病理組織学的に観察した。
【結果】免疫組織化学的所見では,全群において神経周膜はラミニンが陽性であったが,拘縮群では他の群と比較して染色性の低下を認めた。
【考察】本研究の免疫染色で用いた抗体のラミニンは基底膜構成成分の一つであり,それを用いた染色は神経周膜の基底膜を染色する。今回,拘縮群でその染色性が低下していたことは,関節固定により神経周膜が正常とは逸脱した状態となりラミニンが減少した可能性があると考えられる。一方,運動群においてその染色性がコントロール群と同等であったことは,ROM-exによる運動刺激により神経周膜の基本的環境が維持された可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】関節拘縮は臨床場面において理学療法の治療対象となる頻度の高い病態である。しかし,関節拘縮が生じた際の神経周囲組織にどのような変化が生じているかは不明な点が多い。病理組織学的に観察・検討し,より詳細な病態を明らかにするとともに,ROM-ex等の治療効果についてのエビデンスを与えうるものと考えられる。
【方法】対象には9週齢のWistar系雄ラットを用い,それを無作為にコントロール群,拘縮群,運動群の3群に分けた。拘縮群および運動群は麻酔後,右膝関節をキルシュナー鋼線と長ねじを使用した創外固定を用いて膝関節屈曲120°にて不動化した。この際,股関節,足関節に影響が及ばないように留意し,ラットはケージ内を自由に移動,水,餌は自由に摂取可能とした。拘縮群は不動化を2週間継続した。運動群は不動化処置の翌日よりイソフルランを用いた吸入麻酔により麻酔下で膝関節に対し2週間ROM-exを行い,ROM-ex時以外の期間は不動化を維持した。ROM-exは膝関節屈曲位を5秒間保持し,次にバネばかりを使用して右後肢を坐骨神経に伸張ストレスが加わるように体幹より120°腹頭側方向へ約1Nで牽引し5秒間保持する運動を3分間繰り返した。ROM-exは1日1回,週6回,2週間施行した。コントロール群は2週間の自由飼育とした。全群ともに実験期間終了後にジエチルエーテルにて安楽死させ,可及的速やかに右後肢を股関節より離断し標本を採取した。採取した下肢は10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定を行い,次いで脱灰液を用いて脱灰を4℃にて72時間行った。その後,大腿骨の長軸方向に平行な面で切断し大腿部断面標本を採取した。5%硫酸ナトリウム溶液で72時間の中,和後,パラフィン包埋して組織標本を作製した。作製したパラフィンブロックをミクロトームにて約3μmにて薄切した。薄切した組織切片はスライドガラスに貼付し,乾燥後に一般染色としてヘマトキシリン・エオジン染色を行い,それに加え免疫染色も行った。免疫染色では内因性ペルオキシダーゼのブロッキングには過酸化水素含有メタノール溶液を用い,一次抗体にはラミニンを用い,発色基質液にはDABを使用した。観察部位は坐骨神経周囲組織の長軸方向に平行な断面とし,光学顕微鏡下に病理組織学的に観察した。
【結果】免疫組織化学的所見では,全群において神経周膜はラミニンが陽性であったが,拘縮群では他の群と比較して染色性の低下を認めた。
【考察】本研究の免疫染色で用いた抗体のラミニンは基底膜構成成分の一つであり,それを用いた染色は神経周膜の基底膜を染色する。今回,拘縮群でその染色性が低下していたことは,関節固定により神経周膜が正常とは逸脱した状態となりラミニンが減少した可能性があると考えられる。一方,運動群においてその染色性がコントロール群と同等であったことは,ROM-exによる運動刺激により神経周膜の基本的環境が維持された可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】関節拘縮は臨床場面において理学療法の治療対象となる頻度の高い病態である。しかし,関節拘縮が生じた際の神経周囲組織にどのような変化が生じているかは不明な点が多い。病理組織学的に観察・検討し,より詳細な病態を明らかにするとともに,ROM-ex等の治療効果についてのエビデンスを与えうるものと考えられる。