[P3-A-0908] 非荷重と1日4時間以下の関節不動が関節拘縮の発生におよぼす影響
―ラットを用いた実験的研究―
Keywords:拘縮, 関節固定, 後肢懸垂
【はじめに,目的】廃用症候群は,不活動によって生じる障害であり,その症状の1つが関節拘縮である。関節拘縮は,日常生活に支障をきたすことが報告されている。関節拘縮に関する動物実験の報告は多く,関節固定法を用いたものである。関節拘縮は,1日8時間の関節固定を1週間実施した際に生じるが,1日4時間の関節固定を実施した場合,生じないことが報告されている。また,下肢への非荷重は,不活動を生じ,関節拘縮の原因となる可能性がある。下肢への非荷重を再現した動物実験モデルは,後肢懸垂法である。我々は,過去の研究において,関節固定と後肢懸垂を組み合わせて実施した際に生じた関節拘縮が,関節固定を単独で実施した場合と比較して著明であったことを明らかにした。このことから,後肢懸垂と1日4時間以下の関節固定を組み合わせて実施した場合,関節拘縮が発生する可能性がある。しかし,後肢懸垂と1日4時間以下の関節固定を組み合わせた場合,関節拘縮を生じるのかどうか不明である。そこで,本研究の目的は,後肢懸垂と1日4時間以下の関節固定を実施した場合,関節拘縮が発生するのかを明らかにすることとした。
【方法】対象は,8週齢のWistar系雌ラット16匹である。実験期間は1週間である。すべてのラットは,後肢懸垂を実施し,右後肢には1日2時間もしくは1日4時間の関節固定を施行した。群分けは,1日2時間の関節固定を実施した7匹を2時間固定群,1日4時間の関節固定を実施した9匹を4時間固定群とした。評価項目は,足関節背屈角度とした。すべての処置は,麻酔下にて行った。後肢懸垂は,直径1.0mmのキルシュナー鋼線を用いてラットの尾部近位に刺入し,ナスカンフックを介して,飼育ケージの天井に取り付けることで行った。関節固定は,テーピングテープを用いて右足関節最大底屈位とした。関節固定の部位は,大腿部から前足部までとした。関節可動域測定は,足関節背屈角度を測定した。基本軸は腓骨頭と外果を結ぶ直線,移動軸は踵骨底面とした。背屈力は,デジタルテンションメーターを用いて0.3Nとした。足関節背屈角度は,デジタルカメラを用いて撮影し,Scion Imageを用いて3回測定し,その平均値を測定値とした。関節可動域の測定時期は,実験開始前日(以下,実験開始前),開始1週間後(以下,1週間後)とした。実験開始前と1週間後の各群の足関節背屈角度の比較のための統計手法は,対応のあるt検定を実施した。なお,すべての統計手法は危険率5%未満をもって有意差ありと判定した。
【結果】足関節背屈角度(平均値±標準偏差)を示す。2時間固定群は,実験開始前138.0±1.6°,1週間後137.5±1.9°であった。4時間固定群は,実験開始前136.3±1.6°,1週間後133.2±6.2°であった。各群において,有意な経時的変化はなかった。実験期間中のラットを観察した結果,ラットは,後肢が床敷の盛り上がった部分に接地したり,ケージの天井にしがみつき,後肢を使用することがあった。
【考察】関節拘縮は固定開始1週間で生じるが,1日4時間の関節固定を1週間実施した場合,発生しないことが明らかにされている。我々は過去の研究において,関節拘縮の発生は,関節固定と比較して,非荷重に関節固定を加えた方が著明であったことを明らかにした。また,固定2週間以内の関節拘縮の主な原因部位は,骨格筋であることが明らかにされている。一方,後肢懸垂を施行した場合,後肢の筋活動は減少することが報告されている。これにより,後肢懸垂は不活動を生じ,関節拘縮の発生原因となることが推測される。しかし,本研究において,後肢懸垂と1日2時間もしくは1日4時間の関節固定を1週間実施した場合,関節拘縮は発生しなかったことが明らかになった。関節拘縮は,固定期間の延長に伴い,増悪することが明らかにされている。そのため,実験期間を延長すれば,関節拘縮は発生する可能性があると推測される。また,実験期間中のラットの観察結果から,ラットは後肢の非荷重を維持していなかった可能性があると考えられる。今後は後肢懸垂の方法の改良が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】関節拘縮は固定期間が同様であれば,非荷重によって悪化し,発生がより早くなる可能性があることが推測される。そのため,関節拘縮の予防のためには,関節の不動時間を4時間以下にする必要があると考える。
【方法】対象は,8週齢のWistar系雌ラット16匹である。実験期間は1週間である。すべてのラットは,後肢懸垂を実施し,右後肢には1日2時間もしくは1日4時間の関節固定を施行した。群分けは,1日2時間の関節固定を実施した7匹を2時間固定群,1日4時間の関節固定を実施した9匹を4時間固定群とした。評価項目は,足関節背屈角度とした。すべての処置は,麻酔下にて行った。後肢懸垂は,直径1.0mmのキルシュナー鋼線を用いてラットの尾部近位に刺入し,ナスカンフックを介して,飼育ケージの天井に取り付けることで行った。関節固定は,テーピングテープを用いて右足関節最大底屈位とした。関節固定の部位は,大腿部から前足部までとした。関節可動域測定は,足関節背屈角度を測定した。基本軸は腓骨頭と外果を結ぶ直線,移動軸は踵骨底面とした。背屈力は,デジタルテンションメーターを用いて0.3Nとした。足関節背屈角度は,デジタルカメラを用いて撮影し,Scion Imageを用いて3回測定し,その平均値を測定値とした。関節可動域の測定時期は,実験開始前日(以下,実験開始前),開始1週間後(以下,1週間後)とした。実験開始前と1週間後の各群の足関節背屈角度の比較のための統計手法は,対応のあるt検定を実施した。なお,すべての統計手法は危険率5%未満をもって有意差ありと判定した。
【結果】足関節背屈角度(平均値±標準偏差)を示す。2時間固定群は,実験開始前138.0±1.6°,1週間後137.5±1.9°であった。4時間固定群は,実験開始前136.3±1.6°,1週間後133.2±6.2°であった。各群において,有意な経時的変化はなかった。実験期間中のラットを観察した結果,ラットは,後肢が床敷の盛り上がった部分に接地したり,ケージの天井にしがみつき,後肢を使用することがあった。
【考察】関節拘縮は固定開始1週間で生じるが,1日4時間の関節固定を1週間実施した場合,発生しないことが明らかにされている。我々は過去の研究において,関節拘縮の発生は,関節固定と比較して,非荷重に関節固定を加えた方が著明であったことを明らかにした。また,固定2週間以内の関節拘縮の主な原因部位は,骨格筋であることが明らかにされている。一方,後肢懸垂を施行した場合,後肢の筋活動は減少することが報告されている。これにより,後肢懸垂は不活動を生じ,関節拘縮の発生原因となることが推測される。しかし,本研究において,後肢懸垂と1日2時間もしくは1日4時間の関節固定を1週間実施した場合,関節拘縮は発生しなかったことが明らかになった。関節拘縮は,固定期間の延長に伴い,増悪することが明らかにされている。そのため,実験期間を延長すれば,関節拘縮は発生する可能性があると推測される。また,実験期間中のラットの観察結果から,ラットは後肢の非荷重を維持していなかった可能性があると考えられる。今後は後肢懸垂の方法の改良が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】関節拘縮は固定期間が同様であれば,非荷重によって悪化し,発生がより早くなる可能性があることが推測される。そのため,関節拘縮の予防のためには,関節の不動時間を4時間以下にする必要があると考える。