第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学2

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0911] 睡眠時における膝関節最長不動時間に関する研究

―健常成人女性における検討―

相原一貴1,4, 小野武也1,2, 石倉英樹1, 佐藤勇太1, 松本智博1, 西野かれん2, 田坂厚志3, 沖貞明2, 梅井凡子2, 積山和加子2, 大塚彰2, 松下和太郎4 (1.県立広島大学大学院総合学術研究科, 2.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 3.大阪行岡医療大学医療学部理学療法学科, 4.医療法人社団正和会松下クリニック)

キーワード:拘縮, 関節不動時間, 関節可動域

【はじめに,目的】関節拘縮とは関節の可動域が減少した状態であり,日常生活動作に支障をきたすため予防が重要である。そのため臨床現場では,早期より関節可動域訓練やストレッチングを行い関節拘縮の予防に努めている。関節拘縮の予防に関する動物実験では,1日4時間の関節固定を1週間継続した場合,関節拘縮は発生しないが1日8時間の関節固定を1週間継続すると関節拘縮が発生することが報告されている。一方で我々は過去の研究で,関節固定に非荷重を再現する後肢懸垂を組み合わせると1日4時間の関節固定でも1週間で関節拘縮が発生することを明らかにした。ヒトに置き換えると,睡眠時の下肢関節は関節運動が減少し,さらに関節に対し垂直方向にかかる重力は非荷重となっているため,先行研究の動物モデルに近い状態と考えることができる。しかし,健常者であれば日々の睡眠により関節拘縮が発生することは少ない。そのため,ヒトは睡眠中に4時間以上関節が不動となってないことが予測できるが,実際に明らかした報告はない。そこで今回は膝関節に着目し,ヒトの膝関節は睡眠時に4時間以上も不動にはならないと仮説を立て検証を行った。
【方法】対象は下肢に整形外科系疾患の既往がない健常成人女性12名(年齢21~22歳)である。測定にはPenny&Giles社製の電気角度計MX180(Flexible-Electrogoniometer:FEG)を用いた。FEGは,遠位ブロックと近位ブロック及びそれらを結ぶ中間コードから構成されており,両ブロックの傾きの変化を電気抵抗変化として検出する機器である。FEGからの信号は,サンプリング周波数10Hzで携帯型記録装置(Mega Electronics社製)に取り込み,波形解析ソフトを用いて処理を行った。FEGは右膝関節に取り付けた。取り付け方法は,まず被験者に布製弾性サポーターを装着させ,膝関節を完全伸展位とさせた。そしてサポーターの上から,遠位ブロックは腓骨頭と外果を結ぶ直線上に,近位ブロックは大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上に位置するようガムテープで固定し装着した。関節運動の測定は被験者の睡眠中とし,測定の開始と終了は被験者自身が就寝時と起床時に測定スイッチを押すことで実施した。関節運動のデータから,最長関節不動時間と相対的割合,睡眠時膝関節最大伸展角度および屈曲角度を測定した。最長関節不動時間は,1秒間に5°以上角度変化がない状態が継続した時間とした。また相対的割合は膝関節運動範囲を屈曲0°~30°,31°~60°,61°~90°,91°以上の4つに分け,睡眠時間に対するそれぞれの範囲を占める時間の割合で示した。
【結果】睡眠時における最長関節不動時間は最短約40分,最長約120分であり,平均は約60分であった。相対的割合は,0°~30°が50.5%と高い傾向にあったが,それ以降の割合に大差は見られなかった。また,睡眠時最大伸展角度の平均は5.6±8.3°,屈曲角度の平均は114±10.5°であった。
【考察】非荷重と4時間の関節固定を組み合わせ関節拘縮が発生した動物実験と比較すると,本研究での最長関節不動時間は最長2時間であり先行研究よりも短く,さらに睡眠時の膝関節運動は軽度屈曲位から深屈曲位の全範囲に占める時間があることも確認されている。この最長関節不動時間が4時間以下であることや睡眠中に広範囲における関節運動が生じていることが睡眠時健常成人において関節拘縮発生する可能性が低い要因の1つではないかと推測する。また本研究結果より,関節拘縮予防に関しては,1日に必要な運動時間を考えるという観点だけでなく,一定以上の関節不動時間を作らないという観点からも検討する必要性を示唆していると考える。このような観点で高齢者や寝たきり患者など,関節拘縮を引き起こすリスクが高い人の関節不動時間の検証や,健常者との比較を実施し,その結果を臨床に反映させていきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】今回健常成人から得られた睡眠中の膝関節運動のデータは,今後寝たきり傾向の患者との比較を行う際の基準となることが推測できる。またこのような比較から,ヒトにおける関節不動時間と関節拘縮発生の関係性や,関節拘縮予防のための運動量を決定する場合の目安になる可能性があると推測する。