[P3-A-0914] 脳梗塞発症前トレッドミル運動による神経保護作用と神経栄養因子の発現
Keywords:脳梗塞ラット, トレッドミル運動, 神経栄養因子
【はじめに,目的】
脳梗塞に対する身体運動トレーニングは神経発生の増加,神経損傷の減少,記憶の改善などを生じることが報告されている。しかし,運動強度の違いによる神経保護作用や神経栄養因子の発現動態に関してはよく分かっていない。そこで,脳梗塞発症前の低強度と高強度の2種類のトレッドミル運動が脳神経保護作用や神経栄養因子Brain-derived neurotrophic facter(BDNF)とmidkine(MK)の発現に与える影響を調べた。
【方法】
実験動物には7週齢のSprague-Dawley(SD)系雌性ラット51匹(平均体重280.1±44.9g)を用いた。無作為に,低強度運動群(n=17),高強度運動群(n=17),非運動群(n=17)に分けた。非運動群の内6匹は脳梗塞を作成せず無処置のまま正常コントロールとした。低強度運動群は速度を15m/min,高強度運動群は25m/minに設定してトレッドミル運動(30分/日,5回/週)を3週間行った。非運動群は飼育ケージ内で3週間自由飼育した。3週間後,小泉の方法に準じて左内頚動脈から糸を挿入し,60分間の虚血と再灌流により脳梗塞モデルを作製した。今回の運動がラットにとってどの程度のストレスになっているかを知るために,運動後に採血を行いストレス指標として血中コルチゾール濃度を測定した。脳梗塞作成2日後に,神経学的評価としてNeurological Score(NS),運動-感覚機能評価として,歩行時のバランス能力を評価するBeam Walking test(BW),バランスと耐久性を見るRota Rod(RR)テスト,前肢の感覚運動機能評価として麻痺側と非麻痺側でテープテスト(Michelらの変法)を行った。評価終了後に脳を採取して,TTC染色を行い,Scion Image Softwareを使用して脳梗塞巣の体積を測定した。また,組織学的な評価としてHE染色や神経栄養因子であるBDNFとMKの免疫組織化学染色を行い,運動群と非運動群において損傷周囲に発現している神経栄養因子の発現量を定量化した。統計学的検定は一元配置分散分析後,多重比較を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
脳梗塞作成後,神経学的評価や運動-感覚機能評価は正常コントロールと比較して有意に低下した(p<0.01)。NSやRRは運動群と非運動群に有意な違いは見られなかった。運動群のBWテストは非運動群と比較して有意に高値であった(p<0.05)が,運動群間による違いは見られなかった。テープテストは,右前肢の反応時間が左前肢より有意に長く,反応が鈍くなっていた。また,非運動群と比較して両運動群の反応時間が短かった。脳梗塞巣の体積は非運動群と比べて運動群が有意に小さかった(p<0.05)が,運動群間に有意差を認めなかった。免疫組織学的所見より,運動群のBDNF発現量は非運動群と比べて有意に増加していた(p<0.05)が,運動群間による違いは見られなかった。正常コントロール脳ではMKの発現は観察されなかったが,運動群,非運動群ともに脳梗塞周辺部に発現が観察された。非運動群と比較して運動群ではMKの発現量が増加しており,高強度運動群では有意に発現量が増加していた(p<0.05)。血中コルチゾール濃度は非運動群と運動群の間で有意な違いは見られなかった。
【考察】
本研究では運動強度の違いが脳梗塞後の神経保護効果や神経栄養因子の発現に影響を及ぼすかどうかを検討したが,運動強度による明らかな違いは観察されなかった。しかしながら,脳梗塞前の3週間の定期的な運動を行うことで脳梗塞巣の縮小効果,運動機能向上,BDNFやMK発現を促進することが示された。特に,定期的な運動により脳梗塞後のMKの発現が増加されるかどうかについてはよく分かっておらず,今回の結果は定期的な運動により脳梗塞後のMKの発現を増加させることが示唆された。今回の運動強度はラットにとってストレスではなく,高強度運動群でMKの発現が有意に増加したはっきりした要因は分からない。今後,ストレスとの関係についてもさらに検討が必要である。BDNFやMKは神経細胞の成長や生存,シナプス機能亢進などの役割を持つ。今回の結果は,定期的な運動が神経栄養因子の発現増加を促進し,脳梗塞巣の縮小効果や機能改善に働いている可能性を示唆した。今後,運動による神経保護のメカニズムをさらに検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,運動の強度に関係なく,脳梗塞発症前に継続した運動を行うことで,神経栄養因子であるBDNFやMKの発現量が増加し,神経保護作用に作用していることを示した。この結果は予防医学分野における理学療法効果のメカニズムの解明に貢献できると考えられる。
脳梗塞に対する身体運動トレーニングは神経発生の増加,神経損傷の減少,記憶の改善などを生じることが報告されている。しかし,運動強度の違いによる神経保護作用や神経栄養因子の発現動態に関してはよく分かっていない。そこで,脳梗塞発症前の低強度と高強度の2種類のトレッドミル運動が脳神経保護作用や神経栄養因子Brain-derived neurotrophic facter(BDNF)とmidkine(MK)の発現に与える影響を調べた。
【方法】
実験動物には7週齢のSprague-Dawley(SD)系雌性ラット51匹(平均体重280.1±44.9g)を用いた。無作為に,低強度運動群(n=17),高強度運動群(n=17),非運動群(n=17)に分けた。非運動群の内6匹は脳梗塞を作成せず無処置のまま正常コントロールとした。低強度運動群は速度を15m/min,高強度運動群は25m/minに設定してトレッドミル運動(30分/日,5回/週)を3週間行った。非運動群は飼育ケージ内で3週間自由飼育した。3週間後,小泉の方法に準じて左内頚動脈から糸を挿入し,60分間の虚血と再灌流により脳梗塞モデルを作製した。今回の運動がラットにとってどの程度のストレスになっているかを知るために,運動後に採血を行いストレス指標として血中コルチゾール濃度を測定した。脳梗塞作成2日後に,神経学的評価としてNeurological Score(NS),運動-感覚機能評価として,歩行時のバランス能力を評価するBeam Walking test(BW),バランスと耐久性を見るRota Rod(RR)テスト,前肢の感覚運動機能評価として麻痺側と非麻痺側でテープテスト(Michelらの変法)を行った。評価終了後に脳を採取して,TTC染色を行い,Scion Image Softwareを使用して脳梗塞巣の体積を測定した。また,組織学的な評価としてHE染色や神経栄養因子であるBDNFとMKの免疫組織化学染色を行い,運動群と非運動群において損傷周囲に発現している神経栄養因子の発現量を定量化した。統計学的検定は一元配置分散分析後,多重比較を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
脳梗塞作成後,神経学的評価や運動-感覚機能評価は正常コントロールと比較して有意に低下した(p<0.01)。NSやRRは運動群と非運動群に有意な違いは見られなかった。運動群のBWテストは非運動群と比較して有意に高値であった(p<0.05)が,運動群間による違いは見られなかった。テープテストは,右前肢の反応時間が左前肢より有意に長く,反応が鈍くなっていた。また,非運動群と比較して両運動群の反応時間が短かった。脳梗塞巣の体積は非運動群と比べて運動群が有意に小さかった(p<0.05)が,運動群間に有意差を認めなかった。免疫組織学的所見より,運動群のBDNF発現量は非運動群と比べて有意に増加していた(p<0.05)が,運動群間による違いは見られなかった。正常コントロール脳ではMKの発現は観察されなかったが,運動群,非運動群ともに脳梗塞周辺部に発現が観察された。非運動群と比較して運動群ではMKの発現量が増加しており,高強度運動群では有意に発現量が増加していた(p<0.05)。血中コルチゾール濃度は非運動群と運動群の間で有意な違いは見られなかった。
【考察】
本研究では運動強度の違いが脳梗塞後の神経保護効果や神経栄養因子の発現に影響を及ぼすかどうかを検討したが,運動強度による明らかな違いは観察されなかった。しかしながら,脳梗塞前の3週間の定期的な運動を行うことで脳梗塞巣の縮小効果,運動機能向上,BDNFやMK発現を促進することが示された。特に,定期的な運動により脳梗塞後のMKの発現が増加されるかどうかについてはよく分かっておらず,今回の結果は定期的な運動により脳梗塞後のMKの発現を増加させることが示唆された。今回の運動強度はラットにとってストレスではなく,高強度運動群でMKの発現が有意に増加したはっきりした要因は分からない。今後,ストレスとの関係についてもさらに検討が必要である。BDNFやMKは神経細胞の成長や生存,シナプス機能亢進などの役割を持つ。今回の結果は,定期的な運動が神経栄養因子の発現増加を促進し,脳梗塞巣の縮小効果や機能改善に働いている可能性を示唆した。今後,運動による神経保護のメカニズムをさらに検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,運動の強度に関係なく,脳梗塞発症前に継続した運動を行うことで,神経栄養因子であるBDNFやMKの発現量が増加し,神経保護作用に作用していることを示した。この結果は予防医学分野における理学療法効果のメカニズムの解明に貢献できると考えられる。