第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学3

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0920] インスリン分泌不全を呈した非肥満型2型糖尿病モデルラットの耐糖能低下に対する持久運動によるクエン酸合成酵素活性の改善の影響と熱ストレスタンパク質の影響

吉川まどか1, 田中雅侑2, 森藤武2,3, 近藤浩代4, 石原昭彦5, 前重伯壮2, 藤野英己2 (1.神戸大学医学部保健学科, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.大阪行岡医療大学医療学部, 4.名古屋女子大学家政学部食物栄養学科, 5.京都大学大学院人間・環境学研究科)

Keywords:非肥満型2型糖尿病, HSP72, 骨格筋

【はじめに,目的】

2型糖尿病は,インスリン分泌低下と末梢器官におけるインスリン抵抗性を呈することで高血糖,耐糖能異常を生じる。インスリンによる糖取り込みは骨格筋で最も多く行われるため,骨格筋におけるインスリン抵抗性の改善は2型糖尿病の治療や予防に欠かせない。骨格筋のインスリン感受性の向上には,持久運動が効果的であるとされ,骨格筋におけるミトコンドリアに関連した酵素活性の亢進や高酸化線維の増加が関与している。一方で,近年,温熱刺激によって発現が誘導されるヒートショックプロテイン(HSP)72が肥満型2型糖尿病骨格筋のインスリン感受性の改善に関与していると報告されている。さらに,HSP72は運動によっても発現が誘導されることが報告され,肥満型2型糖尿病において運動によるHSP72の発現を介してインスリン感受性が改善された報告もある。このように運動がミトコンドリア機能の向上やHSP72の誘導を介し2型糖尿病に対して有効であることが多数報告されているが,その多くが肥満を伴う2型糖尿病であり,日本人に多い非肥満型2型糖尿病における検証は十分ではない。非肥満型2型糖尿病における耐糖能異常には,インスリン分泌不全による影響が大きいとされているが,骨格筋におけるミトコンドリア機能の向上やHSP72の発現誘導によりインスリン感受性を向上させることで,非肥満型2型糖尿病による耐糖能異常や高血糖の改善が期待できる。そこで,非肥満型2型糖尿病ラットに対して持久運動が骨格筋におけるミトコンドリア活性及びHSP72の発現誘導に与える影響を検証した。
【方法】

実験には11週齢のSprague-Dawley(SD)ラットとSpontaneously diabetic torii(SDT)ラットを用い,SDラットを通常飼育群(Con群)と運動群(Ex群)に区分し,SDTラットも通常飼育群(Db群)と運動群(DbEx群)に区分した。Ex群とDbEx群にはトレッドミル走行(血中乳酸値~2mmol/l)を週5回,14週間実施し,運動開始14週後(25週齢),12時間絶食後に深麻酔下で採血し,HbA1c,血糖値,血清インスリン値を測定した。耐糖能の指標として糖負荷試験(OGTT)を実施し,採血後にヒラメ筋を摘出した。筋サンプルで凍結切片を作製し,ATPase染色(pH4.2)を施して筋線維タイプ分布を測定した。酸化的酵素活性の指標にクエン酸合成酵素(CS)活性を測定し,HSP72の発現量をウェスタンブロッティング法により測定した。群間比較は一元配置分散分析及びTukey検定を行い,有意水準を5%とした。
【結果】

空腹時血糖値,HbA1cはCon群と比較してDb群で有意に高値を示し,Db群と比較してDbEx群が有意に低値を示した。血清インスリン値は,Con群と比較し,Db,DbEx群で有意に低値を示したが,Db群とDbEx群間に有意差は認められなかった。OGTT曲線化面積は,Con群と比較してDb群及びDbEx群で有意に高値を示したが,Db群と比較してDbEx群では有意に低値を示した。ATPase染色により算出した高酸化筋線維の割合は各群間で有意差を認めなかったが,Db群で低下してDbEx群で増加する傾向にあった。CS活性はCon群と比較してDb群が有意に低値を示し,Db群と比較してDbEx群が有意に高値を示した。HSP72の発現量は,Con群とDb群に有意差を認めなかったが,Con群とEx群,Db群とDbEx群間で有意に差が認められた。
【考察】

本研究では非肥満型2型糖尿病に対して長期間の持久運動を実施し,ヒラメ筋のCS活性,HSP72発現の増加,空腹時血糖値,HbA1c低下の結果から耐糖能を改善することを明らかにした。SDTラットが発症する非肥満型2型糖尿病はインスリン分泌不全とインスリン抵抗性が特徴であり,本研究の血清インスリン値の結果から運動介入の有無に関わらずSDTラットではインスリン分泌不全であったと考えられる。一方,持久運動による介入を実施したSDTラットでは空腹時血糖値,HbA1c,耐糖能の改善があったため,SDTラットでは持久運動によりインスリン抵抗性が緩和し糖代謝が改善したと考える。インスリン抵抗性の緩和は持久運動によるCS活性増加が関与したと考えられ,高酸化線維割合の変化も関与したと推察される。また,HSP72の増加がCS活性の低下を抑制することが報告があり,本研究でも運動によるHSP72の増加がCS活性の低下を抑制したのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
インスリン分泌不全にある非肥満型2型糖尿病で,持久運動が骨格筋のインスリン抵抗性を改善し得ることを科学的に実証した点で理学療法研究として高い意義がある。