[P3-A-0940] 下腿三頭筋に対するストレッチング効果の検証
―ジャンプ動作,筋力,潜時に及ぼす影響について―
Keywords:ストレッチング, 下腿三頭筋, 垂直跳び
【はじめに】スポーツをするにあたって,ウォーミングアップを行う際のストレッチングは広く浸透しており,臨床でも,身体諸機能を正常に保つうえで重要な治療手段の一つとして頻繁に実施される。ストレッチングには,筋力低下が起こるとされるスタティックストレッチング(以下,SS)と,筋力低下が少ないとされる動的ストレッチングとして,ダイナミックストレッチング(以下,DS)がある。大腿四頭筋に対するDSとSSのストレッチング効果に関しては種々の報告がなされているが,下腿三頭筋に対するこれらのストレッチング効果に対する報告はほとんどみられていない。本研究では,下腿三頭筋に対するストレッチングがジャンプ動作に及ぼす影響を検証し,それらに関連すると考えられる諸機能からの検討を行った。
【方法】研究協力者(以下,協力者)は,健常大学生14名とした。DSは,長座位にて,足関節底屈位で足背にThera-Bandをベッド脚からかけ,60回/分のペースで足関節背屈運動を20回行わせた。SSは,背臥位にて膝関節伸展位で足関節背屈角度を測定し,測定した背屈角度にて傾斜台で2分間の立位を取らせた。各ストレッチング介入後,垂直跳び,足関節底屈筋力,伸張反射の潜時を測定した。垂直跳びは,デジタル垂直跳び測定器を用い協力者に全力で真上に飛ぶよう指示し,2回の測定を行った。足関節底屈筋力は,足底を壁に向けた長座位とし,足関節中間位で足底から中足骨遠位部にハンドヘルドダイナモメータを当て測定した。また,潜時測定は,協力者の下腿1/3をベッド端から出した腹臥位にし,下腿三頭筋に伸張刺激を加え行った。伸張刺激は,中足骨遠位部の足底にフットスイッチをテープで固定し,点滴棒にたらした1kgの重錘を振り子のようにフットスイッチに当て加えた。その際,協力者の先入観を防ぐためタイミングを教えずに刺激を加えた。フットスイッチに刺激が加わった時点から筋収縮が起こるまでの潜時時間を,利き足の腓腹筋内側頭および外側頭,ヒラメ筋に皮膚処理を行った後に電極を貼付し,表面筋電図を用いmmsec単位で抽出した。垂直跳びおよび足関節底屈筋力の値は,2回の測定の最高値とした。測定は,週3回,3週間かけ1週目はストレッチングなし(non stretching:以下,NS),2週目はDS,3週目はSSの順序で行った。統計解析はIBM SPSS Statistics19を使用し,垂直跳び,足関節底屈筋力,潜時をNS群,DS群,SS群の3群間で反復測定による1元配置の分散分析を行い,多重比較はBonferroni法での比較を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】垂直跳び距離は,NS群に比しDS群で上昇しSS群で減少を示し,DS群とSS群間で有意な差を認めたが,NS群とDS群においては有意な差を認めなかった(p<0.05)。足関節底屈筋力は,NS群に比しDS群は増大しSS群は減少を示した。また,DS群に比しSS群は減少を示し,全てにおいて有意な差を認めた(p<0.05)。次に,潜時時間は,すべての筋においてNS群に比しDS群で有意に短縮を認めた(p<0.05)。SS群は,DS群およびNS群に比し潜時の遅延を認めたが,統計学的に有意な差は認めなかった。
【考察】NS群に比しDS群の筋力が増加した要因として,拮抗筋の収縮を行いながら相反抑制を用いて反復的に伸長刺激を与えたことで,筋温が上昇し筋の循環が活性化されたこと,また筋の粘弾性の低下により筋の収縮が滑らかになったことが考えられた。さらに,NS群に比しDS群の潜時時間の短縮に関しても,筋温が上昇し神経伝達速度が速くなり,伸張反射の閾値が低下したと考えた。一方,NS群に比しSS群の筋力が低下した要因は,下腿三頭筋の持続伸長によりゴルジ腱器官の自己防御抑制が働き,筋を弛緩させ収縮を抑制したためと考えた。伸張反射の潜時に関しては下腿三頭筋における本研究では有意な差を示すことができなかった。これは,協力者のSS直後の伸張反射に個人差が大きかったことが原因ではないかと推察した。これらの要因がDSでは垂直跳び距離の上昇を,SSでは低下を示したと考察する。
【理学療法学研究としての意義】本研究より垂直跳びというパフォーマンス向上において,DSがより高い能力を引き出すことが示唆された。一方,SSは,筋出力の低下,潜時延長によりパフォーマンスの低下を引き起こすと考えられ,スポーツや臨床場面においてはクールダウンとして行うことが良いと考えられる。これに対し,筋出力を上昇させ,潜時の短縮によりパフォーマンスを向上させるDSは,ウォーミングアップとして行うことでより高い能力を発揮することができることが示唆された。
【方法】研究協力者(以下,協力者)は,健常大学生14名とした。DSは,長座位にて,足関節底屈位で足背にThera-Bandをベッド脚からかけ,60回/分のペースで足関節背屈運動を20回行わせた。SSは,背臥位にて膝関節伸展位で足関節背屈角度を測定し,測定した背屈角度にて傾斜台で2分間の立位を取らせた。各ストレッチング介入後,垂直跳び,足関節底屈筋力,伸張反射の潜時を測定した。垂直跳びは,デジタル垂直跳び測定器を用い協力者に全力で真上に飛ぶよう指示し,2回の測定を行った。足関節底屈筋力は,足底を壁に向けた長座位とし,足関節中間位で足底から中足骨遠位部にハンドヘルドダイナモメータを当て測定した。また,潜時測定は,協力者の下腿1/3をベッド端から出した腹臥位にし,下腿三頭筋に伸張刺激を加え行った。伸張刺激は,中足骨遠位部の足底にフットスイッチをテープで固定し,点滴棒にたらした1kgの重錘を振り子のようにフットスイッチに当て加えた。その際,協力者の先入観を防ぐためタイミングを教えずに刺激を加えた。フットスイッチに刺激が加わった時点から筋収縮が起こるまでの潜時時間を,利き足の腓腹筋内側頭および外側頭,ヒラメ筋に皮膚処理を行った後に電極を貼付し,表面筋電図を用いmmsec単位で抽出した。垂直跳びおよび足関節底屈筋力の値は,2回の測定の最高値とした。測定は,週3回,3週間かけ1週目はストレッチングなし(non stretching:以下,NS),2週目はDS,3週目はSSの順序で行った。統計解析はIBM SPSS Statistics19を使用し,垂直跳び,足関節底屈筋力,潜時をNS群,DS群,SS群の3群間で反復測定による1元配置の分散分析を行い,多重比較はBonferroni法での比較を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】垂直跳び距離は,NS群に比しDS群で上昇しSS群で減少を示し,DS群とSS群間で有意な差を認めたが,NS群とDS群においては有意な差を認めなかった(p<0.05)。足関節底屈筋力は,NS群に比しDS群は増大しSS群は減少を示した。また,DS群に比しSS群は減少を示し,全てにおいて有意な差を認めた(p<0.05)。次に,潜時時間は,すべての筋においてNS群に比しDS群で有意に短縮を認めた(p<0.05)。SS群は,DS群およびNS群に比し潜時の遅延を認めたが,統計学的に有意な差は認めなかった。
【考察】NS群に比しDS群の筋力が増加した要因として,拮抗筋の収縮を行いながら相反抑制を用いて反復的に伸長刺激を与えたことで,筋温が上昇し筋の循環が活性化されたこと,また筋の粘弾性の低下により筋の収縮が滑らかになったことが考えられた。さらに,NS群に比しDS群の潜時時間の短縮に関しても,筋温が上昇し神経伝達速度が速くなり,伸張反射の閾値が低下したと考えた。一方,NS群に比しSS群の筋力が低下した要因は,下腿三頭筋の持続伸長によりゴルジ腱器官の自己防御抑制が働き,筋を弛緩させ収縮を抑制したためと考えた。伸張反射の潜時に関しては下腿三頭筋における本研究では有意な差を示すことができなかった。これは,協力者のSS直後の伸張反射に個人差が大きかったことが原因ではないかと推察した。これらの要因がDSでは垂直跳び距離の上昇を,SSでは低下を示したと考察する。
【理学療法学研究としての意義】本研究より垂直跳びというパフォーマンス向上において,DSがより高い能力を引き出すことが示唆された。一方,SSは,筋出力の低下,潜時延長によりパフォーマンスの低下を引き起こすと考えられ,スポーツや臨床場面においてはクールダウンとして行うことが良いと考えられる。これに対し,筋出力を上昇させ,潜時の短縮によりパフォーマンスを向上させるDSは,ウォーミングアップとして行うことでより高い能力を発揮することができることが示唆された。