第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

運動生理学2

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0946] 末梢神経電気刺激が脳内出血モデルラットの損傷部位に与える影響

深町翔平1, 申敏哲2, 行平崇3 (1.社会医療法人社団熊本丸田会熊本リハビリテーション病院, 2.熊本保健科学大学保健科学研究科, 3.帝京大学福岡医療技術学部理学療法学科)

キーワード:末梢神経電気刺激, 脳出血モデルラット, アポトーシス

【はじめに,目的】
近年,電気刺激療法の新たな手法として経頭蓋直流電気刺激や経頭蓋磁気刺激など脳への電気刺激により運動機能の回復を促すニューロリハビリテーションが注目されている。しかし,末梢神経電気刺激(PNS)による中枢神経への影響,特に脳損傷部位の生化学的変化に関する報告は少ない。そこで,本研究では脳出血モデルラットを作製し,上肢にPNSを与え行動学的手法および免疫学的手法を用いて解析することで,PNSによる中枢神経損傷に与える影響を検討することを目的とした。
【方法】
雄のウィスター系ラットの右線条体に生理食塩水,コラーゲナーゼをそれぞれ注入してモデルラットを作成し,Sham群(n=5),Sham+PNS群(n=6),Hemorrhage群(n=6),Hemorrhage+PNS群(n=7)に分け,PNS群にはモデル作成翌日より2週間のPNSを施行した。運動機能の評価をするために手術前1週間に2回と手術後1,7,14日目にGrip testを施行した。Grip testは電気刺激による筋疲労に配慮しPNS前に施行した。また2週間のPNSを施行後,脳内への影響を評価するため免疫学的手法を用いて損傷範囲,アポトーシスの増減を比較検討する為,caspase-3,TUNEL陽性細胞を分析した。
【結果】
Hemorrhage群と比較して,Hemorrhage+PNS群において有意な握力の回復,損傷面積の狭小化が認められた。握力に関してはHemorrhage群,Hemorrhage+PNS群ではコラーゲナーゼ注入前55.1±5.5gであったが,注入1日後で急激な握力低下を示した。Hemorrhage群では14日後でも37.4±5.1gと有意な低下が認められたが,PNSを施行したHemorrhage+PNS群では14日後46.7±5.3gで握力の低下から有意な改善が認められた(P<0.05)。また,Nissl染色を用いた損傷範囲ではHemorrhage群にて62.9±6.5%の損傷が確認され,Hemorrhage+PNS群では44.9±3.2%とHemorrhage群と比べ有意な損傷範囲の縮小が見られた(P<0.01)。一方,アポトーシス細胞の分析ではcaspase-3陽性細胞の数はSham群10.9±0.9とSham+PNS群9.8±0.7で有意な変化はなかった。しかし,Hemorrhage群58.1±3.2でSham群,Sham+PNS群と比較し有意な増加を示し(P<0.001),Hemorrhage+PNS群では47.1±3.3でHemorrhage群と比較し有意な減少が見られた(P<0.05)。また,TUNEL陽性細胞の数はSham群9.6±1.0とSham+PNS群10.5±1.1で有意な変化は見られなかった。一方,Hemorrhage群44.4±5.2でSham群,Sham+PNS群と比較し有意な増加が見られ(P<0.001),Hemorrhage+PNS群30.8±3.5ではHemorrhage群と比較し有意な減少が見られた(P<0.05)。
【考察】
本研究ではPNSの実施により線条体脳損傷部位でのcaspase-3(細胞死因子)の発現が抑制され,TUNEL陽性細胞が減少し,アポトーシスを抑制することが認められた。その結果,脳出血損傷範囲の狭小化を引き起こし,上肢握力低下の改善に影響を与えた可能性が示唆された。今回の研究に用いたPNS強度は,運動神経・感覚神経の両者を刺激できる強度を設定したため,種々の神経経路を介して脳の損傷部位に影響を与えたものと考えられる。先行研究よりPNSがIL-6の濃度上昇を惹起しその神経保護作用によってアポトーシスを抑制した可能性やPNSが出血による二次的脳虚血で活性化されたKATPチャネルをさらに刺激し,細胞死の転写因子タンパク質の発現を抑制することでアポトーシスをさらに抑制した可能性が考えられる。本研究では先行研究を基に周波数やパルス幅などのPNS設定をおこなった為,今後は脳出血によるアポトーシス抑制に対して最も効果のある周波数やパルス幅,実施時間,刺激回数,また治療期間などの検討が必要である。他にもPNSによる刺激伝導路の解明,アポトーシス抑制をきたした要因の解明も必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
臨床治療において,PNSを脳出血患者に対し効果的に応用することが可能となる一助となると考える。