[P3-A-0981] ヒール高の違いが立位姿勢および歩行時の骨盤角度に及ぼす影響
キーワード:ハイヒール, 姿勢分析, 腰痛
【はじめに,目的】
ファッションや仕事上の理由でヒール靴を着用している女性は多い。ハイヒール靴着用は,ヒールを上げることで腰椎の前彎が過度に増大し,腰痛を誘発する可能性が報告されているが,立位姿勢では脊柱彎曲角に影響を与えるとはいえないという報告や,逆に腰椎の前彎が減少するといった報告もあり,統一した見解はなされていない。また,歩行に関しては,ハイヒール着用で骨盤が後傾したとの報告はあるが,ヒール高を変化させて検討した研究は見当たらない。さらに,ヒール靴への慣れによる影響を検討した報告も見当たらない。今回,ヒール靴常用者と非常用者の立位姿勢の違いおよび歩行時のヒール高の違いによる体幹・骨盤,下肢の関節角度や筋活動への影響を明らかにすることを目的に運動学ならびに運動力学的分析を行うとともに,腰痛との関連性について検討した。
【方法】
対象は整形外科的疾患や中枢神経疾患の既往のない健常成人女性で,ヒール靴常用群10名(年齢:21.3±0.8歳,身長:159.0±2.7cm,足長:22.9±1.1cm),非常用群10名(年齢:21.5±0.5歳,身長:160.9±5.3cm,足長:22.8±0.9cm)の計20名である。常用群と非常用群の規定は,週の3日以上で5cm以上のヒール靴を履いている者を常用群,それ以外の者を非常用群とした。ヒール靴は,ヒール高3cm,5cm,7cmのパンプスを使用した。立位姿勢および歩行時の運動学・運動力学的分析には,三次元動作解析装置(VMS社製,VICON-MX)と4台の床反力計(KISTLER社製)を用い,下肢関節,体幹・骨盤の角度,関節モーメントを測定した。立位姿勢の評価は裸足にて計測を行い,歩行は,裸足と,高さの異なる3種類のパンプス装着の合計4課題を設定した。三次元動作解析にはPlug-in-gait全身モデルを用い,身体の35点にマーカーを貼付した。三次元計測のサンプリング周波数は50Hzで,床反力計測のサンプリング周波数は1000Hzとした。
解析は立位時の各関節角度および歩行中の各関節最大角度と最大モーメントを対象とした。正規性の検定後,ヒール高の違いによる比較は反復測定分散分析および多重比較を,常用群と非常用群の比較はt検定またはマンホイットニーのU検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
立位姿勢では,ヒール靴常用群は非常用群と比較し,体幹の伸展(骨盤に対する胸椎軸の角度)が有意に大きく,膝関節では屈曲,足関節では背屈角度の増加傾向がみられた。歩行時においても,常用群は非常用群と比較して全ての条件で体幹伸展角度が有意に高い値を示した。また,非常用群ではヒール高が高くなる程,膝関節屈曲角度の増加,膝関節伸展モーメントの増加がみられ,常用群では体幹伸展角度の減少,骨盤傾斜角度の減少がみられた。
【考察】
ヒール靴常用群では,立位時および歩行時に体幹の伸展角度の増大が認められた。これは,立位や歩行において,ヒール靴着用により前足部への圧力が高まるという報告があることから,常用群ではヒール靴着用時の前足部への荷重が習慣化され,裸足時においても前方に荷重する傾向が高まる可能性が考えられた。そのため,骨盤の前傾や前方移動が生じ,それにより前方偏位した重心を後方に戻すための代償として,体幹の伸展角度が大きくなるのではないかと考えられる。歩行におけるヒール靴着用による影響に関しては,ヒールの高さが増すに従い,非常用群では膝関節屈曲角度と膝伸展モーメントの増加がみられ,常用群では体幹伸展角度の減少,骨盤前傾角度の減少がみられた。踵接地後の膝関節屈曲と足関節底屈は衝撃吸収として作用するとされており,ヒール靴着用による踵接地時の足底屈運動範囲の低下は,足関節での衝撃吸収を困難にする。そのため,特に非常用者では,膝関節の屈曲を増加させることで膝関節での衝撃吸収を高めている可能性が示唆された。一方,常用群では外観上の問題などで膝を伸展させて歩行しようとするため,体幹伸展角度の減少や骨盤前傾角度の減少がみられたのではないかと考えられた。
本研究結果から,常用群と非常用群では裸足時の立位姿勢に違いがあり,常用者では体幹の伸展が大きく,裸足歩行において骨盤前傾が強いことも加え,これらが腰痛をもたらす一因となっているのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ヒール靴常用者の立位や歩行中の姿勢の特徴を明らかにした。ヒール靴常用者では裸足時に体幹の伸展および骨盤の前傾が強まり,このことが腰痛をもたらす一因となる可能性が示唆された。
ファッションや仕事上の理由でヒール靴を着用している女性は多い。ハイヒール靴着用は,ヒールを上げることで腰椎の前彎が過度に増大し,腰痛を誘発する可能性が報告されているが,立位姿勢では脊柱彎曲角に影響を与えるとはいえないという報告や,逆に腰椎の前彎が減少するといった報告もあり,統一した見解はなされていない。また,歩行に関しては,ハイヒール着用で骨盤が後傾したとの報告はあるが,ヒール高を変化させて検討した研究は見当たらない。さらに,ヒール靴への慣れによる影響を検討した報告も見当たらない。今回,ヒール靴常用者と非常用者の立位姿勢の違いおよび歩行時のヒール高の違いによる体幹・骨盤,下肢の関節角度や筋活動への影響を明らかにすることを目的に運動学ならびに運動力学的分析を行うとともに,腰痛との関連性について検討した。
【方法】
対象は整形外科的疾患や中枢神経疾患の既往のない健常成人女性で,ヒール靴常用群10名(年齢:21.3±0.8歳,身長:159.0±2.7cm,足長:22.9±1.1cm),非常用群10名(年齢:21.5±0.5歳,身長:160.9±5.3cm,足長:22.8±0.9cm)の計20名である。常用群と非常用群の規定は,週の3日以上で5cm以上のヒール靴を履いている者を常用群,それ以外の者を非常用群とした。ヒール靴は,ヒール高3cm,5cm,7cmのパンプスを使用した。立位姿勢および歩行時の運動学・運動力学的分析には,三次元動作解析装置(VMS社製,VICON-MX)と4台の床反力計(KISTLER社製)を用い,下肢関節,体幹・骨盤の角度,関節モーメントを測定した。立位姿勢の評価は裸足にて計測を行い,歩行は,裸足と,高さの異なる3種類のパンプス装着の合計4課題を設定した。三次元動作解析にはPlug-in-gait全身モデルを用い,身体の35点にマーカーを貼付した。三次元計測のサンプリング周波数は50Hzで,床反力計測のサンプリング周波数は1000Hzとした。
解析は立位時の各関節角度および歩行中の各関節最大角度と最大モーメントを対象とした。正規性の検定後,ヒール高の違いによる比較は反復測定分散分析および多重比較を,常用群と非常用群の比較はt検定またはマンホイットニーのU検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
立位姿勢では,ヒール靴常用群は非常用群と比較し,体幹の伸展(骨盤に対する胸椎軸の角度)が有意に大きく,膝関節では屈曲,足関節では背屈角度の増加傾向がみられた。歩行時においても,常用群は非常用群と比較して全ての条件で体幹伸展角度が有意に高い値を示した。また,非常用群ではヒール高が高くなる程,膝関節屈曲角度の増加,膝関節伸展モーメントの増加がみられ,常用群では体幹伸展角度の減少,骨盤傾斜角度の減少がみられた。
【考察】
ヒール靴常用群では,立位時および歩行時に体幹の伸展角度の増大が認められた。これは,立位や歩行において,ヒール靴着用により前足部への圧力が高まるという報告があることから,常用群ではヒール靴着用時の前足部への荷重が習慣化され,裸足時においても前方に荷重する傾向が高まる可能性が考えられた。そのため,骨盤の前傾や前方移動が生じ,それにより前方偏位した重心を後方に戻すための代償として,体幹の伸展角度が大きくなるのではないかと考えられる。歩行におけるヒール靴着用による影響に関しては,ヒールの高さが増すに従い,非常用群では膝関節屈曲角度と膝伸展モーメントの増加がみられ,常用群では体幹伸展角度の減少,骨盤前傾角度の減少がみられた。踵接地後の膝関節屈曲と足関節底屈は衝撃吸収として作用するとされており,ヒール靴着用による踵接地時の足底屈運動範囲の低下は,足関節での衝撃吸収を困難にする。そのため,特に非常用者では,膝関節の屈曲を増加させることで膝関節での衝撃吸収を高めている可能性が示唆された。一方,常用群では外観上の問題などで膝を伸展させて歩行しようとするため,体幹伸展角度の減少や骨盤前傾角度の減少がみられたのではないかと考えられた。
本研究結果から,常用群と非常用群では裸足時の立位姿勢に違いがあり,常用者では体幹の伸展が大きく,裸足歩行において骨盤前傾が強いことも加え,これらが腰痛をもたらす一因となっているのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ヒール靴常用者の立位や歩行中の姿勢の特徴を明らかにした。ヒール靴常用者では裸足時に体幹の伸展および骨盤の前傾が強まり,このことが腰痛をもたらす一因となる可能性が示唆された。