第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

人工膝関節

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0985] 人工膝関節全置換術後の屈曲拘縮に対するスタティックストレッチングの効果

吉田宏史, 金並将志, 河野正豊, 大野拓哉, 谷水英子, 佐々木洋人, 高岡達也, 定松修一 (松山赤十字病院)

Keywords:人工膝関節全置換術, 屈曲拘縮, 介入研究

【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(TKA)後の膝関節屈曲拘縮(屈曲拘縮)の残存は,歩容や歩行エネルギー効率(畠中,1996),コンポーネントの耐久性(萩原,2008),疼痛(原藤,2014)に影響すると報告されている。このTKA後の屈曲拘縮の原因としては,術前や非術側の伸展可動域,脛骨コンポーネント後傾角,性別が挙げられている(高山,2010)。また,術後の腫脹や疼痛に起因した膝屈筋群の防御性収縮(岡西,2008)や,術前の膝内反・屈曲位からのアライメント修正を原因としたハムストリングスや腓腹筋の伸張性低下も考えられている。屈曲可動域に関する理学療法との関係は述べられているが,屈曲拘縮に対する理学療法の効果については報告が少ない。そこで本研究の目的は,術後早期からのスタティックストレッチング(SS)がTKA後の屈曲拘縮に及ぼす効果と歩行や疼痛に与える影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2014年6月~同年9月に,一施設にてTKAを施行した30名のうち,術前歩行が屋内独歩自立レベル以上で膝関節以外の整形外科的疾患を伴わない患者とした。被検者は無作為に介入群(通常の理学療法に加え,痛みが生じる直前の膝関節角度で1分SS-1分休息×5回を午前午後1回ずつ実施)と対照群(通常の理学療法を実施)に割付けた。介入期間は術翌日から4週間,評価日は術前日,術後2週(2週),術後4週(4週)とした。膝関節伸展角度の測定はゴニオメーターを使用,伸張強度は各測定で一定となるようμTasF-1(アニマ社製)を使用して60Nとし,2人の理学療法士が3回ずつ測定し平均値を求めた。なお,伸張強度は本研究開始前に5名のTKA術後2週の患者に対し同様の手順を実施し,疼痛出現との関係から60Nに設定した。測定・介入は,対象者の肢位を仰臥位とし,膝蓋骨直上に対し伸展方向へ力を加えた。また,補正重複歩長(重複歩長/(身長/平均身長)),歩行速度,日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(JKOM),歩行時と伸展最終域の疼痛評価をVisual Analogue Scaleにて測定した。さらに,Kellgren-Lawrence分類,Femoro Tibial Angle(FTA),人工関節使用機種,脛骨コンポーネント設置角を,また合併症の評価として創トラブルの有無,C-Reactive protein(CRP)を評価した。統計解析は,術前・2週・4週の比較には一元配置分散分析後にBonferroniの多重比較検定を使用し,両群間の比較には,Mann-WhitneyのU検定を用いた。
【結果】
基準を満たした介入群12名,非介入群12名(男性3名,女性21名:年齢74.9±6.7歳)を解析対象とした。術前の両群の比較では,基本的属性を含め全ての項目において有意差はなかった。術側膝伸展角度(対照群・介入群)は,術前-9.0±7.2・-7.7±7.1,2週-9.9±3.6・-4.1±3.4,4週-7.9±3.7・-1.9±2.2であった。術側膝伸展角度の群間比較では,介入群が2週,4週で有意に高値を示した(p<0.01)。また群内比較では,介入群は術前・2週,術前・4週で有意差を認めた(p<0.05)が,対照群で有意差はなかった。歩行速度,重複歩長における群間比較は,両者とも2週,4週で有意差がなかった。疼痛の群間比較は,歩行時で2週,4週ともに有意差がなく,伸展時で2週,4週ともに介入群が有意に低値を示した(p<0.05)。非術側伸展可動域,CRP,JKOM,創トラブルにおける両群の比較では,2週,4週ともに有意差がなかった。また,術後FTA,脛骨コンポーネント設置角,使用機種に関しても有意差はなかった。
【考察】
今回の結果から,術後早期からのSSが屈曲拘縮改善に対して一定の効果があると考える。TKA後の屈曲拘縮の原因として膝関節周囲の筋腱の伸張性低下も影響していると考えられているが,ハムストリングスに関して5分間のSSによるスティフネスの改善が報告されており(中村,2014),本研究の結果を導く機序として推察される。歩行に関して,重複歩長は,踵接地時や立脚後期での膝関節伸展角度に影響を受けるとされている(中村,2003)。しかし,術後早期においては術前に学習した異常歩行パターンの残存や手術侵襲により十分な筋力発揮が出来ないとの報告があり(畠中,1994),屈曲拘縮を改善するだけでは,術後早期からの動作改善に結びつかないと考えられた。さらに,立脚相における膝屈曲位は,伸展筋群への負荷を増大させると言われており,歩行時痛に差がなかった結果も,歩行の改善が認められなかった事による可能性がある。しかし,今回の研究では検証を行っていないため不明瞭である。
【理学療法学研究としての意義】
THA後の屈曲拘縮に関して,早期からのSSの有効性を示せたことは,今後の理学療法を展開する上で意義がある。