第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

人工膝関節

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0988] 人工膝関節全置換術後早期における歩行時膝前面痛の発生要因

田中友也1, 美崎定也1, 杉本和隆2 (1.苑田会人工関節センター病院リハビリテーション科, 2.苑田会人工関節センター病院整形外科)

キーワード:人工膝関節全置換術, 膝前面痛, 術後理学療法

【目的】
近年,人工膝関節全置換術(以後,TKA)の進歩により,術後から退院までかかる入院期間が短縮してきている。そのため,入院期間の限られた中で,理学療法士は効率の良い介入方法を選択し,早期から患者の回復に努めなくてはならない。当院では,創部治癒や合併症などの観点から,入院期間3週でのクリニカルパスを用いているが,退院時に術後の膝痛を残存した状態で退院する患者が散見される。先行研究においては,TKA後患者における膝前面痛に関して多くの報告がある。そのため,膝前面痛を発生させる要因の分析を行うことで効率的な評価と治療が選択できると考えられる。
本研究の目的は,術後3週経過したTKA後患者における,歩行時の膝前面痛を発生させる要因を探ることである。

【方法】
対象者は,2013年6月から2014年2月に,当院で初回片側または両側TKAを受けた症例とした。除外基準は,神経筋疾患,認知症,他関節への整形外科手術,TKA再置換術患者,異常な炎症症状や感染症状がある者とした。調査項目は基本属性(年齢・BMI),CRP値,歩行時の疼痛部位,Pain Catastrophizing Scale(以後,PCS),身体機能(膝関節屈曲・伸展可動域,足関節背屈・底屈可動域,等尺性膝伸展筋力,等尺性股外転筋力,オーバーテスト,トーマステスト,ハムストリングス短縮テスト,機能的脚長)とした。疼痛部位の測定は,歩容形式を独歩またはT字杖歩行とし,Photographic Knee pain map(以後,PKPM)(Elson, 2011)を使用した。PKPMとは,対象者が膝の写真に直接疼痛部位を書き込み,それを膝前面9部位と,後面7部位に分かれたテンプレートを用いて,疼痛部位を区分けする評価指標である。PKPMにおいて外側関節ライン,内側関節ライン,膝蓋骨外側,膝蓋骨内側に疼痛を訴えた場合に膝前面痛と定義した。測定は術後3週目に実施した。
統計解析は,膝前面痛の有無より疼痛有り群と疼痛無し群に分け,各変数の群間比較にX2検定,t検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%とした。また,従属変数を膝前面痛の有無,独立変数を群間比較により有意差が見られた項目とし,ロジスティック回帰分析(変数増加法)を用いて,もっとも強い要因を探った。有意水準は20%とした。統計解析にはSPSS12.0Jを用いた。
【結果】
調査は,30名(男性1名,女性29名),51膝(変形性膝関節症:48膝,リウマチ性膝関節炎:3膝)に対して行った。対象者の基本属性は,平均年齢±標準偏差72.0±6.0歳,平均BMI±標準偏差26.5±4.0kg/m2となった。膝前面痛を訴えた対象膝数は24膝となった。
群間比較の結果,BMI(疼痛あり群:平均27.9kg/m2,疼痛なし群:平均25.4kg/m2,p<0.05),PCS(疼痛あり群:26.1点,疼痛なし群:12.3点,p<0.01),膝伸展可動域(疼痛あり群:-5.2°,疼痛なし群:-3.0°,p<0.05),等尺性股外転筋力(疼痛あり群:0.34Nm/kg,疼痛なし群:0.51Nm/kg,p<0.01),トーマステスト(疼痛あり群:陽性15膝,陰性9膝,疼痛なし群:陽性7膝,陰性20膝,p<0.01)に有意差が見られた。
ロジスティック回帰分析の結果,膝前面痛の有無に影響する変数として,膝伸展可動域,等尺性股外転筋力,PCSが選択された(モデルX2検定でp<0.01)。各変数のオッズ比は膝伸展可動域が1.18(95%信頼区間0.99~1.52,p<0.20),等尺性股外転筋力が1.5×10の3乗(95%信頼区間3.3~6.4×10の5乗,p<0.05),PCSが0.99(95%信頼区間0.88~1.00,p<0.10)であった。このモデルのHosmer-Lemeshow検定の結果は,p=0.19で適合していることが示され,予測値と実測値の判別的中率は82.4%であった。
【考察】
TKA後早期における歩行時の膝前面痛は,身体機能が低下し,痛みに関する破局的思考が強い患者に見られた。TKA後の理学療法において,膝関節機能だけではなく,股関節機能にも視点を向け介入を進める必要があると考えられる。また,生活習慣の指導や術後経過に伴う疼痛の変化やそれに対する対策などを指導し,自己効力感を向上させることで,TKA後における膝前面痛を改善できるのではないかと考えられる。
【理学療法研究としての意義】
TKA後早期の歩行時痛に関して,疼痛部位を特定させ,その要因を探ることによって,TKA後理学療法における評価・治療の一助となる。