第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

人工膝関節

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0991] 人工膝関節置換術前後における安静時痛・歩行時痛の変化と身体・精神機能の関係

―術後歩行時痛には破局的思考が影響する―

板東正記1, 藤岡修司1, 小林裕生1, 広瀬和仁1, 井窪文耶1, 森田伸1, 田仲勝一1, 伊藤康弘1, 加地良雄2, 山本哲司2 (1.香川大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.香川大学医学部整形外科)

Keywords:変形性膝関節症, 破局的思考, 疼痛

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)の一般的な手術療法としての人工膝関節置換術は年間5万件以上施行されている。人工膝関節置換術の術後成績は安定しており,疼痛の改善や生活の質の向上が見込まれる。しかし,臨床の場面では歩行等の動作時痛が残存する症例を経験する。先行研究でも,ある一定例は術後遅延痛の経過をたどると報告されている。特に理学療法士の関わる機会が多い入院中における術後痛の存在は,術後の機能回復の遅延や入院期間の長期化につながり,その後の日常生活や生活の質に影響を与える。そこで術前後における安静時痛・歩行時痛の経過を調査し,術後疼痛に影響を及ぼす身体・精神機能因子を明らかとする事を目的とした。
【方法】
対象は当院にて変形性膝関節症と診断され,人工膝関節置換術を施行された21例(平均年齢74±6.5歳,男性:4名,女性:17名,Kellgren-Lawrence分類grade IV:21例,人工膝関節全置換術:3例,人工膝関節単顆型置換術:18例)である。除外基準は他関節のOA・RA,急速破壊型関節症,神経筋疾患,精神疾患,認知症,極度の肥満(BMI>35)症例とした。
疼痛の重篤度の評価はVisual analog scale(以下,VAS)を用いて評価した。安静時・歩行時それぞれ術前と術後2週で測定した。年齢,BMIといった基本情報に加え,大腿脛骨角(以下,FTA)をカルテ情報より抽出し,身体機能として術後2週の膝伸展筋力(Nm/kg),膝関節屈曲・伸展可動域(°),歩行速度(m/sec),精神機能の認知的側面として自己効力感の評価スケールであるSelf-efficacy for Rehabilitation Outcome(以下,SER)を,心理的側面として破局的思考の評価スケールであるPain catastrophizing scale(以下,PCS)を測定した。
術前と術後2週の安静時VAS(mm)・歩行時VAS(mm)を比較するためにwilcoxonの符号付順位検定を用いた。また術後2週の安静時痛・歩行時痛と基本情報,術後2週の身体機能・心理的側面の各項目との関係を明らかにするためそれぞれspearmanの順位相関係数を用いて相関関係を算出した。各有意水準は5%未満とした。
【結果】
各々基本情報,身体機能,精神機能の結果(平均値±標準偏差,中央値:最大値-最小値)は,BMI(24.6±2.8kg/m2,24.4 kg/m2:29.5-17.9),FTA(182.0±4.4°, 181°:193-176),大腿四頭筋筋力(0.6±0.3 Nm/kg,0.5 Nm/kg:1.4-0.2),膝屈曲可動域(132.1±14.8°, 130°:165-110),膝伸展可動域(-2.6±3.0°, 0°:0--10),歩行速度(0.8±0.2 m/sec,0.8 m/sec:1.39-0.38),SER(97.2±18.1,100:119-52),PCS(15.9±7.9,17:30-3)となった。術前における疼痛は安静時VAS(4.5±7.1mm,0mm:23-0),歩行時VAS(42.2±22.1mm,39.9mm:81.3-0)であった。術後2週時における疼痛は安静時VAS(12.5±19.8mm,5.1mm:71.6-0),歩行時VAS(28.4±23.6mm,21.3mm:71.6-0)であり,安静時VAS,歩行時VAS共に有意な改善を認めなかった。術後2週時における安静時VASは各項目との間に有意な相関係数は認めなかった。術後2週時における歩行時VASとPCS総得点の項目との間に有意な相関関係を認めた(r=0.50 p=0.01)。
【考察】
術前に比べて術後2週は安静時痛・歩行時痛は改善を認めなかった。このことは術後2週という早期では疼痛の改善にばらつきが多く,手術侵襲の影響が強く残存する事が考えられた。術後2週は当院クリティカルパスにおける退院のタイミングであり,退院時には疼痛の改善が十分でない症例がいるという結果となった。疼痛が残存するという事は術後の機能回復の遅延やクリティカルパスから遅延する一要因となる事が考えられる。
術後2週の歩行時痛に影響する因子として心理的側面であるPCSが抽出された事は,身体機能だけでなく精神機能の影響が強いという結果となった。また歩行時痛のみに抽出されたことは動作における破局的思考からくる,恐怖や不安が疼痛の重篤度に影響する事が考えられた。先行研究においても破局的思考が強い症例は痛みをより強く感じるとういう報告があり,疼痛の重篤度に強く影響する事が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節置換術前後における安静時痛・歩行時痛の経過を明らかにした。クリティカルパスにおいて退院のタイミングである術後2週時では疼痛の改善は十分ではなく,術後痛が残存すれば機能回復の遅延につながるため,継続した疼痛の評価が必要であることが明らかとなった。また人工膝関節置換術後症例における疼痛の評価は身体機能だけでなく,精神機能等多方面からの評価が必要であることが明らかとなった。